日帰り勇者はチートましまし。やまなしオチなし超短編
その日は、待ちに待った大作RPGゲームの新作発売日だった。
「よし、今から向かえば開店時間ぴったりだな」
僕は、予約していたゲームを受け取りにショップに向かおうと自室のドアを開けた。
「あっ!?」
刹那、目の前が真っ白になり何も見えなくなった。いや、見えている範囲の全てが真っ白なのだろうか?
眩しさを感じて目を細めた僕の視界に、人影が入り込んだ。
「伊勢貝 ワタルさん、あなたは勇者として、とある世界を救わなければなりません」
まるで合成音のような声で、人影は話した。
「えっ……あれ、夢でも見てるのかな。やばい、ゲームの受け取りが遅れたらせっかくの休みに少しでも進めようという計画が狂う!」
「夢ではありません。わたくしはあなた達が神と呼ぶ存在。綻びが生じたとある世界を、あなたが救うのです」
「それはもう聞いたけど……夢じゃないの?」
「夢ではありませんってば。いいから早くとある世界を救ってきてください」
「なんで僕が? 僕には、他の世界を救う使命があるんです」
「それゲームですよね? こっち、別次元に存在してるちゃんとした世界ですからね!」
「だから、なんで僕が?」
「あなたが昨日、下校中に蹴り飛ばした小石が次元の狭間にクリティカルヒットして、そこから異世界に渡ってしまったノロウイルスが人格を持ち魔王として進化してしまったんです」
「なんだって!」
「ちゃんとあなたが責任を取らないと、来世で背負う業が大変な事になりますよ」
「ゴウ?」
「前世で悪いことしたツケを払わなければいけなくなるって事です。例えば一生彼女ができないとか、楽しみにしていたゲームが全部発売延期になった挙句クソゲーという悲劇から逃れなれなくなるでしょう」
「そんな恐ろしいことが……!」
「このままではかの世界が滅んでしまいます。被害が出ないうちに急いで魔王を滅ぼしてきてください」
「チートありますか?」
「もちろんです。あの世界において最強かつ万能にしておくので、スピーディーに解決してきてください」
僕はそのまま異世界に飛ばされた。
目の前に魔王がいた。視界の隅に矢印と共に「魔王」と書いてあるのでわかった。
頭に浮かんだ呪文を唱える。
「加熱魔法!次亜塩素酸ナトリウム」
魔王は一瞬で消滅した。なるほど、まさにチートだ。これがゲームのボス攻略画面だったら、クソゲーだと思うだろうけども。
ふう、と安堵のため息をついた次の瞬間、僕は自宅にいた。
思わずパチパチと瞬きをして、周りを見渡してしまう。なんの違和感もない、ありふれた日常。
「やっぱり夢だったかな?」
僕は呟いて、急いでゲームの受け取りに向かった。
向かう途中、うっかり小石を蹴飛ばしてしまったが……責任問題にならないことを祈るばかりである。