本心
校門を出ようとした時、ナオミが唐突に尋ねる。
「ヒカルは私の顔がもし治らないくらい傷ついてたら嫌いになった?」
「ならないよ、ナオミがどんな顔になろうと僕はナオミが好きだから」
『あっ』……疲れのせいだ……と思う。口にだして言ってしまっていた事に気付いた。心で考えていたはずなのに……。マズイこれはこれで心拍数があがる。でも本心だった。片思いだったけど……。僕は出会った頃からナオミがずっと好きだった。
ナオミは嬉しそうな顔をしている。それは僕が一番好きなナオミの表情だった。
大切な人が笑顔をくれるのは嬉しい。でも僕みたいな弱い人間がナオミを好きでもいいのだろうか。僕は動揺を誤魔化すように、
「ナオミさ、これ、持ってて」
ナオミにリュックから取り出した弾を抜いたリボルバーを手渡そうとする、
「いいの? ヒカルが持ってた方がいいんじゃない?」
「僕は大丈夫、ナオミが本当に追い詰められて後がない時の為に持ってて」
そして僕は迷い無く続けて言う、
「ナオミ、いざとなったら僕を見捨てて逃げて、出来るだけ時間は稼ぐから。それで一人になって、もうどうしようもない時は、それ使って」
僕が生きている間はそんな物使わせたくない。可能な限り使わなくて済む道を探す。万が一のためだ、強力な武器はナオミに持っていて欲しい。
「なんで……? なんでそんな事いうの……?」
ナオミは今にも泣き出しそうな暗く哀しい表情をしている。
ナオミは誰にでも優しい。こんな僕にすら、そんな彼女だからこそこれから先も生き残るべきなのだ。でも僕は違う、僕は死んでもいいんだ。声に出さずに付け足す。
「なら……行かない」
ナオミ静かにでも憤りを込めて言った。僕の袖を掴んで離さない。
「ヒカルが死ぬ気なら行かなくていいよ、もう少しここにいよう? 助けだってもうすぐそこまできてるかもしれないし!」
ナオミは目に涙を浮かべて言った。
その言葉と表情に心臓がキュッと痛んだ。
僕だって死にたい訳じゃない、ナオミと再会して心の底からそう思う。けどどうしようもなくなったら、ナオミだけでも生き延びてほしい。それにもう学校の食糧もそう何日も持たないだろう。それに、それに、それに――――。
(僕は生きてもいいのだろうか? ナオミを危険にさらしても二人で一緒に足掻くべきなのだろうか? 二人で生きていける道を探してもいいのだろうか?)
「ごめん、なるべく生きる」
「うん……」
そう言うとナオミはリボルバーを受け取り、スクールバッグにしまった。
「その代わり」
ヒカルが持ってて、と一発の弾丸を渡された。




