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北の砦にて・平凡なる皇帝コラボ(桃太郎パロディ)

 昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。

 おじいさんの名前はキックス、おばあさんの名前はティーナといいます。

 ある日、川へ洗濯に行ったティーナおばあさんは、大きな桃を拾って家に帰ってきました。


「はぁ!? そんなでかい桃が川を流れてきたのかよ」


 キックスおじいさんは若者っぽい口調で驚きました。

 ティーナおばあさんはにっこり笑って言います。


「さっそく食べましょう!」

「食べられんの、それ」


 二人で桃を切ってみると、なんと中では、子ギツネと幼女が抱き合ってすやすやと眠っていたのです。


「なんて可愛い子たちなの!」

「これはきっと真面目に働いてる俺らへの、神様からのご褒美だな」


 子どものいなかったティーナおばあさんとキックスおじいさんはたいそう喜びました。

 桃から生まれた真っ白い子ギツネは『ミル』、緑金の不思議な目をした女の子は『ハル』と名付けられました。男の子だったら桃太郎と名付けるつもりだったのですが、二人とも女の子だったので却下したのです。 

 そうしてミルとハルは、おじいさんおばあさんの元で姉妹のように仲良く育ちました。


 そしてある日、十四歳になったハルは、何故か子ギツネのまま成長しないミルと並んで、おじいさんおばあさんに言いました。


「私たち、鬼ヶ島へ行って悪い鬼を退治してくるよ」

 

 おじいさんとおばあさんはびっくりしましたが、子どもの決断を尊重する事にしました。

 おばあさんにきび団子を作ってもらうと、二人は家を出ます。


「気をつけてねー」

「やばくなったら帰ってこいよー」


 心配そうに見送ってくれるおじいさんとおばあさんに、ハルとミルは「はーい!」と元気に言いながら手を振りました。


「頑張ろうね、ミル!」

「うん! がんばろう、ハル! あぶなくなったらわたしが守るよ! 鬼にかみつくから」

「ありがとう。でも無理しないでね、ミルの牙はちっちゃいから」


 ひ弱な二人で旅を続けていると、途中で色々と危険な目に遭いました。可愛い子ギツネと少女を狙った悪者に攫われそうになったり、川に落ちて流されそうになったり、転んだり、財布を盗られたりと散々です。

