集団
彼女はそれを一つの生命体の様だった、と比喩した。
「それは執拗に何かを探しているようでした。その何か、について私には皆目見当もつきませんが、機械的に揃えられた足音が遠ざかったと思えばまた近づいてくる。私は何となく見つかってはいけないような気がして、部屋の隅に隠れていました」
「……成程。だからさっき君は集団にまつわるワードに対して過剰に反応したのか」
そう言いながらルイは後ろの背もたれに寄りかかった。
そしてルイは目線を左上に持っていく。何となく嫌な予感がするのは、それが自身の周辺に関わってくる話なのではないか、という憶測が頭を過ぎるからだ。保護する目的で探していたと考えるのが普通だろうが、どうも何かが引っかかる。そう例えば、保護を第一の目的とするならば、届け出のある家主の名前を呼んでみたりして声を上げたりする筈だろう。もしリズが自分の名前と知らずに聞き漏らしていたとしても、こんな言い方をするのだろうか。一つの生命体のようだった、なんて。それは少なからず己が身に恐怖を感じた例えだ。
「まあ、考えたところで出る答えではない、か……」
ぽそ、っと独り言のように呟いたルイは、コーヒーを飲み干して立ち上がる。
「リズ、僕はちょっと出かけてくる」
「何処へ?」
「さっきの場所へ。何か痕跡がないかもう一度調べてみようと思ってね」
「私も行きます」
「……そうしたいところだが……すまない。君は此処にいてくれ。その方が安全だと思う」
「そう、ですね」
少し残念そうに肩を落とすリズ。何処か心細そうにも見える。
「此処は好きなようにしてくれて構わないから」
「……わかりました」
不安を隠すような笑顔で見送るリズに、「すぐ戻るから」と声をかけてルイは外へ出た。時刻は10時を回っていて、街はいつもの活気ある姿に。そうだ、帰りには新装開店したというパン屋に行って2人分の昼食を買っていこう。そんなことを考えながら、ルイはもう一度今朝通った道を歩き始めた。




