プロローグ『S級百合冒険者、無人島へ発つ。』
このサイト様では初めまして。白月如月と申します。他サイト様から知っていただいている方はご無沙汰しています。今回のお話はこちらといつものサイトの方で同時投稿してみようと言う試みの下初めて見ました。そして初めてのファンタジーです。緊張しますね。さて、細かい話は抜きにして、どうぞ百合スローライフの世界をお楽しみくださいませ。
「ルゥちゃん。準備できた?」
「あぁ、完璧だ。」
此処は魔法が生活の中に溶け込む世界。その中でも最も大きな大陸であるシュルヴィー大陸。そしてその大陸内で最も魔法が盛んに研究、開発されている国、ペルマナント王国。その国に二人の冒険者が居た。
「今日は確か国王から直々に呼ばれてるんだったよね?」
サラサラの金髪を肩まで伸ばし、髪の一部をカチューシャの様に編み込んで着飾っている彼女はクローデット=コロン。相方からはクロと呼ばれている。その小柄な体の割に豊満に実ってしまっている二つの物を隠すように、ワンピースタイプの服の上からケープを羽織り、お気に入りの杖を持って相方に問いかけた。
「そうだね、今日はヘイカ様からの直々の依頼だ。久々に良い仕事だといいね。」
黒い艶のある長髪を後ろに束ねている彼女はホコモリ=ルルと言う。クローデットとは違い、ルルの方が名前だ。ルルは普段から仕事をする時に来ている動きやすい生まれ故郷の伝統戦闘着、ミコフクを独自にアレンジした服を着こみ、自分の背丈よりも長い、これも生まれ故郷では女性が主に使う伝統的な武具である、ナギナタを手にした。
「わたしは平和な方が良いけどなぁ。」
そう話しながらクローデットがルルの手を取る。そして指を絡ませながら身を摺り寄せた。
「そしたら一杯ルゥちゃんとお話ができるじゃない?戦闘中だとそうもいかないもん。」
クローデットの精一杯の猫撫で声に、ルルは思わず吹き出し顔を背けて笑い始めた。
「あー、酷いルゥちゃん!!」
「ふふ、ごめんって。」
頬を膨らませて怒るクローデットの頭を、ルルが空いた手で撫でる。その感触にクローデットはあっという間に機嫌を取り戻した。
「さって、じゃあ行きますか。」
「うん、分かった。」
そうして二人は家を出て、王城へと歩みを進めた。
「よく来たな、ホコモリ=ルル。及びクローデット=コロンよ。」
王城に到着し、早々に謁見の間に移動させられた二人は。ペルマナント現国王に謁見していた。が、ルルの対応は謁見とは程遠い、あまりにも気さく過ぎる対応だった。
「ヘイカ様。今日の用事は何ですかっと。」
「ル、ルゥちゃん!」
隣に立つクローデットが慌てて訂正しようとするが、それを国王が制止した。
「よい。二人には今までも世話になっている。この程度の事何でもない。」
「さっすがヘイカ様。」
「もう、ルゥちゃん!」
国王の言葉にルルはけらけらと笑い、そのルルの対応にクローデットは顔を青ざめさせていた。
「それで、二人を呼んだ理由だが……二人には、無人島へと向かって欲しい。」
「……っは?」
「……それはもしや、わたし達は島流しの刑と言う事でしょうか!?主にルゥちゃんの不敬罪で!?」
「ってちょっとクロ!」
二人の慌てたやり取りを見て、国王が声をあげて笑った。
「そうではない。先程も言ったがあの程度不敬でも何でもないのだよ。さて、話を戻そうか。」
国王が咳ばらいを一つ行い、話の軌道を戻した。
「二人に行ってもらいたい島と言うのは、我が領内にありながら、今まで誰も手を出す事が出来なかったとある未開拓の無人島なのだ。」
「未開拓の無人島?」
国王の言葉にルルが首を傾げる。ルルがこの国に住む様になってもう十数年が経過しているが、そのような島の話は聞いた事が無い。
「知らんのも無理はない。島の存在は今まで国が隠しに隠してきた極秘中の極秘だからな。」
「そんな島の存在を一介の冒険者である私達に言って良いんですかい?ヘイカ様。」
首の後ろで手を組みながら姿勢を崩すと言う不敬極まりない態度でルルがそう聞く。その姿勢になった瞬間に隣のクローデットの顔色が青を超えて白くなっているのをルルは見たが、いつもの事なので特に気にしない事にした。
「貴公等であれば隠す必要も無いと判断した。それに、もしもこの情報を持って他国に亡命しようとしたとしてもそれを我々が止める事など不可能に近い。」
国王が改めて二人を見つめ、そのまま話を続けた。
「何せ貴公等はこの国が誇る、五人しか居ないS級冒険者の内の二人。しかも、その中でも一位と二位の実力者なのだから。」
