連れ出される
初投稿作品です。お手柔らかに…。
二面性。相反する二つのものを兼ね備えているということ。
二面性を持つ人間なんて、この世に腐るほどいる。
昼間まじめな顔をして怒鳴りつけたりするくせに、夜になると女をあさりに街に繰り出す奴ら。
先生の前ではいい子ちゃんするくせに、裏ではいじめグループのトップだったり。
正直、俺は世の中のことなんてどうでもいい。
いい職に就きたいと思ったこともないし、毎日平凡に、なんとなく過ごせるのならそれでいいと思った。
否、今でも思っている。
それをさせてくれないのが、それまたこの世の中の腐ってるところだと思う。
「平瀬戸荘司、私と一緒に来なさい。」
そう言われ、頬を思いっきり引っ張られたのは突然だった。
いつもの通り学校が終わり、何か部活に精を出しているわけでもない俺はまっすぐ昇降口に向かう。
あぁ、雨なんて鬱陶しいな。なんて思いながら靴を履き、顔を上げるとそこに彼女はいた。
艶やかな黒髪ストレートロング。まっすぐと俺のことを見てくる目はキリリとしているが黒く大きい。おまけに(おそらく)天然泣きぼくろ。
間違いなく美少女だ。赤色のピンを制服に着けているから三年の先輩だろう。
「あなた、名前は?」
「…そもそもあんた誰すか。」
「名前。」
人に名前を聞くときはまずは自分からって、教わらなかったのかな。
めんどくさいと思いつつ、頭をがしがしかく。遠まわしでもなく名前を名乗れと言ってみたものの、彼女は俺に名乗るつもりはないらしい。
「いや、なんで俺の名前なんて知りたがるんすか?愛の告白なら受け付けますけど、ロマンチックに校舎裏とかに呼び出してもらえないすかね。…うぉっ!?」
肩にかけていたバッグを、ぐいっと思いっきり彼女のほうに引っ張られた。息がかかる。顔が近い。
「ちょっ何考えて…っ」
「愛の告白がほしいのなら、満足するまでしてあげよう。」
おいおい、まじすか。さっきのは冗談で、そういうの面倒だからいらないんだけど。
「平瀬戸荘司、私と一緒に来なさい。」
「へっ?なんで名前…。」
知ってるじゃないすか。なんだこれ。そもそもお前誰だ。ていうか頬をつねるな。
頭の中がぐるぐるする。こんな突然の出来事、俺のスローライフには必要ないことだ。
だけど、頭は混乱するわ頬を引っ張られたまま連れ出されたのは生まれて初めての出来事だったから、何の抵抗をすることもできなかった。
校門をでてすぐ、タクシーに乗せられてしばらく経った。
「…いつまで頬を引っ張るつもりですか先輩、ここまで連れられたら逃げないし、離してもらえると嬉しいんすけど。」
頬も痛いけど、運ちゃんの目も痛い。
ていうかこの女、めっちゃ力強いんですけど何者。
「あぁすまない、突然連れ出してしまって。実は上からあなたを連れてきてほしいと頼まれていて、今に至る。別段、怪しいものとかそういう組織では……たぶんない。」
「たぶんすか!?」
どうしよう、帰りたい。ものすごく帰りたい。
「知ってて名前を聞いてきたのも、目的の人物で合ってるか確認するためすか?」
「その通り。だがわたしは話すのがあまり得意でないから、あきらめて連れてきて今に至る、ということだ。」
「いやいや、名前も聞けないなんてコミュニケーション能力乏しいにも程があるでしょう!?」
「よく言われる。」
…よく言われるんかい。
こんなんでこの人、よく学校とか通えるな。いじめとか……あ、これくらい美少女だと多少変な人でも許せちゃうのかな。こんな喋り方でも、ちょっとミステリアスな感じになるもんな。
くそ、美男美女爆発しろ。今爆発されると巻き込み事故にあうから、あとで俺の安全が確保されてから爆発しろ。
「あ、このあたりで大丈夫です。」
と、車が止まった。
この女…敬語使えるんかい。
「で、ここはどこなんすか?」
「東京のはずれ。地名は詳しくは話せないことになっている。組織のものでも知っているのはわずかしかいない。」
「へぇー、そんなんでどうやって組織に関わるんです?」
その組織とやらに興味は全くないが、今は知らない土地の森の中をなぜか歩かされている。暗くなってきたし、正直怖い。間が持たないだけで不安でちびりそうになる。
そこでそんな質問をしたら、俺が興味を持っていると勘違いしたようで、白い頬を桃色に染め、目を輝かせて語ってきた。
ちょっとごめんなさい。
「私たちには特別な通信手段があるんだ。うちの技術部は優秀で、特許をとったものもいくつかあるらしい。結構便利だぞ。」
「それはすごいすねー。」
まぁ、そんな怪しさ満点の組織に俺が今後関わることはまずないだろうけど。
そもそもこの人はなんで、上とやらはなんで俺をここに連れてこさせたのだろう。
あぁ、帰りたい。
「ここだ、ついたぞ。連れまわして申し訳ないな。おい、わたしだ。平瀬戸荘司を連れてきたぞ。」
インターフォンを押してそう中に伝えると、重そうな門が自動で動き、さあ入れと言わんばかりに開いた。
森の中にこんなマフィアのアジトみたいな豪邸あるとは思わないし、怪しいし、本当帰りたい。
ここで入らないで逃げたら後ろから銃で撃たれたりしそう…。
仕方なく導かれるがまま豪邸の家の目の前まで来た。
その重そうなドアが開いたと思ったらそこには―――。
「やぁ、待ってたよソー君!!」
無駄に伸長高い二次元みたいなイケメンが両手を広げて待ち構えていた。
あぁ、帰りたい!!!