最悪の目覚め
いよいよ主人公の登場です。
なかなかファンタジーな展開になりませんが、この小説は現代日本を舞台にしたファンタジーを目指します。
産道を通って外の世界に押し出された瞬間、まだ開いてもいない瞼を突き抜けて強すぎる光が押し寄せてきた。目の奥が焦げるのではないかと思うほどの痛みが襲ってくる。
「ぎゃああああ・・・・・。」
食道から羊水を一気に吐き出し、肺を膨らませた後に出たのは、産声なんて生易しいものではなく、悲鳴だった。
次いで慌てて看護婦が抱き上げた時に来たのは、腰から首に走る電撃のような痛みだった。その痛みで失神できてよかったと思う。
今は暗い部屋に寝かされているみたいだ。ズキズキするけど目の奥が焦げるような痛みはない。ただ、体中がだるくて背中の柔らかい布以外何も感じない。もしかすると僕には手足がないのかな。
手を動かそうとしてみた。すると首に電撃が走った。
「ぎゃあ・・・・・・ぎゃああああ・・・・・・」
後のは部屋が明るくなった途端に襲ってきた目の痛みだ。
どれぐらいの時間がたったのかわからない。産まれてからは痛みと失神の繰り返しだった。今はただ無気力に横たわっていた。
かちゃりという音がして空気が揺れた。覆いが外されたらしい。何か懐かしい匂いと食欲を刺激される乳のにおいがした。
「ああ・・。」
お母さん?と聞いたつもりだったのだけど、それは弱々しいうめき声にしかならなかった。お母さんと思われる人は僕をなるべく動かさないように何かしているようだった。でも僕には手足の感覚がないのでよくわからない。
しばらくするとお母さんは静かに覆いを閉めて去って行った。
「ああ?」
右手に微かに暖かい感覚が広がっていった。
大分時が過ぎて、僕は母さんの家に移ってきた。
産まれたばかりのころのような痛みは嘘のように退いて、もう普通にあたりを見ることができるし、身動きをしても電撃が走ることもない。
とても安らかな気持ちだ。
「ふぇふぇぇ・・・」
お腹がすいたと泣くとお母さんが来ておっぱいを含ませてくれた。何かやさしく話しかけてくれる。僕は本当にお腹がすいていたので一生懸命吸い付いた。するとお母さんの声が少し間延びしたように感じた。
今日ははいはいに挑戦してみた。
片手を上げるとバランスを崩してすぐに転がってしまう。僕は頭が重いんだ。柔らかい布団の上だから痛くはないのだけと、四つん這いになるのは結構疲れる。今度こそ転がらない様に右手を挙げて・・・・ぐらついたかなと思ったとたん水に包まれたかのように周りの動きが遅く感じられた。僕はそっと右手を降ろしたつもりだけと、タンといい音がした。そして動きが元に戻った。手首が少し痛かった。
お母さんが慌てて僕を抱き上げてくれた。何か言っているみたいだけど、まだ意味は分からない。
ただ、なぜかお母さんの感情が分かった。驚きと・・恐れ?初めてのはいはいで驚きはわかるけどなぜ恐れ?
言葉がずいぶん分かるようになってきた。抱っこしてもらいながら話してもらうとお母さんの感情が分かるので言葉も理解しやすい。「おねむ」「おなかすいたの」「かわいい」といったよく使われる言葉は完全に理解できる。ただ、「かしこい」という言葉はなんなんだろう。他の人に言われるときは褒められているように聞こえるのに、お母さんが言うときは不安と恐れの感情がある。同じ言葉なのに違う意味があるのかな。
1歳になる前に僕は歩けるようになった。そして
「ママ」
と言った。
褒めてくれると思ったのにお母さんは化け物を見たように立ち竦んでいた。
主人公が産まれました。(笑)
産まれたばかりで大人な思考をしているのには目をつぶっていただけると助かります。1人称小説で赤ん坊から始める弊害ということで、