西條清美の望み
夕暮れが過ぎ、あたりはもう時を置かず闇に包まれる。真っ暗な空が怒る様に稲光が走った。雷鳴が雲を蹴散らし轟く。嵐は確実に近づいて来ていた。
西條清美は知っていた。ここに自らの願いを叶えるモノが存在することを。
清美は体育館の前に佇んでいた。全ては佐々木純のためだ。この世界では、今はもう出来ない散歩。あれを再びやるために、純君のために、影山光を殺す。
西條清美は高校にあがるまで勉強一筋で、それ以外は何も知らなかった。
でも純君がそんな私に教えてくれた。女として生まれた嬉しさを。肉の喜びを。カラダを蹂躙される快楽を。心まで穢される快感を。
純君との出会いは図書館だった。放課後ひとりで勉強していた時のことだ。図書館準備室で二人の男女が全裸で絡み合っていたのを目撃した。驚いた私は物音をたて、二人に見つかってしまったのだ。そして純君に犯された。私自身すら知らない体の隅々まで見られ、穢された。17年の人生を、純潔を散らされた。そしてその時の一部始終を動画に撮られた。私はそれ以来、佐々木純のどんな命令にも言いなりの奴隷になった。
ご主人様から下された色々な命令。その中でも屋外での首輪をつけられての全裸の散歩。私はそれの虜になった。私は解放された。初めて自由になった。何度も知らない他人に私の全てを見られた。初めて会った男性に体の全てを触られた。普段なら関係を持たないような、見知らぬ他人のカラダを満足させた事もある。そのときは恥辱に死にたくなった。でもすぐにそれも快感に変わる。
私はもう一度したいのだ。犬猫のように連れまわされ、晒されたいのだ。あの快感はいまでもわすれられない。思い出すだけでも体の中心がうずき、至上の悦楽に濡れる。あれをもう一度やりたい。あの高揚感はなにものにもかえられない。
純君の願いを叶えれば、また私を連れ出してくれる。私でもっと遊んでくれる。
私をもっと汚してくれる。
あの世界を取り戻す。そのための一歩だ。
清美は念のため体育館の横にある小窓から改めて中を確認した。体育館の中は死屍累々、筆舌に尽くしがたい地獄だった。死の嵐が吹き荒れ全てを巻き込み一匹の怪物の暴力に喰い荒らされていた。
これを今解き放つ。全ては純君のために、影山君を殺すために。
体育館の扉は鎖で雁字搦めに縛られていた。まるで危険な何かを封印するように。『決して開けてはいけない』そう訴える様に、何重にも鎖が絡みついている。
私は扉に巻き付けられた鎖をボルトクリッパーで切断し封印を解く。
(さぁ、出ておいで)
そして私は地獄の門戸を開いた。
体育館の中央には一匹の醜い怪物が佇んでいた。これから振るう悪魔的な暴力に力を溜めるかのように。




