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不思議な朝と彼女の行方

 翌朝、僕はなんの痛みも感じずに目が覚めた。後頭部の傷も、触ってみたが今となってはあったのかもわからない。殴りつけた拳も少し傷が残っているが、普段と変わらずに見えた。僕の後頭部はどれぐらいの傷だったのだろう。血だまりが出来るくらいだから、かなり出血していたはずだけど……。

(あれも僕のイメージだったのか? それとも…………)


「おは……よう」

 僕がおずおずとそう言うと、佐々木の傷を見ていたナオミが「ヒカル!」と言って駆け寄って来た。その背後で佐々木が、僕の覚醒に気づいて『ビクッ』と体を震わせた。

「怪我の具合は……どう? 傷は痛む?」

 そう言って、ナオミは眉間にしわを寄せ僕の傷をまじまじと見つめた。

「傷は残ってるけど痛みも無いし平気みたい、それより」と言ってから僕は立ちあがり、机に置いたリュックを取ろうと近づいて「ちょっとした救急箱もってきたんだ。ナオミ、顔と腕の傷、大丈夫?」

 僕はリュックから取り出した救急セットを、「これ使えるかな?」と言ってナオミに見せた。

「私は大丈夫、それよりヒカルと佐々木さんだよ」

「僕は平気だから、佐々木君の手当してあげてくれる?」

「うん」


 ナイフを取り上げ、腕をビニールテープで縛りあげられた佐々木は、一晩中なきじゃくっていた。そして自分を守るように教室の隅でずっと丸まっている。佐々木はナイフの他にも黒い鈍器のような物を隠し持っていた。僕の頭を殴ったのは多分これだろう。それも当然取り上げた。

「いひゃいょおぉ……ひひゃいよぉ……もぅひゃだょぉぉ」

 佐々木の顔は元が解らないくらい壊れていた。眼窩も折れ、目が血で満たされて赤いビー玉のようになっている。

「みゃまぁ……ままぁたしゅけてょぉ……」

 自分の流した涙に傷口を痛める佐々木を見て、すこし気の毒になった。あの時は脳が溶けるくらいに激昂していた。とはいえ少しやりすぎたかもしれない。

 僕が近づこうとすると、佐々木は悪魔でも来たように騒ぎだすので、治療はナオミにまかせて離れる。

 離れ際にふともう一人の生存者の顔を思い出し、僕は聞いた。

「あれ、そういえば西條さんは?」

「あ!! 西條さん……どこ行ったんだろう」

 昨日は完全に疲れきって、佐々木を縛り上げた後、僕はすぐに眠ってしまった、ナオミも完全にそれどころではなかったようだ。


「あ、そうだコレ」

 と言ってリュックからリボルバーを取り出しナオミに渡す。あまりに日常からかけ離れた物の登場にナオミは驚いた様子で、

「っ! どうしてこんな物もってるの?」

「そこで拾った」

「えっ本物……なの?」

「たぶん……」

「でも、どう使うの?」

 と、不安そうな表情で聞いてきた。

 映画ではよく見るし、エアガンで遊んだこともある。けど正直に言った。

「わからないでも――――」

 シリンダーの開け方と、弾の込め方、ハンマーを上げて撃つ、という。最低限解っていることだけ説明する。ナオミはわかった、と言ってスクールバッグにリボルバーをしまい込む。

「――あ、あと弾」

 と言って六発の弾丸を渡した。しかしナオミは困ったような表情に変わり、

「でも私きっと使えないよ……半分はヒカルが持ってて」

 と言って三発の弾丸を渡された。僕はポケットに受け取った弾丸を入れ、

「うん、きっと使わない方がいい、ホントのホントの最終手段、今は弾込めなくてもいいけど、後がなくなって本当に危なくなったら使って」

 人間相手に脅しに使うにも現実感が湧かないだろうし、リスクが高い。万が一暴発なんてこともあるかもしれない、なるべく使わなくてよければそれに越したことはない。と付け加えて、ナオミは「うん」と答えた。

「じゃぁちょっと西條さん探してくるよ、なにかあったら叫んで」

 まずは校舎内を探してみるから、と付け足し、

「うん、こっちはまかせて」

 ナオミの返事を聞いてから教室のドアを出た。


 僕は西條さんを探しに、取りあえず今いる二階校舎を見て回った。それから一階から三階までの教室を全て確認して回る。

 夜中の不気味さとは打って変わって、太陽が降り注ぐ昼間の校舎は普段と変わらずに見えた。僕の鼻が麻痺してしまっただけかもしれないが、異臭なども特に感じない。

 そこかしこに遺体はあったが、校舎内に動くモノは何も居なかった。

(人以外はいたら困るけど……)


 三年の教室を探索している途中、一つの教室の黒板に、気になるメッセージを見つけた。黒板には、

『目覚め生き抜いた人々へ 脱出の用意あり ここで待つ』

『東京百貨店 姫町坂○×―×―○○』

 と、メッセージの下に地図が貼ってあった。この場所なら知っている。母さんと買い物で何度か行ったことのある大型デパートだ。あそこはマンガの品揃えがすごい。また行きたいな、と思う。

「目覚めってなんだろう? ゾンビが現実に居るって認めることか?」

(それにしてもこのメッセージは本当だろうか? 誰かが適当に描いたイタズラ? 罠の可能性は? でもこのままここにいても……。)

 しばし考えるも答えは出ない。

「とりあえずナオミに相談してみよう。」

 僕は踵を返し、ナオミの居る教室へ戻る。そして道すがらに考える。


 ここから抜け出したいとは思っていたし、移動の手段もある。でも正直どこへ行けばいいわからなかった。その指針がなかった。それが今になって急に現れた。このメッセージの場所、罠かもしれないけど、生き残り脱出できる可能性はまだあるかもしれない。学校から無事出られて、ナオミがこの提案にOKしてくれたら、行って確かめてみるのもいいかもしれない。とにかく一つは希望が見えてきた。目標が定まった。

(あ、でも佐々木はどうしよう……?)

 それに西條さんもいるから……どっちにしろ車をなんとか手に入れるしかない……か、でも運転出来ない……、どうしよう。そうだ伯父さんの車で運転の練習しようかな…………。あ、そう言えば駐車場で僕がタイヤを射抜いた車……伯父さんのじゃない……よね――――。


 教室に戻りナオミに見つけたメッセージを相談した。


 その後、暗くなるまで西條さんを再び捜しにでたが、とうとう彼女を見つける事は出来なかった。


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