鬼神との遭遇4
何か夢でも見ているみたいだ。
中学生3人に裏庭に連れ込まれて、囲まれた。「調子こいてんじゃねえぞ!」とか、「何が呪いの匡だ。ガキがぁ。」とか言われた。
“呪いの匡”何て呼ばれるようになってからこんなことが増えた。
この人達にとっては“呪いの匡”というのはカッコいい二つ名なのだろうか。
僕は暴力も怖いけど、その後に起こることがもっと怖い。その直前まで僕を恫喝していた人が、本当に目の前で人が気絶してしまうんだ。目覚めた後性格が変わってしまう人もいるし、そのまま元に戻らない人もいた。そんなことは嫌なのに僕にはどうしようもない。
何も抵抗しない僕に中学生達は嗜虐性を刺激されるのか、にやにや笑いが広がってきて、襟首ををつかむ手に力が入る。
“殴られる。”
そう思ったとき、その中学生が倒れた。そして足元を小さい影が走った。気が付いたら中学生達は地面に倒れていて、慌てて逃げ出した。
そこにいたのは幼稚園児にしても小さい男の子だった。
「匡さん?」
「あ、はい。・・・・」
僕は随分長い間茫然としていたらしい。男の子が覗き込むようにして僕に話しかけていた。
「大事な話があるのですが、中に入りませんか。」
少年がお茶を汲んできてくれた。黙ってお茶を飲む。頭の中がグルグルしている。何が起こったのだろう?この男の子は何?
「匡さん。これから信じられないようなことを言いますが聞いてくれますか?」
「えっ。はい。」
「匡さん。僕にはあなたの後ろに古代の武人がいるのが見えます。」
えっ!?
「多分匡さんの呪いはこの武人が起こしています。」
えぇ。霊視。これは何かの宗教の勧誘?
「信じられないですよね。だけど僕には見えるし、悪いものではないと思うんです。そして僕はあなたにその武人に会わせてあげられると思います。ただ、前にそれをしたとき、相手は自失してしまって2週間近くも入院しています。
お父さんに相談して武人と会うかどうか決めてください。
ただ、放って置いたら、呪いはまだまだ続くと思います。
僕は大江一郎と言います。幼児組にいます。」
それだけ言って一郎君は席を離れた。
日曜日、お父さんと会った後ファミレスに入った。お父さんは料理も掃除もできない人なので、家の中は大変なことになっていると言った。
仕事が忙しいそうでほとんど帰るのは深夜になることが多いそうだ。その合間を見てお母さんを見舞に行っているらしい。元気にしていると言っているけど多分嘘だろう。父さんはひどく疲れた顔をしている。
僕は一郎君のことを言おうかどうか迷っていた。
普通に考えればまともじゃない。こんなことを話したら、お父さんが余計に心配してしまうのではないだろうか。でも、僕に起こっていることがそもそもまともじゃない。誰かに相談出来たらどれほどいいだろう。
「匡。何か悩んでいるようだね。どんなことでも笑わないから言ってごらん。」
そう促されて僕は一郎君のことを父さんに話した。父さんはしばらく考えてから話し始めた。
「一郎君という子は本当に神様が見えているのかもしれないよ。
匡も知っているように宗像というのはお母さんの姓だ。宗像というのは古い家で昔は神職でもあったらしい。ほら、奥の座敷に大きな神棚があるだろう。あそこにタケミナカタという神様が祀られている。
タケミナカタノ神は有名な大国主命の息子さんで、今は諏訪大社に祀られていることになっている。宗像の家はタケミナカタノ神の直系だと亡くなったお義父さんが言っていたよ。
一郎君の見た古代の武人というのはタケミナカタノ神様かもしれないね。」
信じられないことに、お父さんは一郎君の話を信じたようだ。でも、
「この呪いは神様が起こしているというの?何で神様がこんなひどいことを・・・」
「匡。昔の日本の神様は良いことも悪いこともするんだよ。正しく祀られなければ、人に害をなすことも多い。父さんはタケミナカタノ神様をどう祀ればいいのか分からないし、今は母さんにも頼めない。だからタケミナカタノ神様は怒っているのかもしれない。
父さんは一郎君に頼んでタケミナカタノ神様に会わせていただくのがいいと思う。
ただし、どこでも良い訳ではない。一郎君に家に来てもらえるか聞いてみなさい。」