早すぎる子離れ
まだ、SF展開を引きずっていますが、この小説は現代日本を舞台にしたファンタジーを目指しています。
やはりナノマシン治療には問題があったのね。
ナノマシン注入後多発性硬化症の症状がみるみる改善したのは嬉しかった。機密情報の無断使用がばれる心配はあったけど、大樹の笑顔を見ればこれでよかったと思えた。
おっぱいを痛いほど力強く吸うのも幸せを感じた。
ただ、3か月ほど過ぎて初めてはいはいをしたときに不安が芽生えた。四つん這いになり手を挙げてバランスを崩しかけた時、大樹は上げた手を凄い勢いで打ち降ろした。まるので早送りのようだった。あれは断じて赤ん坊の動きじゃない。
それからも時々大樹は早送りのような動きをした。
更に大樹は私の感情に敏感に反応する子だ。ぐずっていたのに、私がイライラしていれば、抱き上げるとなだめるように笑いかけてくる。気のせいだと思っても、あの被験者の接触型情報交換が思い出される。他の人に賢い子だといわれると複雑な気持ちになった。
そして大樹が1歳になる少し前私はあれを見てしまった。
あの日大樹は壁伝いに立ち上がると私に向って歩き出そうとした。右足を上げバランスが崩れそうになると、あの早送りの動きで上げた足が降ろされる。次に左足も同じように。あれじゃまるで下手糞なマリオネットよ。更に大樹が初めてしゃべった。
「マ・・マ・・」と。
最初の「マ」は舌っ足らずな子供らしい声だった。でも足を振り下ろしたときに出た次の「マ」は音程が1オクターブも跳ね上がり壊れた機械のように聞こえた。
これほど気味の悪い‘あんよ’を私は初めて見た。
それからの大樹は一種の天才になった。2歳になるころには自らがに股歩きを矯正し、走れるようになった。3歳になるころには大人でも追いつけないほど速く走るようになり、驚くほど高い木にいつの間にか登っていることがあった。さらに自ら工夫してトレーニングを行い、背こそ小さいものの少年と言っていい体型を作り上げた。言葉こそ拙いが大人と適切に応対することもできる。その姿は少年紳士というのがピッタリだ。
繰り返すけど大樹はまだ3歳なのに。
2歳のころから大樹はあの早送りの動きはしないようになった。しかし、今日公園で遊んでいた時に幼稚園の子がジャングルジムから落ちた。その時一瞬にして大樹はその子の下に移動し、受け止めた。勿論受け止めきれずつぶされてしまったけど、5mはあった距離を大樹は確かに一瞬で詰めた。
加速装置?
冗談にもほどがある。あれは絶対にナノマシンの影響よ。
ナノマシンは神経の伝達速度を速めることが出来るとしたら、熱いものに手が触れた時のような反応をいつでもできるのかもしれない。
大樹はいずれ人の目に留まるようになるだろう。そしてそれが政府指定の極秘技術によるものと気付かれるかもしれない。
そうなったら私はどうなる!
お疲れ様です。
母親はまじめで視野が狭い研究者の設定ですので、独白させるとテンポが悪くなりますね。
次からはテンポよく話を進めるつもりです。どうかお付き合いください。