光の中の覚醒 ――弔い――
朝日が眩しい。目を細めて起き上が――――ナオミの顔がすぐ傍にあった。僕は一瞬にして覚醒し目を見開く。ナオミは僕に抱きついて静かに寝息を立てていた。頬に涙の痕が見える。でも昨日の事で特に怪我はしていないようだ。ホッとして呟く。
「よかった」
(それにしても……。生きてる? あれだけ血をながしたのに、助かったのか? 肩と左腕には包帯が巻いてあった。感覚はあるし、動く。特に異常はない。でも、なんで……指も折れたはずだ。それに確か右眼の下に、裂傷があったような……。というより目は潰れたはずじゃ……傷が――――消えてる。幻だったのだろうか……。いや、でも――――。)
考え込む僕の視界にナオミの寝顔が目に入った。安心して穏やかな寝息を立てている。
なんでもいい。ナオミさえ無事なら、なんでもいい。信じられない奇跡でもなんでもいい。今はナオミが起きるまで静かに待とう。僕は僕はナオミを起こさないように、静かに再び眼を閉じる。
教室には木漏れ日がさしている。太陽はまだあがるんだ。温かい希望をすぐそばに感じて僕は自然と笑みを零していた。
腕の中でナオミが目を覚ました。既に起きていた僕に気づくと目を丸くして驚いて、
「ヒカル! 体は大丈夫? どこか――」
「大丈夫、どこも折れてないみたいだし、普通に動くよ。包帯とか巻いてくれて……治療してくれてありがとうナオ――」
「良かった!」
瞳を潤ませてそう言うとナオミは僕を抱きしめてくれた。正直すこしだけ体が悲鳴を上げたけど、僕はやせ我慢して「ありがとう」と言った。
それから携帯食料を二人で食べて、帰り支度を始めた。
廊下に出ると昨日の出来事が本当にあった事だと実感した。破壊の嵐が吹き荒れた廊下にはドアや窓だった破片と、異形の遺体が見えた。
「離れて待ってて」
「だいじょうぶ……?」
ナオミは不安そうにしていたが、まだ使えるかもしれない矢を回収するため異形に近づいた。
あらためて見ると本当にこの世のものとは思えない。凶悪で醜悪な怪物は完全に事切れているようだった。
(異形も元は人間だったのだろうか? 人間だったとして、どうしてこの人だけこうなった? どこから来たんだろう? こんな怪物が他にもいるのだろうか?)
僕は心の中で冥福を祈った。
続いて佐々木と首の無い胴体も確認に向かう。首の無い二つの遺体。
「佐々木……助けられなくて、ごめん」
佐々木とはあんな事になったけど…………。
(何か他に解決方法はあったんじゃないか……? 何か全員で生きて行ける道が……。今更考えても遅い、もう取り返しは付かない、そんな事は解ってる。でも分かっていても、どうしてもそう考えてしまう)
佐々木の首の無い遺体を見て呟き、安らかに眠れるように願った。
続いて首のない女子生徒の胴体に目を向けると、破けた制服に見覚えがあった。
「この、制服……西條さんのだ」
ナオミの方に向き直って教えるように言った。
「えっ」
そういうと、ナオミも恐る恐る近づいてきた。
「胸元が破れているの……、そうじゃない……かな?」
「あ、そういえば……そう……だね」
「ごめん。西條さん……見つけて上げられなくて……ごめん……」
僕は目頭が燃えるように熱くなり、こらえきれず涙を流した。
「ヒカル……」
西條さんにも哀悼の意を捧げると、僕達は校門へ向かった。




