初めての共同生活1
主人公本格稼働です。
この小説は現代日本を舞台にしたファンタジーを目指します。
“児童養護施設 みどり園”
べただなぁ。全国に1万ぐらい同じ名前の施設があるんじゃないかな。とは、大樹は思わない。いや、これからの名前は大樹ではなく“大江 一郎”だ。交番があった場所の元の村名だそうで、仁科巡査長がつけた。べたではなくレトロだと思う。つくづくべたの方がよかったな。
仁科巡査長はごまかされていなかったと思うけど、結果として記憶喪失で押し通すことが出来た。ここが大江一郎としての僕の新しいスタート地点になる。
みどり園は新生児から受け入れる養護施設だ。0歳から18歳ぐらいまでの子供が共同生活をしている。僕は年齢不明ということで5歳として登録された。
園長先生は元教師という感じの初老のおばさんだった。他に若い職員さんが何人かいるらしい。園長先生について長い廊下を歩いていくとざわざわとした人の気配がした。濃密で一つの生き物のようにも感じる。前に公園で近所の子たちと遊んだときはこんな感じだったかなぁ?
園長先生が入って行った部屋には12人の子供たちがいた。
「一郎君。この子たちが君のお友達になる幼児組よ。」
まず目についたのは巨大な男の子。身長は僕の倍ぐらいあるんじゃないかな。幅は3倍はある。そしてもう一人壁際で体育座りしている男の子。なんか黒雲を背負っているように見えるよ。
黙って見回していると、巨大男子と妙にひょろっとした男子が近付いてきた。
「よう。お前チビな。」
「大也君。人の悪口を言うんじゃありません。」
園長先生、すかさず巨大男子に拳固を入れている。
・・・先生やるな。
「っう・・。」
「僕には大江一郎という名前があるよ。」
自己紹介のタイミングとしてはどうなんだろう。園長先生まで呆れたように見てるね。
「チビのくせに度胸あるやん。よし、お前を2番目の子分にしてやる。」
「どうもどうも、僕は大也君の一の子分のネオンだよ。音を2つ重ねて書くんだよ。」
後のはひょろ男子だ。しかし音音でネオンて、親の素性が一発で分かるな。
同い年くらいの双子の女の子も近寄ってきた。
「鈴子だよ~。」「蘭子だよー。」
「一郎君てカッコいいね~。」「ねー。」
「どこに住んでたの~。」「のー。」
「ピーマンは好き~?」「蘭子はキラーイ。」
なんか双子がくるくると僕の周りを回ってる。「~」が鈴子で「-」が蘭子かな?
「ところであの子は?」
さっきから気になる壁男子を指指して聞いたら、思いっきり睨まれたよ。掬い上げるような視線で。こわい。指なんか指して悪かったよぉ。
「元和君はほっとこう~。」「ほっとこー。」
「何にもしゃべんないの~。」「のー。」
幼児組は小学校入学前の子供を集めたらしくて、乳児も2人いる。ダイヤとネオンと元和君が6歳で、鈴子と蘭子が5歳だそうだ。あとの子もダイヤが一通り紹介してくれた。ダイヤはそのまんまのガキ大将で、面倒見はいいようだ。ネオンはとにかくよくしゃべる。年少組の先輩の誰と仲が良いとか、職員さんの誰々が乱暴だとか。1時間も話を聞いていたら、みどり園の粗方の事が分かってしまった。鈴子と蘭子は特殊なキャラの割に小さな子の面倒をよく見ている。こちらで話したり、小さい子のおままごとに付き合ったりとなかなか忙しい。元和君だけどうにも浮いているようだ。いや、沈んでいると言った方が合ってるかな。
案内された寝室は2段ベッドが並んだ細長い部屋で、子供たちが描いた絵や折り紙がやたらと飾られている。個人のスペースはベッドの上だけで、荷物はベッドの下に入れる。心配した通り僕のベッドは元和君の上だった。
今日はいろいろ有って疲れているはずなのに、なかなか寝付けなかった。
“お母さんはまだこの町にいるのかな・・・。”
僕はお母さんと別れたのはほんの少し前と感じているけど、お母さんにとっては11年前だ。もう、会っても僕のことは分からないだろう。
ベッドの下から何かぶつぶつ言う声が聞こえてきた。何か黒いものが上がってくるような気がする。余計眠れないじゃないか。
僕は周りが速く動く力を使った。
ようやくファンタジーな展開に出来ると安心しています。
登場したキャラクターを受け入れてくれるとうれしいです。