バイク
バイトも慣れてきて少しは体力がついた頃。家で昼食を食べ終わり、ゲームにログインするため電源を点けようとした時、家の裏手にあるガレージからエンジン音が聞こえてきた。行ってみると、伯父さんが父さんのバイクを軽く吹かして暖気していた。
(まだ動くんだそのバイク)と思って見ていたら――。
僕に気づいた伯父さんが、手招きして声をかけてきた。
「おぅ、ヒカル」
何してるの、と伯父さんに近づいて聞いた。
「このバイク寝かせておくのは勿体ないとおもってな。ヒカル、免許取って乗ってみたらどうだ? きっとスカっとするぞ」
きもちいいぞ~、と言ってアクセルを吹かす伯父さんを見ながら、僕は腕を組んで唸る。
「う~ん……(免許かぁ取りに行くのめんどくさいなぁ)」
僕が眉間にシワを寄せ悩んでいると、伯父さんが後押しするように、
「お金はだしてやる!」
「免許取っても、無断で乗って平気かなぁ……」
「大丈夫だろ、あいつ十年以上のってないし」
「でも母さんに聞いてみないと……」
「おぅ! 相談してみろ」
とニヤリと笑いながらいった。
母さんに相談してみたら即快諾された。(伯父さんが前もって話を通しておいたのかな?)理由はどうあれ、外に出るのが嬉しかったのかもしれない。
そんなわけで気は乗らなかったけど、中型自動二輪の免許を取りに合宿にいった。試験場でのテストには2度落ちてしまった。でもなんとか無事に免許を取得することが出来た。
人生で初めて役に立つスキルを手に入れ、不思議な充実感があったのを覚えている。テンションが上がった僕は、その日のうちにバイクに乗って知っている道を走ってみた。二駅ほどの距離を走ったところでガス欠になって、ヒィヒィ言いながら動かなくなった鉄の塊を押して帰るハメになった。けど体に当たる風が気持ちよかったし、何とも言えない解放感とゲームとは違った楽しさがあった。