再会
「ヒカル…………なの?」
心細げな声に振り返るとナオミが立っていた。最後に見た時と変わらないショートボブの髪に制服姿。少し疲れてやつれている風に見えたが特に怪我をした様子もなくホッとした。
ナオミは緊張の糸が切れたように、
「ヒカル! よかったー!」と言って僕に向かって走り寄り、「大丈夫? 怪我してない?」と言って、怪我を探すように僕の体を見回す。
「う、うん、あ、その」
いきなりのナオミの登場にドキっとしてうろたえる。安堵と驚きで『助けにきた』とはいえなくなってしまった。言ってもおこがましいけど。
「ちょっと一人になっちゃって、食糧も心もとないし避難しにきてみたんだけど」
と軽く誤魔化す。
「えっ! おばさんもしかして……」
「いや、母さんはちょうど、避難前に父さんのとこに行った」
「そっか、おばさん無事なんだ!」
よかった~と、心底ほっとしたようにナオミは胸を撫で下ろす。
ナオミは母さんとも仲がいい、伯父さんとも一応知り合いだ。僕達が避難してこないのを心配してくれていたようだ。伯父さんが死んだ事は言わないでおいた。正直に話してもどうにもならないし、なにより僕が止めを刺したと言いたくなかった。病気に感染していたとは言え、僕が殺した事に違いはない。思い出し気分が沈む。
そんな考えを悟られないように僕は聞いた。
「ナオミは今まで大丈夫だった?」ナオミは何か考えるように俯いている、続けて違う質問を聞く「避難した人は何人くらいいるの?」
ナオミは悩んだ様子で答えあぐねているようだった。
「ナオミ?」
その時校舎の方から二人の人影が近づいてくるのが見えた。二人はキョロキョロと周囲を確認したあと駆け寄ってくる。男子生徒と女子生徒だった。男子生徒の方は見覚えがあった。確か同じ学年の佐々木だ。
「影山君?」
佐々木が声を掛けてきた。佐々木純は同級生で僕より背が低く細身で柔和。いかにも草食系の優男だ。男性アイドルグループのセンターにいそうな顔立ちをしている。誰とでも分け隔てなく接する、僕とは正反対のクラスの人気者タイプだ。
おずおずと佐々木が言った。
「えっと僕二年の佐々木純。影山君と同級生なんだけど覚えてるかな?」
知ってる、と頷くと、佐々木は「よかった」、と爽やかに笑った。
続いて黒髪を三つ編みにしたメガネの女子生徒が近づいてきた。少し破れた制服を着た女子生徒が、にこやかにお辞儀をしながら自己紹介した。
「私は二年の西條清美っていいます。初めまして」
誰からも好かれそうな、温和で優しげな雰囲気が伝わる。西條さんは勉強が出来て、校則違反などやりそうもない優等生の見本と言った見た目だ。そして生徒会などに所属してそうなしっかりとした印象を感じる。
しかし彼女がお辞儀をした瞬間、破れた制服から胸元が露わになった。ブラジャーをしていないのか、薄明かりに照らされたピンク色の二つの突起が見えた。僕は心臓が鳴るくらいドキッとして、目をそらしながら自己紹介をした。
「っ! ど、ども、影山光……です。一応ここの……二年生……で……す」
西條さんは気づいていないのか、にっこりとした笑顔を全く崩さないでいる。混乱のさなかにブラジャーが千切れてしまったのだろうか、と思いつつ、久しぶりの他人との会話に大いにどもる。目のやり場にも困った。(マズイ……ヘンな奴だと思われただろうか……)
「単刀直入にいうと、もうこの学校内で生き残ってるのは僕たちだけかもしれない」
佐々木が眉間に皺をよせ苦しそうに言った。
佐々木が言うには、最初は百人以上の避難者がいたらしい。でも数日後の夜、体育館に入り込んだゾンビがほぼ全ての避難者を喰らい尽くしたそうだ。事態に気づいて襲われなかった人もパニックになって、蜘蛛の子を散らすように逃げ出したらしい。そして体育館は今は施錠してあると。食糧や水は避難者の持ってきた物を貰っているらしい。
事情を説明し終わると佐々木が提案するように言った。
「今日はもう暗いし、ひとまず僕らが避難している教室にいこう」
僕は「わかった」といって佐々木の後に付いて行った。




