プロローグ
現代ものなので、主人公が特殊な能力に目覚める設定を考えました。科学的根拠は特にありませんが、ここだけちょっとSFしてます。
この小説は現代日本を舞台にしたファンタジーを目指します。
「多発性硬化症・・ですか。」
「ええ。あなたも専門家ですから気付いていたと思います。眼底反応もそれを裏付けています。」
「でもあれは成人が掛る病気のはずです。」
「それは統計にすぎません。確かに息子さんのように先天的な症例は有りませんでしたが。」
そう。気付いていたわ。時折引きつるように痙攣するし、目も開いていないのに光に過剰に反応するし、手の平に指を押し当てても握り返してこないし。
生まれたばかりの私の息子に現れているのは、私自身が最近まで研究してきた患者の症状。
多発性硬化症。神経線維を覆う鞘が炎症を起こして剥離し、神経線維が剥き出しになってしまう奇病。私は医者ではないけど、研究室で特殊な機能を持つナノマシンを開発したことから何年もこの病気にかかわってきた。その治療は結果として失敗したけど。
それはリチウム電池の電極に使用するために開発したナトリウムとクロムの合金だった。インゴットではあまり特徴がない合金だったけど、電磁誘導できる医療用マイクロマシンの素材として10マイクロメータの粒子にしたときに奇妙な性質が現れた。照射した電磁波をその粒子がコピーして発信したの。それが反射ではないことは、1回の照射で複数回の発信があることから明らかだった。そしてそのコピーはあらゆる波長の電磁波で起きた。
どうしてそのような現象が起こるのか。極小の粒子とした際、合金が多層構造となることは解析されましたが、原因はわからなかった。しかし、問題はその機能。この金属粒子が一定濃度で存在すればアナログ波を劣化することなく高速で送信できることが分った。もちろんこれは電話回線のような大出力の通信手段に利用できる技術ではないけど、もっとはるかに微弱な、そう、神経の活動電位を増幅できるのではないかと私は考えた。
これは神経性疾患の治療に役立てることができる。
金属を100ナノメートル以下の粒子とし、神経に炎症を起こさせたマウスに投与した。思った通り時間がたつと粒子は電位を生じる神経に集まり機能を補うように働いた。神経の障害で歩けなかったマウスは見る間に回復し、それどころか知能まで向上したように見えた。1匹の被験マウスに迷路を攻略させると、他の被験マウスも攻略できるようになったの。
数々の検証を行い動物実験はクリアーした。
人による臨床実験は多発性硬化症の患者に対して行われた。治療の効果が最も期待できたからだ。一人目は問題なかった。投与後数日にして突発的に起きる激痛はなくなり、視力も回復した。
そして二人目の被験者に投与した後とんでもない欠陥が見つかった。二人目の患者も順調に回復し、無事退院。被験者同士が喜びのあまり手を取り合ったとき、二人は固まってしまったの。そして数分の硬直の後、二人の動きは完全にシンクロするようになった。
接触時ナノマシンによって情報交流が起こり、お互いの記憶が交換・統合され同じ一つの人格となってしまったことが後の調査で分かったわ。
研究は政府に接収され機密扱いとなってしまった。今頃ろくでもない目的に使用されているに違いない。
しかし、自分の息子が被験者と同じビ病気になるなんて、私は呪われでもしたのだろうか。
しかし、まて・・・・。一人ならばこの治療法は完全に病気を治すことができる。機密扱いされたといっても、原料は既に民間利用している合金だし、私なら息子を治すことができる。・・・・・
お疲れ様でした。
次回から主人公が出ます。