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北の砦にて(赤ずきんちゃんパロディ)

北の砦にての赤ずきんちゃんパロです。

 あるところに、赤い頭巾を被った真っ白な子ギツネがいました。子ギツネはその頭巾がよく似合っていたので、みんなから「赤ずきんちゃん」と呼ばれています。

 この頭巾は人間のお友達のティーナさんとレッカさんが縫ってくれたものです。

 ティーナさんは裁縫が得意ではないのですが、おかしな事になってしまった部分はレッカさんが手直ししてくれたので、見た目は普通に可愛い頭巾ができたのです。

 ちゃんと耳を出せる穴も空いていて、赤ずきんもこの頭巾がお気に入りでした。


 そしてある日、赤ずきんは着物姿で白い髪の美人なお母さんと、神話の中の神様みたいな格好をした無口なお父さんに呼ばれ、お使いを頼まれました。


「赤ずきんや、おばあさんが病気になってしまったのじゃ。このケーキとぶどう酒を持って、お見舞いに行ってあげておくれ」

「わかった!」


 赤ずきんはお母さんの言葉に元気よく頷きました。

 赤ずきんが一人でおばあさんのところへ行くのは初めての事だったのでお母さんは心配でしたが、これも一つの特訓になるはずと自分を納得させます。お母さんは赤ずきんを強い子に育てたかったのです。

 しかしお父さんはお母さんよりさらに心配症な上、赤ずきんを強い子にしたいとは思っていませんでしたから、お母さんの提案に反対します。


「森は……危険だ。オオカミも出ると、聞く……」


 お母さんはムッとして言い返します。


「狼に出会ったら、移動術でわらわたちの元に戻って来ればいいだけじゃろう。オオカミなど脅威ではない。そうやってミルフィリア――ではなく、赤ずきんを大事に育てるのは良いが、外に出さなくては強い子に育たぬ!」

「強くなど、なる必要はない……。私たちが守れば、いいだけの話だ……。ミルフィ――ではなく、赤ずきんは、ずっと私たちの目の届くところで……育てる」

「ええい! 赤ずきんの母はわらわじゃぞ! 育て方に口出しするでない!」


 お母さんは怒って吹雪を巻き起こすと、お父さんの隙を突いて赤ずきんを外に出しました。


「赤ずきんや。あやつはわらわが止めておく。今のうちに、気をつけて行っておいで」

「はい、お母さん。でもけんかはほどほどにね」


 赤ずきんはケーキとぶどう酒が入った籠を口に咥えると、吹雪で荒れる家から急いで離れました。赤ずきんのお母さんはよくお父さんにブチ切れているので、これは珍しい事ではありません。


(ぶどう酒の瓶が重い……)


 子ギツネの赤ずきんは、籠を咥えたままよろよろと前に進みます。

 

(そもそもおばあさんは、ぶどう酒飲まないんじゃ?)


 ふとした疑問が過りました。ハイデリンおばあさんは風の精霊で、食事は必要ないのです。

 立ち止まってしばらく考えましたが、赤ずきんは結局、ぶどう酒の瓶をその場に置いていく事にしました。

 ケーキもおばあさんは食べないので、赤ずきんが食べてしまいました。


「これで軽くなった!」


 空の籠を咥えて、赤ずきんはスキップをするように跳ねながら走ります。

 するとそこへ、森の木々の間からオオカミが現れました。


「こんにちは。可愛い赤ずきんちゃん」


 赤ずきんは小首を傾げてオオカミを見上げました。


(支団長さん?)


