甦る希望
家の周囲にはもうなにもいない。でも平和を守る謎のフルフェイスは存在するし、『何も居ないって事はここらは安全地帯かもしれない』そう思った僕は少し大胆になった。
すっぽんぽんになって、家の周りを奇声を上げて走ってみた。人目を気にせず振り回しながら走る。三週したところで周囲になにも起こらないのを確認し、
「ハァ……むなしい……」
一体なにをやっているのか……無性にさびしくなった。
ふとガレージをみると、久しく乗っていないバイクが寂しそうに佇んでいるのが目に入った。
家に戻り服を着て、鍵を持ちバイクの前に立つ。
CB400Tホーク2。独特のエンジン音を響かせる空冷二気筒。その名の通り風を防ぐ風防が、自らを守るように付いている。
ガソリンタンクを触ったら頭の中に声が聞こえてきた。
『まだ走れる』『年寄りを舐めるな』『連れて行ってやるよ』
聞こえたそれは僕の希望かもしれないけど、そう訴えている気がする。
伯父さんが整備してくれた、伯父さんの少年時代に生まれたバイク。威風を漂わせる旧車を見つめながら呟く。
「まだ動くのかなコレ……」
鍵を差し込みセルスイッチを押してみる。低いうなり声を上げて一発でエンジンがかかった。
「まだ動く」
クラッチもブレーキも問題なし、すこし吹かしてみたが、走行に問題はなさそうだった。
「ナオミが生きていたら一緒に乗って安全なところまでいけるかも……」
実際は中型自動二輪免許を取得してから一年間は二人乗り出来ない。そこが高速道路なら確かさらに三年だ。でも、今は緊急事態なので目をつぶってほしい。というか違反で誰か捕まえに来てくれるなら願ったりだ。大人しく捕まるから、安全なところでぜひ拘留してほしい。
でもなにぶん古いバイクだ、高望みは出来ない。ガス欠まで走ってくれれば御の字だろう。
僕は避難場所の霞ヶ丘高校へ行くことを決めた。




