孤独
籠城中。
基本的に小食だし、水道もまだ出る。普段は食べない缶詰類とかもたくさん見つけた。ミネラルウォーターも3ケース程はある。伯父さんの家にもまだ食糧はあるだろうし、今のところ空腹で死ぬ心配は無かった。味にもそんなにうるさくないので、この先カンパンみたいな味気のないものでもたぶん耐えられる。
ストレス解消も見つけたし、弓の扱いもそこそこ慣れたとおもう。
ハードディスクに撮りためたアニメを観終わって電源を切る。
「ハァ……」
テレビの音がなくなると、まったくの無音。静かすぎる。たまに聞こえるのは強風が家に当たる音だけだ。
前はうるさいと不快に感じていた騒音が懐かしい。家の前を通り過ぎる酔っ払いの大声や歌声、何が楽しいのかわからない話を大笑いで、何故かウチの庭の入口で繰り広げる知らないおばちゃん達。窓を全開にして押しつけるように大音量を響かせる車。無駄に排気音の大きいバイクをやたら吹かしながら走る人達。それら全てが懐かしい。うるさかった日常の音。人が出す音が酷く懐かしい。
近くにはもう誰も居ない。人が居ない。
人がいない。
今までは居留守を使っていたが、もう電話が鳴る事もない。
「今なら出るのに」
今となっては誰でもいいから話したかった。ヘンな勧誘の電話でも――。
孤独。
それだけが今の問題だった。オフラインのゲームはNPCしかいない。同じ事、決まった事しか言ってくれない。
「トーヤはどうしてるだろ? 無事だといいけど」
せめて別れの挨拶はしたかったな、と彼もしくは彼女の身を案じる。
「また逢えたらいいな」
引きこもり生活になってから使う事が多くなったパソコン。パソコンでネットを見て回ってるときは、寂しさもまだ気にもならなかったし、むしろ一人が心地よかった。ネット上で間接的にも――人が居る――生活感をかんじられた。繋がりが確認できた。
今はそれすらもなにもない、さびしい。たださびしい。見えない何かに心がおし潰されそうになる。
外で物音がすると今まで以上にびっくりするが、たぶん猫とかだろう。
『電気とガスがあるだけまだまし』、と自分に言い聞かせなんとか耐える。
避難したナオミはどうしてるかな、彼女の――――ナオミの笑顔を思い出し呟く。
今ものすごく会いたい。




