予兆
再び引きこもり後へ飛びます。
引きこもり中。ゾンビ発生前。
引きこもってからはもっぱら、スレイヤーというオンラインゲームをしていた。現実ではまともに話せない僕も、ゲームの中でなら他人と自然に話せていた。と自分では思う。
その日はゲーム中での数少ないフレンドの一人、トーヤと二人でクエストに挑んでいた。
モンスターとのバトルの合間にトーヤが切り出す。
「あのさ、最近そっち物騒じゃない?」
「え? なんで?」
「ニュースでやってる通り魔とか、たしかヒカル東京だよな?」
トーヤには僕のアバターの名前が本名で、東京に住んでいることは話していた。
「トーヤも東京でしょ?」
僕もトーヤが東京に住んでいるのは知っていた。
「そうだけど、ここらは特にそんな事件ないんだよな」
確かに最近周囲が慌ただしい時がある。救急車はもとより、消防車の出動も確かに多い。
「んでさ、こないだ見たのよ動画」
「なんの?」
「錯乱したやばそうな奴が、暴れて人襲ってる動画。作り物にしてはリアルだったんだよなぁ。血がすんげぇ噴き出してたし」
「そんなのあるんだ……」
「まだ消されてないと思うけど――――」
ゲームの攻略動画とか実況はたまに見る。でも僕は『いじめ』とか、『処刑』の動画とかそういう『暴力系』はたとえ作り物だと言われても絶対に見ないようにしていた。
「――今噂のあの都市伝説、本当かもな」
「それなら僕もネットで見た。謎の伝染病で、噛まれて感染した人が凶暴になるってやつだよね」
「そうそう、マジならやばいけどさ、ちょっと映画みたいで興味そそられるんだよな。そんなんまるでゾンビじゃん?」
「確かに……そう……だね。でも今のところは僕の周りじゃ襲われた人もいないし、まぁたまにサイレンが聞こえるくらいかな」
「うーんそっか、まぁお互い気をつけようぜ」
正直ほとんど家に引きこもってるから心配ないけどね、と思いつつ「うん」と答えてバトルに戻る。
トーヤには僕が不登校で家に引きこもってる事は言っていない。ゲームをやっている時は四六時中プレイしたりするから、薄々僕が引きこもっているのには気づいてるだろうけど……。トーヤも割と僕に時間を会わせているから、『案外引きこもり同士なのかな?』と思ったりもする。けどお互い突っ込んでリアルの話は聞かなかった。




