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いじめ ――トラウマ――

再び引きこもる前です。

 引きこもる前の昼。学校。


 くちゅくちゅ、ちゅぱちゅぱ、聞き慣れない舌をこすりつけるような音で目が覚めた。その日も僕は保健室で仮病を使って休んでいた。カーテンはしめていたが、二人の人間の気配があった。

「お願い、あまり強く揉まないで、痕ついちゃう」

 困り果てたような女の声。

「ごめんごめん、続けて!」

 聞き覚えがあるようなこの声……。

 再び聞こえるぬちゅぬちゅ、という吸い込むような音。次第に大きくなる男の息遣い。

「ぁあぁ出る……う……。ウッ!」

 フゥフゥ……と荒い息をする男。

 女が何かを処理するような気配のあと、ベッドを軋ませ再び男の声が、


「なぁ、そろそろいいだろ」

「だめ、口でしてあげるからいいでしょ」

「口だけじゃ我慢できねぇよ」

「……先生きちゃうよ」

「関係ねぇよ、誰も俺に文句いえねぇよ。それに『コレ』見たらあの保険医(おばさん)、混ざってくっかもよ」

 と言ってギャハハと下品に笑う。この声は……。

「ねぇ、こないだの動画けしてくれた? あれ困るの……」

「あ…………? あぁ! うんうん消した消した。マジで。だからさ~」

 男がベッドをギシギシと揺らし物凄く興奮している。

「本当にお願い、もう残ってないよね?」

「マジだって、動画も画像も残らずぜ~んぶ消した! だから早く~!」

「もぉ……ゴムはつけてよ……」

「はぁ? もってねぇし」

 間違い無い聞こえてくるのは金谷の声だ……。

 ここに居ない方がよさそうだけど、動けない。逃げられない。ベッドからこっそり抜け出しても、出口の扉は金谷の居る方角だ。窓は……開けたら音が出てしまう気がする。(ここでもし見つかったら……僕は……たぶん……)

 なんだか非常に不味いところに居合わせた感じがして、体がこわばる。なるべく呼吸をしないように努めたが、却って力が入りベッドが軋んでしまった。

「あ? 誰かいんのか?」

 と言って、カーテンが開けられる。


 上半身裸の髪の長い女生徒が見えた。スカートの先からのぞくフトモモの先、片方の足首にパンツを引っかけている。見おぼえがある顔だ。確か男子人気トップ3の――。『読者モデルをやってるスタイル抜群の(きれ)少女(いなこ)がこの学校にいる』と以前、憧れるような表情でナオミが話していたのを思い出した。名前は忘れたけど。

 それと、下半身丸出しで顔を上気させた金谷(あいつ)がいた。

「んだよ、おめぇかよ」太いけど短いアレを、出っ張った下腹に付きそうなくらい反り返らせている。そして出したまんま近づいてきて僕の胸倉を掴み「俺らの聞いて興奮してたんか?」ニヤニヤしながら顔を近づけてきた。

 簡便してくれ、後から来たのはお前ら(そっち)じゃないか。


 当然そのあとお決まりのフルボッコだった。理不尽な暴力のフルコース。中でも金谷の股間蹴りメインディッシュは、思い出すだけで今でも下腹が痛くなる。

 僕は学校へ行くのをうんざりし始めていた。


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