 そこには、オオカミの着ぐるみを着た支団長さんがいたのです。着ぐるみは顔だけ出る形のものだったため、オオカミの顔の下に支団長さんの顔があります。

 赤ずきんは、森に出るというオオカミの正体は支団長さんだったのかと安心して笑顔になりました。籠を一旦地面に置いて言います。


「こんにちは、オオカミさん!」


 オオカミはしっぽを振る赤ずきんに表情を緩めると、その場にしゃがんで赤ずきんを抱き上げます。


「ああ、赤ずきんは本当に可愛いな。食べてしまいたい」


 赤ずきんの毛をもふもふしながら続けます。


「ところで赤ずきんはどこへ行くんだ? 空の籠なんて持って」

「わたし? わたしは今から、びょうきのおばあさんのところへ行くの」

「なるほど。それなら、花を持っていったらどうだ? きっと喜んでもらえるぞ」

「うん、そうする!」


 どこかに野花が咲いていないかと赤ずきんは周りを見回しましたが、オオカミはそれを制してこう言います。


「花なら、綺麗なものがうちにあるんだ。それをあげよう」

「ほんとう? いいの?」

「もちろんだ。おいで」


 オオカミは赤ずきんを抱いたまま、自分の家に連れ帰ろうとしました。実はオオカミは、前から赤ずきんを自分の家の子にしてしまおうと狙っていたのです。オオカミはもふもふした動物が大好きなのでした。

 そうとは知らない赤ずきんは、ぱたぱたとしっぽを振って大人しくオオカミに抱っこされます。


「待て!」


 しかしそこで二人の前に立ちはだかったのは、銃を持った隻眼の猟師でした。


「あ、せきがんのきし! ……じゃない、りょうしさん!」


 隻眼の猟師は怖い顔でオオカミに言いました。


「オオカミよ、お前が前から赤ずきんの事を狙っていたのは知っている。その子を家に連れて帰るつもりだろう。だが、そうはさせない」


 猟師の言葉に、赤ずきんはきょとんと目を丸くしました。

 そして悪巧みがバレてしまったオオカミは、「ははは」と不遜に笑って言います。


「私をその銃で撃って、私から赤ずきんを奪うつもりか? 分かっているんだぞ、お前だって赤ずきんを自分の家の子にするつもりなのだろう!」


 オオカミは赤ずきんを抱く腕の力を強めて言いました。

 赤ずきんはわけが分からず、しきりに首を傾げます。

 そして猟師は慌ててこう返しました。


「違う。俺はそんな事は考えていない。もちろん赤ずきんがずっとうちにいてくれれば嬉しいが、その子には本当の親がいるからな。それに森の近くに住むキックスもティーナもレッカも、精霊のクガルグもハイリリスもウッドバウムも、赤ずきんの事を大事に思う者はたくさんいる。独り占めする事はできない」


 猟師の言葉に衝撃を受けたかのように、オオカミは眉根を寄せて唇を引き結びます。

 そうして、赤ずきんを地面にそっと下ろして言いました。


「……そうだな。赤ずきんはみんなのものだ。この魅力的なもふもふもみんなのもの」


 いや、私のものでは? と赤ずきんは思いましたが口には出しませんでした。


「分かってくれたならよかった」

「ああ、私が間違っていた」


 隻眼の猟師は銃を下ろし、オオカミと握手をしました。

 猟師とオオカミは同志のような顔をして、いい笑顔を浮かべています。赤ずきんは置いてけぼりです。

 

「それじゃあ、赤ずきん」


 オオカミは優しく赤ずきんを見下ろし、続けます。


「私と猟師とで、家まで送っていこう」

「え? でもわたし、おばあさんのところへお見舞いに……」


 赤ずきんがそう言うと、隻眼の猟師が不思議そうな顔をしました。


「お見舞い? だがさっき家の外で大きな羽を広げて日光浴をしているハイデリンに会ってきたが、元気そうだったぞ」

「でもお母さんが、おばあさんはびょうきだって」

「きっとスノウレアの勘違いだろう。心配なら、後でスノウレアたちと一緒に訪ねてみればいい。それとも移動術を使うか。何にしろ一人で森を歩くのは危険だ。オオカミが言ったように、一旦家まで送っていこう」

「わかった」


 赤ずきんは頷くと、空の籠を咥えて、オオカミと隻眼の猟師と一緒に歩き出しました。

 

(私、何しに家を出てきたんだろう)

 

 途中でケーキを食べただけだったなと思いましたが、赤ずきんは大好きな隻眼の猟師とオオカミと一緒だという事が嬉しくて、ぶんぶんとしっぽを振りながら家へと帰っていったのでした。

 

 おしまい。


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