ナオミ
ゾンビ発生前、引きこもり中。
部屋でオンラインゲームをしていたら、
「ヒカル~ナオミちゃんから電話きてるよ~」
階下からの母さんの声にビクッとする。少し俯いてため息を吐き答える。
「居ないって言って~」
「なんでよ~?」
オンラインゲームは時間停止が出来ない。その言葉に集中力を乱し、ゲーム画面の中で僕のアバターが敵の攻撃を受け死んでしまった。
「いいから!」
少し怒りがこもってしまったのをすぐに反省する。
『ごめんなさいね、ヒカル今出かけてるみたいなの――』
母さんに何度も嘘をつかせる。その度に胸がチクリと痛んだ。
ナオミはその後も何度も電話や留守電を残した。家にも何度も来てくれた。本当は会って話したかった時もあった。でも今の情けない状況の僕を見られるのがどうしてもイヤだった。
「もう僕なんか死んでると思ってるかも」
最後に会ったのは数か月前、引きこもる前の学校だ。
田中直美とは母親同士が友達で、小学校の頃から付き合いがあった。僕の家に母親ときては、ゲーム等で一緒に遊んでいた。あの頃の僕はコミュ症とは無縁で、特に意識せずに付き合えていたと思う。家も割と近所にあって、中学に上がる前までは一緒に登校していた。
高校に上がっていじめが始まってからも、周りが無関心な中、ナオミだけは僕を心配して気遣ってくれた。なんとか僕を助けようと手を尽くしてくれた。そんなナオミのやさしさを無碍にするたびに心が痛んだ。