 さすがにハルとミルも自分たちの不甲斐なさに気づきます。


「ねぇ、ミル。私たちだけで本当に鬼退治できるかな? 鬼ヶ島にさえ辿り着けないような気がしてきたよ」

「うん、わたしも同じことおもってた」

「だよね……」


 ハルは「うーん」と唸りながら腕を組んで考えます。そしてポンと手を打ちました。


「そうだ! 仲間を増やそう。強い人を仲間にするんだよ」

「それいいね! イヌとサル、それにキジが仲間にほしいね。よくわかんないけど、なんとなく」


 子ギツネはしっぽを振って言いました。

 ハルは腕を組んで首を傾げます。


「でもどうやって仲間になってもらう? お財布盗られたからお金もないよ」

「おばあさんからもらったきび団子をあげて仲間になってもらおうよ」

「おばあさんが作るきび団子は美味しいけど、それだけで一緒に戦ってくれるかなぁ?」


 ハルは不安げな顔をして続けます。


「それにきび団子はもう二つしか残ってないよ。お腹が空いて、私たちで食べちゃったし」

「じゃあイヌは仲間にするのやめよう。わたしとちょっとキャラかぶってるし」

「同じイヌ科だからね。仕方ないけどそうしよう」


 ハルとミルは森に入ると、サルとキジを探して歩きました。

 しかしほどなくして、頭に犬耳をつけたクロナギがハルに声をかけてきました。


「ハル様、何かお困りですか?」

「あ、イヌのクロナギだ。でも、今はイヌさんには用事はないんだよ」

「そんな事おっしゃらずに。噂では鬼退治に向かうと聞きました。私を仲間にしてくれませんか?」

「でもきび団子があと二つしかなくって……」


 ハルが困って言うと、クロナギはにっこりほほ笑んで言います。


「きび団子なんていりません。お供します」

「無報酬で!?」


 ハルはびっくりしましたが、頼れるクロナギをお供につけたのでした。

 クロナギはミルを抱っこしてハルと一緒に歩き始めます。


「ハル様、いつの間にペットを飼われたのです?」

「わたし、ペットじゃない!」


 ミルは憤慨して言いました。けれどクロナギに抱っこされていると楽なので、遠慮なく運んでもらいます。長旅で疲れていましたし、ミルにはプライドとか無いのです。

 しばらく歩くと、今度はアナリア、オルガ、ソル、ヤマトと出会いました。みんな頭に犬耳をつけています。


「ハル様、私たちもお供します」

「ハル様たちだけで鬼退治とか無謀ですからね」


 アナリアとヤマトが順番に言います。


「でもきび団子が二つしかなくて……」


 ハルが腰につけた小袋を開けて中身を見せると、アナリアとヤマトは「いらないですよ」と遠慮しました。

 しかしオルガとソルは手を伸ばしてひょいときび団子を取っていきます。


「団子一つじゃ割に合わねぇけど、面白そうだし仲間になってやるよ」

「……意外と美味い」


 オルガとソルはもぐもぐときび団子を食べながら言いました。


「きび団子なくなっちゃった。でもありがとう。仲間が増えて心強いよ」

「サルとキジをさがしてたのに、イヌばっかり集まっちゃった」


 ハルは再び歩き出し、ミルはキャラ被りを気にしました。でもこのイヌたちには犬耳があるだけで、可愛さももふもふも無いからいいかと考え直します。

 そうしてまたしばらく歩くと、三度みたびハルとミルの前にイヌが現れました。


「ミル、こんなところで何してるんだ?」


 今度現れたのは、グレイルとクロムウェルです。やっぱり犬耳をつけています。

 知り合いに会ったミルは嬉しくなって、激しくしっぽを振りました。クロナギがミルを地面に下ろすと、はふはふと舌を出して笑顔になって、グレイルたちに駆け寄っていきます。


「犬コロみてーなキツネだな」

「野生は欠片も残ってないみたいですね」


 オルガとヤマトがミルを見てそんな感想をもらしています。


「せきがんのきし! しだんちょうさん!」


 ミルの興奮はなかなか落ち着きそうにないので、代わりにハルがグレイルたちに説明します。


「私たち、鬼退治に行くんです」

「鬼退治だと?」


 クロムウェルは心配そうに片眉を上げました。


「それは危険だ。俺たちも一緒について行こう、なぁグレイル」

「ええ、そのつもりです」

「でもきび団子がもうなくて……」


 ハルは申し訳なさそうに言いました。「悪いな、俺らが食っちまった」とオルガも付け加えます。

 しかしグレイルとクロムウェルの二人は首を横に振りました。


「そんなものはいらない」

「我々には〝もふもふ〟があれば十分だ」

「そうですか……」


 ミルの毛皮はすごく触り心地がいいもんね、とハルは思いました。

 そうして、グレイルたちはクロナギたちと軍人同士で「よろしく」と握手を交わし、皆で鬼ヶ島に向かいます。

 

 七匹の強いイヌたちに囲まれた旅は、危険とは無縁でした。山賊や人攫い、熊や狼に襲われても、あっという間にイヌたちが蹴散らしてしまうのですから。

 ミルはグレイルに抱っこしてもらい、ハルは疲れたらオルガにおぶってもらって、楽々と旅を続けました。


「いいのかな、こんな感じで……」


 ハルの呟きは、空に溶けて消えました。



 そうして、なんだかんだあって鬼ヶ島に着きました。

 ハルとミルは「やったー!」と二人で喜び合います。正直、クロナギたちを仲間にしてからは何も苦労はしていませんが、それでもやっとここまで着たという感慨深い想いが胸にこみ上げてきます。


「でも、本番はここからだよね」

「うん、鬼をたいじしなくっちゃ!」


 ミルは気合を入れるために遠吠えをしました。でもそれは「きゅーーん!」という可愛い声だったので、その場にいたみんながほんわか和んだだけでした。

 と、ミルの遠吠えを聞きつけた鬼たちが、ぞろぞろと城から出てきます。


「なんだ、今の可愛らしい遠吠えは」

「どこの子犬が迷い込んで来たんだ?」


 まず姿を現したのは、将軍ラルネシオとグオタオです。その後ろには同じく将軍のジンやサザ、そして眼光鋭いレオルザークもいます。


「うわぁ! すごく強そう……! 大きいし、こわいよ!」

 