国王の言葉通り、クローデットとルルは非常に高い戦闘能力を有している。ルルは生まれ故郷に伝わる武器、ナギナタを使用したほぼ我流の武術とそれを補佐する身体強化魔法に長けており。クローデットは植物の精霊と話をする事が出来る精霊術師だ。クローデットは植物の精霊であれば、それが例え世界樹の精霊であろうと呼び出す事が出来る。そんな二人だからこそ、この国は二人をS級の冒険者だと認め、更に国が極秘にしていた情報を教えたのだ。更に言ってしまえば、ルルにはこの国を裏切らない理由もある。
「とは言っても、あの子達だって直ぐに此処まで上がって来るでしょ。」
ルルの言葉にクローデットも頷き、言葉を続けた。
「そうだね、わたし達もうかうかしてられないかも。」
その言葉を聞いた国王が再び愉快そうに笑う。
「やはり貴公等に頼むのが最善な様だ。引き受けてくれるか?」
「……報酬次第、かな?」
国王の言葉にルルがにやりと笑いながらそう返す。それを聞いた国王が傍の紙に文字を書き、それを隣に立つ大臣に手渡した。大臣はその紙をルルの元へと届け、ルルがその紙を見ると紙にはこう書かれていた。
『そちらの言い値で構わん。国庫を全て譲れ等と言わん限りはな。』
その紙を見たルルは吹き出し、思いっきり笑った。その態度にクローデットは再びあわあわと動揺するが、それを気にせずにルルが言葉を続けた。
「良いわ、最高だわ。さっすがヘイカ様。じゃ、報酬の話は依頼達成してからって事で。」
「ほう、良かろう。では明日より早速島へと向かって貰う。今日の内に準備を済ませておくが良い。」
国王の言葉を聞き、ルルは手を上げながら振り返って謁見の間を後にした。そしてそれに遅れる様にクローデットも国王に何度も頭を下げながら後にしたのだった。
「陛下、あの様な者達を頼るなどと。」
「構わん。奴らは我が国の最高戦力の二人だ。そう簡単に死ぬ事もない。それに、儂ははぐれ者と言うのが好きでな。型に嵌まらん奴と言うのは見ていて飽きんものだ。」
「もう、本当にルゥちゃんってば怖いもの知らずなんだから。」
「悪かったって。ごめんってば。」
買い出しを済ませ、家に戻るなりクローデットは直ぐにへそを曲げてしまった。先程の謁見時のルルの態度が気に入らなかったのだろう。
「相手は国王様だよ?一歩間違ったら私達首切られかねないんだから。」
「大丈夫だって。あのヘイカ様がそんな事する訳ないじゃん。」
ルルの履いている生まれ故郷伝統の履物、ゾーリを脱ぎながらベッドに腰かけそうけらけらと笑うルル。その危機感の無さにクローデットは再びむくれてしまった。
「むぅ、ルゥちゃんの事好きだけど、そういう危ない所はどうかと思うな。」
「んー?何々、心配してくれてるんだ?」
にやにやと笑いながらルルがそう言葉にすると、クローデットが真面目な顔になり返事をした。
「当たり前だよ。わたしが今此処に居るのは、今こうして生きていられるのはルゥちゃんのお陰だもん。ルゥちゃんはわたしの命の、人生の恩人で、大事な相方で、そして……」
「そして?」
ルルがさらににやけた顔で覗き込む様にクローデットを見つめた。当のクローデットは話し辛そうにもじもじと体をくねらせていたがやがて意を決した様に目を瞑りながら大きな声で言葉を返した。
「う、うぅ、わ、わたしの恋人なんだから!!心配位、するよ!」
クローデットの決死の言葉に、ルルは思わず裸足で立ち上がりクローデットを抱きしめた。
「かーわーいーいー!クロホントに可愛いんだから!」
「く、苦しい、苦しいよルゥちゃん。」
抱きしめる力が強すぎた為、クローデットの顔色が少し青白くなっている。それに気が付いたルルは慌てて力を緩め、それでも抱きしめる事はやめなかった。
「ごめんね。次はもう少し普通に接するから。」
「うん、いつもヒヤヒヤしてるんだから。」
二人はそのまましばらく抱きしめ合った。
翌日、二人は港へ向かい国が持つ最も大きな輸送船……の、隣でひっそりと波打つ比較的小さめの船に乗り込んだ。
「まさかこっちの船だとは思わなかったよ。」
「申し訳ございません。しかし何分極秘の依頼ですので……」
極秘依頼に最大の船を出せば嫌でも目立ってしまう。そこで、二人が乗り込むには大きく、しかし乗組員も合わせるとやや小さい程度の船を国王は用意したと言う訳だ。
「ま、理由は分かるから良いよ。それじゃあ出発よろしく。」
