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西へ

籠城中。


 ある時様子を見に、外を遠出したことがある。引きこもっているから当然だけど、なにも変わらない非日常。どうにもならない閉塞感に嫌気がさし、正直自暴自棄で、どうとでもなれという気持ちだったからだ。


 でも一応少し武装していく。冷やした緑茶を淹れた水筒を首にかけて、バールと鉈を腰に差し、弓とショルダー型の矢筒を背中に背負う。それと念のため財布も持っていく。


 エンジニアブーツを履き、玄関を出て鍵をかける。まだ日は高くそこそこのいい天気だった。

 あらためて装備を確認して、

「よし、これで死んだらもういいや」

 本当にそんな気持ちだった。まったくの孤独は本当に生きている意味が無いと思った。煩わしかった伯父さんが懐かしい。母さんは無事だろうか、ナオミは……。


 基本的に人間は苦手だったが、あまりに接触がないとさびしくもなる。実際に出会っても、どうせまともなコミュニケーションは取れないだろう。けど、誰か、誰でもいい、誰かに会いたい。でも、なるべく善良な人に会いたい。目に映るだけでもいい。とにかく生きている人を感じたかった。


 十七年生活している見慣れた家の周囲(テリトリー)。しかし今やそこは未開。家の周囲数十メートル以降は未知の範囲、あたりに目を配り意識して普段よりゆっくり歩いた。

 何事もなく数分歩き、ビルが多く立つ商業地区に入る。


 実際外を出てみると、案外早くに気配はあった。そしてついに、生きている人を目撃した。目が合うと、なにやら困惑しているようだった。どうやらその人はビルの三階で籠城しているようだった。その人達、かもしれないが……。とくに何か言いたそうでもないし、こちらからコンタクトを取るつもりもなかったので、そそくさと通り過ぎる。

 こんな時にも相変わらず発揮される自分のコミュ症(クソスキル)に辟易したが、まだ自分は一人じゃないと確認できただけで、幾分か心は救われた。自然と口角が上がり、歩くスピードが大胆になる。


 少し歩くと以前たまに行っていたコンビニが見えた。コンビニにはもうかれこれ一カ月以上は行っていない。店内がどうなっているか気になった僕は、危険が無いのを外から確認し、中に入ってみる。

 ドアを押しあけ、一応声をかけつつ、

「お邪魔しま~す」

 恐らく誰もいないのに間抜けだな、と言ってから思った。


 海外のニュースとかで、『暴動が起きると略奪が当たり前』みたいな映像をよく見たのをふと思い出した。悲鳴や怒号、煙があがり、事故が起こり、店が燃える映像。その中で何かを奪って走っていく人達『この人たちは地球の終わりでもテレビとかを盗むのかな?』と見るたびに思っていた。


 コンビニの中はそれほど荒れてはいなかった。多少は棚に空きが見えるが、食べ物と飲み物類もいくつか残っている。(このコンビニに来た時は必ず買って帰る僕の好物『かりあげくん』は当然無かったが……)日本人はやっぱり真面目だ。と誇りに思う。

 入口近くの本コーナーを見て回る。

「お、新刊でてたんだ」

 集めている漫画の最新刊がおいてあったので、脇に挟む。横に蟹あるきして雑誌も見ていく。すると、一瞬ドキッとする。

「う」

 車やバイクの情報誌の横に、エロい系の雑誌がおいてあった。普段は立ち読みできない場所に、生唾をゴクリと飲み込み、周囲を確認してから、しばらくパラパラとめくる。

「この人……、保健室で金谷と居た人だ」

『期待の現役女子高生グラビアアイドル!』と書かれた文字の下には、誘うように胸を寄せて挑発する水着姿の女性の写真が写っていた。

 その雑誌も脇に挟むと、僕は少し前かがみになりながらレジに行ってお金をおいてから、外に出た。


 それからしばらく歩いたが、意外にも道路は車が走れそうだった。こんな状況なのに映画で見るような、『荒れ放題で車が燃え道を塞いでいる』ような事にはなっていなかった。多少は自走不能な車もあるが、避けて通れる範囲だ。

(『ここから先』はわからないけど……)とまだまだ続く道路の先を見て、少し不安になる。

「暗くなる前に帰ろう」

 夕暮れが近づいてきたのを感じ、その日の探索を終了する。踵を返して足早で家に戻った。


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