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葛藤  ――決まり切った答え――

 洗面所の鏡に映る自分を見つめる。少し伸びてきたM字バング風の髪型。疑心暗鬼に満ちたギラつく目。自分の物ながら僕はこの死んだ魚みたいな目が嫌いだった。


 高校へ行くと決めた翌日は雨だった。気持が揺らぐ。そして雨にホッとしている自分を嫌悪する。行くと決めたのに。命など惜しくないと思っていたのに、死んでも後悔しないと思っていたはずなのに……。怖くなる。『こないだゾンビを倒せたのはマグレだ』自信がなくなる。『今もナオミが助けを待っているかもしれない』焦燥に駆られる。『そんな事ない行けるさ』『犬死にするだけだよ』『それでもいいこんな状況でずっといるなら……』『でも僕なんかが学校まで行った上で、ナオミを助けられるのか?』と自問自答を繰り返す。


 遠くで雷が落ちた音が聞こえる。雨が強くなり風が家の壁を激しく叩く。

『ひょっとしたらナオミはもう……』そんな考えがちらつく。そんなはずはないと振り払う。


 頭がいっぱいになったその時、鏡の中に映る窓に人影が見えた。迷彩服を着た少年が、何か黒いライフルのような物を持って立っていた、ような……気が……する。僕はその幻影を『キッ』と睨みつける。すると、幻影は逃げるように消え去った。

「僕は……もう……ダメ……?」

(僕は幻覚までみるような状態なのか? そんなに追い込まれているのか?)


 予想外の自分の状態にショックを受ける。母さん……ナオミ……誰でもいい。誰か大丈夫だと言ってくれ。伯父さんなら……、伯父さんなら言ってくれるのに……豪快に笑う伯父さんの笑顔が瞼の裏に浮かぶ、もう会えない事を思い出してしまう。


 気分を変えるために、部屋に戻りマンガを読む。しかし考えや妄想、懸念が脳裏を次々に過る。内容が頭に入らない。それにもう何度も読み返した漫画だ。結末が決まっている話にイライラする。


 気を紛らわすために使えそうな物資を整理する。食料が目に入る。『今頃お腹をすかせてないだろうか? のどが渇いてないだろうか?』『いや、ひょっとしたら避難先は物凄く安全で、僕なんかが助けに行く必要なんかない! 食料も豊富でみんな案外楽しそうに過ごしている。そうだそうに違いない!』

 こんな状況なのに、ヘンな所でポジティブになる。自ら危険に飛び込むのをなんとか止めようと思考を巡らす。『自分に生きている価値なんかない』その一方で『まだ死にたくない』考えが堂々めぐりする。激しい雨も手伝い憂鬱になる。自分のヘタレ加減が本当にイヤになる。寂しさが見えない圧力となってのしかかってくる。重く酷く寒い。


そんな雨は数日続いた。『明日が天気なら……行こう』お決まりの言い訳だ。


でも答えはいつも決まっていた。


『それでも行くんだ』と。


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