最低限の荷物を積み込み、船は港から出発。無人島のある方角へと進み始めた。
「因みにどの位かかるの?」
「そうですね……丸一日ほどでしょうか。」
その言葉を聞いたクローデットが、普段からあまり良いとは言えない血色を更に悪くさせて俯いた。
「丸一日……揺られっぱなし。」
「あ、あの、クローデット様?大丈夫でしょうか?」
乗組員の一人が心配そうにしているが、ルルがけらけらと笑って代わりに返事をした。
「大丈夫大丈夫。この子は船酔いが激しいってだけだから。後で私から色々やっておくよ。」
ルルの使う魔法は主に身体強化の魔法。その中には三半規管を強化する魔法も存在する為、乗り物酔い等にも対応出来たりする。尤も、本来ならば身体強化は自身の強化以外は出来ないのだが、ルルはそれを他人に付与する事が可能なのだ。
「うぅ……ル゛ゥ゛ち゛ゃ゛ん゛……」
「あぁもう、分かったって。直ぐに良くしてあげるからこっちおいで。ごめん皆、後は任せたよ。」
ルルが乗組員にそう挨拶をして、クローデットの手を引き船室へと駆け込んだ。そしてそこでクローデットの纏う服を少しはだけさせ、背中に手を当てた。
「ほら……これでどう?」
「う、ん……はぁあ……気持ちいい。」
ルルの手から放たれる緑色の魔力がクローデットの体に少しずつ吸収されていき、クローデットの顔色は見る見る良くなって来ていた。
「もう大丈夫だね。はいおしまい。」
そう口にしながら手を離し、はだけさせた服を元に戻した。
「あふ、ルゥちゃん……ありがと。」
クローデットがはにかみながらそうお礼を言うと、ルルも釣られてニカっと笑った。
「良いって。相棒、でしょ?」
先程までの元気の無さはどこへやら、クローデットはルルの腕に自らの腕を絡ませ引っ張る様に船室から外へと出て、甲板まで上がっていった。
「わぁ、見て見てルゥちゃん。綺麗な海だよ!」
「はいはい、ほんと元気になった途端これなんだから。」
クローデットの豹変ぶりに苦笑する。しかしそんなクローデットも嫌いではないルルであった。
合間合間にクローデットに魔法を掛けながら、一行は無事に島まで到着する事が出来た。
「此処が、無人島……」
「確かに、草や木々が明らかに人の手から離れて自生してるね。」
到着した無人島は名前に相応しく、海岸以外は鬱蒼と植物が生い茂っており、海岸からは島の内部が分からない状況だった。
「では、我々はこれで。あぁそれと、此処で入手した物資を買い取り、貴方達に物資を補給するための商船が定期的に此処へ来る予定です。もしも珍しいものが手に入ったら、その船の方々に渡していただけるとこちらとしても助かりますので。」
船の乗組員はそう言い残し、船を出した。二人はそれを手を振りながら見送り、船が小さくなった所で改めて島へ目をやった。
「さて、先ずは拠点作りだ。」
「拠点の材料はわたしに任せて。」
クローデットが海岸から一歩前へ進み、近くに生える草や木に向かって手を伸ばした。
「うん、うん。……うん、ありがとう。」
「家になりたい子、いた?」
ルルがそうクローデットに声を掛ける。対するクローデットは振り返り、ルルに笑顔を向けた。
「うん。この周辺の植物とは直ぐに分かり合えたよ。あの辺り一帯は皆家になりたいんだって。」
クローデットが指し示した方をルルも見る。其処には背の高い木々があちこちに生い茂っており、それを何本も使えば、二人が暮らすには十分な大きさの家が建てられるだろう。
「しかしクロの能力は相変わらず凄いねぇ。植物と話せるなんてさ。」
クローデットは植物の精霊を呼び出せるだけではなく、植物そのものと会話ができる。その能力を使用し、今この周辺で家になりたがっている、または家になっても良いと考えている植物を探したのだ。
「ふふ、ありがと。でもルゥちゃんだって、わたしよりももっと凄いよ。」
クローデットがそう笑顔で言うと、ルルは少し自慢げにナギナタを手に持った。
「クロにそんな期待されちゃ、裏切る訳にもいかないね。やるよ。」
ルルがナギナタに魔力を纏わせ、そのまま直進。背の高い木々を次々と一刀で断ち切っていった。
「流石ルゥちゃん。身体強化と同時に魔力を武器にエンチャント。それも詠唱を破棄してその威力だもん。やっぱりルゥちゃんが最強だよ。」