 ミルは竜人――ではなく鬼たちに腰を抜かしました。しっぽを丸めてぷるぷる震えます。

 ハルはそんなミルを庇いながら、前を見ました。レオルザークたちに続いて、今度はコワモテ軍団を始めとする北の砦の騎士たち――ではなく、これまた鬼たちが現れたのです。

 ハルはコワモテ軍団たちを見て涙目になりました。顔が怖すぎます。


「ひぃ……! 鬼ってあんなに怖いの?」


 ハルとミルが泣き出すと、鬼たちは慌ててこちらへ駆け寄ってきました。


「ああ、泣くな泣くな」

「ほら、何も怖くないぞ」


 みんなで必死に少女と子ギツネを泣き止ませようとします。

 

「お菓子をあげよう」

「美味しいぞ」


 みんなからお菓子をもらうと、ハルとミルはやっと泣き止みました。


「ありがとう……」


 二人でお菓子をいっぱい抱えながら、涙を拭いてお礼を言います。


「私たち鬼を退治しに来たのに、みんな良い人そうだね」

「うん、たいじするなんてかわいそう」


 ハルとミルはそんな事を言い合うと、鬼たちに向かって口を開きました。


「みんな、もう悪い事はしないって約束してくれる?」


 ハルが尋ねると、鬼たちは顔を見合わせました。やがてレオルザークが代表してこう返します。


「約束すると言えば、お前たちはこの鬼ヶ島に住んでくれるか?」

「え? ここに?」


 ハルは戸惑いましたが、ミルはこう言いました。


「みんないい人そうだし、それも楽しいかも。おじいさんとおばあさんもつれてきて、いっしょにここに住もうよ」


 ハルは少し考えて頷きます。


「うん、そうしよう!」


 そう言うと、レオルザークはホッとしたように言いました。


「よかった。実は今、この鬼ヶ島には頭領がいないのだ。是非あなたに頭領になってもらいたい」

「えぇ!?」


 突然の申し出にハルは驚きを隠せません。


「私は鬼じゃないし、弱いよ」


 困惑するハルの背に手を添えて、今度はクロナギが言います。


「あなたしかいないのです。実はハル様は先代の頭領の血を引いておられるのです」


 クロナギ、アナリア、オルガ、ソル、ヤマト。それにグレイルとクロムウェルは、頭につけていた犬耳を取りました。それは本物の耳ではなく、作り物でした。

 実は彼らの正体はイヌではなく、鬼ヶ島の鬼だったのです。


「皆、鬼だったの? うーん……」


 ハルは考え込みました。けれど、信頼できるクロナギたちも鬼だったなら、と決意を決めます。


「じゃあ、分かった。頭領になるよ」


 ハルの答えに、クロナギたちは「よかったです」と息をつきました。

 一方、グレイルはミルを抱き上げてこう言います。


「では、ミルは我々と一緒に、この島の北にある砦で暮らそう」

「北の砦? うん、いいよ」


 ミルはペロッとグレイルの頬を舐めて頷きます。

 ハルはミルを見て眉を下げました。

 

「ミル、お別れなんて寂しいよ。でも一緒の島に住むんだから、すぐにまた会えるね。お城に会いに来てね。私も砦に行くから」


 ハルはふわふわのミルをぎゅっと抱きしめました。この可愛い子ギツネを抱いて寝られないなんて寂しいですが、きっとミルは砦の鬼たちにとっても大切な存在なのだろうと思い、離れて暮らす決意を固めました。


「うん、ハル。移動術をつかってまいにち遊びに行くよ」


 ミルはハルに抱きしめられたまま、ぱたぱたとしっぽを振って言います。


「毎日?」


 しばらくお別れだと泣きそうになっていたのに、何だか拍子抜けです。ミルが移動術という術を使えるなんて知りませんでした。

 でも毎日会えるのは嬉しい事です。


「よかった!」


 ハルとミルは別れを済ませると、それぞれの仲間と一緒に城へ、そして北の砦へ向かったのです。


 こうして鬼ヶ島の鬼たちは、少女と子ギツネを迎えて、ほのぼの平和に暮らしましたとさ。

 おしまい。


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