魔法と言うものは詠唱が存在する。頭の中でイメージし、そのイメージを文字に変換。それを魔力と共に言葉にする事で魔法は発動する。しかし、高位の魔法使い達はその詠唱を破棄、イメージに直接魔力を乗せて発動させる事が出来る。これを魔法使い達は詠唱破棄魔法と言うのだが、この発動方法だと通常では大きく威力が落ちてしまう。しかしルルは、詠唱破棄をしたにも関わらず一刀で木を薙ぎ倒し、しかもそれを狙った方向へと倒す様に仕組んでいる。
「よっし、取り敢えずこんなものか。」
ルルが魔法の発動をやめ、一度辺りを見渡す。するとそこは背の高かった木々が綺麗に倒れていて、更には一体の雑草達も綺麗に刈り取られ、一か所に集められていた。
「こいつらは乾燥させた後袋に詰めて、簡易ベッドになってもらおう。良いよねクロ。」
「……うん。この子達もそれを望んでる。……え、寧ろご褒美です?……ご褒美?」
クローデットが植物から聞いた言葉の意味が二人とも良く分からず首を捻ったが、深く気にせずルルは木を適性の大きさに切り出し、クローデットは山の様になった雑草達を天日に干し始めた。そして、半日もすればその場所には立派なログハウスが建築されていた。
「いやー、まさかこんなに早く出来るとはね。」
「ルゥちゃんが張り切って組み上げてくれたからだよ。ありがとルゥちゃん。」
丸太を切り出してからのルルは素早かった。ナギナタとは別に懐に隠している短刀に魔力を纏わせ、あっという間に丸太同士が組み合わさる部分を彫り上げ。更に一部の丸太はそのまま縦に一定の厚みでカットし、それらを次々に身体強化された状態で組み上げていった。そのお陰でこんな短時間で出来たのである。
「お陰で日が暮れる直前に家が出来たね。とは言えまだ内装が出来て無いから今日の所は外でのご飯になるんだけど。」
家を作る際に出来た廃材を集め、乾燥させていた草の一部を着火剤にして、ルルが火をつけた。この島は島にも拘らず国内よりも空気が乾燥しているのかあっさりと火が着き、直ぐに焚火が完成した。
「じゃ、今日のご飯は……」
ルルが手荷物をあさり、出発前に持って来ていた保存用の紙に包まれたパンを用意した。
「今日はちょっと簡素だけど、パンと一緒に持って来てたこのブーフの燻製を焚火で炙って……」
ブーフと言うのは、シュルヴィー大陸に存在する最も一般的な家畜で、オスは食肉用に。メスは基本的にミルク用に飼われる事が多い。体長は一般的な成人男性よりも少し小さい程で、しかし力がある事から一部地域では乗り物にも使用されていると言う。そしてそのブーフの肉は生でも食べられるが焼くと柔らかく、燻製にすると固く、味が濃縮されると言う特徴がある。なのでこの燻製して固くなったブーフの肉を炙ればパンに挟んでも食べやすい柔らかさになると言う事だ。更に直火で炙る事で香ばしさもプラスされる。
「良し、出来た。明日は島を探索して、食べられそうな物を探さないとね。」
クローデットにブーフの肉を挟んだパンを渡しながら、ルルがそう話した。事実このままではあっという間に食料が尽きてしまう。なので明日以降は二人とも作業を分担して、島を探索する事になるだろう。主にルルが島の外周を、クローデットが島の内部を担当する事になる。この分け方はクローデットの植物と会話が出来ると言う能力を最大限に生かすための分担だった。
「ありがと。うん、そうだね……明日は遂に仕事だ。」
そう真剣な表情で語りながらルルから受け取ったパンを一口齧ったクローデットは、直ぐに表情を緩めた。
「んん~!美味しい!」
「そ?なら良かった。」
クローデットの反応に気を良くし、ルルはニカっと笑った。
「じゃあこれ食べたら今日は早く寝ようか。……この島って水浴びとかできる所ないかな。」
「あぁ……その辺りもわたしが明日探しておくよ。」
ルルが少し困ったように言うと、クローデットがそう提案した。
「うん、よろしくね。流石にずっとこのままだと臭っちゃいそうだ。」
二人は普段から共に暮らしている為、お互いの事で多少の事は気にしないのだが、そこはそれ、二人とも年頃の女性で、しかも一緒に居るのが最愛の相手となると気になってしまうのも仕方が無いと言うもの。
「私はルゥちゃんの匂い、好きだよ?」
「私だってそうさ。けど、そこはそれ。自分が気になっちゃうからね。」
そう他愛のない話をしながら、二人は早々に食事を済ませた。そして程無くしてから焚火を消し、二人は家の中のまだ内装の無い状態で雑魚寝を決行した。
と言う訳で、今回はプロローグを投稿させていただきました。一応全四話構成となっておりますので、後三話ほどお付き合いいただければこれ幸いでございます。それでは今回はこの辺りで。