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LINK・NEW・WORLD~BERESHITH~  作者: 七時雨虹蜺
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Act1-9

Act1-9「見える・見えない」


 ガレオンは人々の喧騒渦巻く街中を一人で歩いていた。周りから見れば普通の冒険者だ。

「一体どこへ行こうとしてるんだ……?」

 カルマはガレオンの後を追いながらそう呟いた。今ガレオンが向かおうとしているのは人気の少ないエリアだ。なんでも、そこには目立った施設は無く、小さな集会場が点々としているだけだ。

 カルマは少し緊張してきた。冒険者として、数々の修羅場はくぐり抜けてきたつもりだが、ここまで緊張してきたのは久しぶりだ。恐らく初めて〈レイド〉に挑戦した時以来だろう。

 しかし、カルマは知りたかった。自分のギルドは何をする為に存在して、ギルマスが何をしようとしているのか。

 カルマは息を整え、再び尾行を開始した。


 追うこと数分。ついに人足がぱったり途絶えた。街の中心部の発展についてけなかったのだろう。周りにあるのは古ぼけた家屋で、人が住んでいそうな気配はない。ゲーム時代の頃にこんな場所だあったかどうか疑問だが、これよりも不思議な事は山ほどある。なぜ、このゲームに飛ばされたのか。なぜ、外と一切連絡が取れなくなったのか。なぜ、ガレオンはこの依頼を引き受けたのか。

 するとガレオンは路地を曲がり、薄暗い裏路地へと入って行った。

 そこでカルマがMFU(マルチ・ファンクション・ユニット)の電源を入れると、〈技の発動が可能エリアです〉と表示されていた。通常、混乱を避ける為〈ポリス〉では技の発動が出来ない。コマンドがロックされるのだ。

 しかしここのエリアだけは〈ポリス〉内であるはずなのに技の発動が可能なエリアに指定されているらしい。

 でもなんでここなんだ……? いや、とりあえずガレオンを追わなければ。

 そう考えたカルマは息を潜め、〈カメレオン・スタイル〉を発動して自分の姿を風景と同化させた。


◇◆◇◇◆◇


 裏路地に入ったガレオンは後ろに人影がない事を確認して、更に奥へと入って行った。建物が陽を遮り、薄暗い空間を作り出している。道の端でくるまっていた黒猫が小さく啼いた。

 しばらく進んだ所で黒いコートの男と肩がぶつかった。その男は顔を機械のような物で覆っていて顔は確認出来ない。男は小さな鍵を落した。

 ガレオンがそれを拾い、男に差し出しながら訊ねる。

「傘は持っているか?」

「ええ、今日は降りませんがね」

「手術台の上にミシンとコウモリ傘、どう思う」

「とても美しい、と思う」

 うむ、とガレオンは頷くと男は鍵を受け取った。

「それで、〈レイブン〉。仕入れた情報を。報酬はその後だ」

「オーケイ。じゃあ手短に話そう。結果は、『得られなかった』だ。残念だがな」

「そうか……お前でも入手出来ない情報とは……」

 〈レイブン〉は「ああ、ホント、まいっちゃうぜ」と肩をすくめた。

「だがな」と、〈レイブン〉は続ける。

「最近、裏の方では[ユタ]という言葉が頻繁に飛び交ってる。あんたが言ってたシャーマンだ。一人仲間にいるだろう?」

「ああ、いや……」視線を伏せる。

 言葉を濁すガレオンに〈レイブン〉は気づいた。

「まさか、逃げられたのか?」

「まぁ、そうだ。でも、しょうがなかった。彼女に正体を悟らせるわけにはいかなかったんだ」

「おいおい……まずいぞ。多分〈シャークファミリー〉をやったの、あんたらだろ」

「ああ。それがどうしたんだ」

「あの一件であいつらかなり頭にきてる。そのうち組全員でも来るかもしれないぜ」

 笑ってるな、とガレオンは思った。マスクのせいで表情は窺えないが、長年の勘だ。

「そうだな。その時は、昔みたいに一発やるさ」

「ハハ、それもいいな。懐かしい」

 〈レイブン〉は顎に手を当てる。

「だろ?」

「戻りたいよ。昔にさ。あん時は良かった……システムもまだ不完全で、バグだらけだったよな。それで、初めて【レイド】に挑んだ時――」

「――フィールドの床が抜けおちて出られなくなった」

「そうそう!」

 二人でどっと笑う。暗い路地に笑いという明るい花が咲き誇り始めた。

「いやー、もう一度だけでもいいから一緒に組みたいもんだな」

「そうだな……全てが終わってから、もう一度、組もう」

「ああ、んで、今回のとは関係ないんだが、一ついいか?」

「ん、なんだ?」

「今回の『異変』で中東の方では緊張が高まってる。今すぐにでもでかいドンパチが起きそうなくらいな」

 ガレオンは腕を組んで「紛争か」と言った。

「それくらいならイベントでもあったろう?」

 【紛争】イベントはゲーム時代の頃にも多くあった。世界規模をシュミレーションするにあたって、このイベントは不可欠なものであったのだ。現実では戦争を否定している日本だが、ゲームの世界で言う日本にあたる国――〈ユニポリス・ヤマト〉は既に数回の戦争を経験している。本土での決戦もあった。負けた事もあるし、勝つ事も。

「だが、冒険者が多く傭兵として駆り出されることになる。まだ分かっていない奴らが多すぎるんだ。この世界での『死』を」

「そうだな」

「悠長な事言ってる場合か! 場合によってはここにまで戦火が広がる可能性も否定できない! 〈ユニポリス・アメリウス〉は当然この紛争に関わってくるだろう。仮にそうなった場合、連鎖的に本土まで来るぞ!」

 ガレオンは〈レイブン〉の両肩を掴んだ。

「落ち着くんだ。直になるようになる。今は〈ガバメント〉のAIがイカレていないことを祈ろう――それはそうと、客が来たようだ」

「?」

 〈レイブン〉が後ろを振り向くと、そこには二人組の体格の良い男たちが立っていた。二人はお揃いの赤塗の拳銃〈コカトリス〉を構えている。

「〈シャークファミリー〉の連中か」

 ガレオンは背中から盾と剣を引き抜く。

「答える必要はない」

 二人は同時に引き金を引いた。

 ダァン! 

 ダァン!

 それぞれの銃口から一発ずつ空気を引き裂きながら弾が発射される。〈コカトリス〉のスライドが後ろに下がり、薬莢が飛ぶ。

 放たれた弾はガレオンに向かって進む。が、それはガレオンの盾にぶつかってぺしゃんこになった。

「逃げろ! 〈レイブン〉!」

「あ、ああ!」

 〈レイブン〉は急いで踵を返し、来た道を戻って行った。

 剣を振って、一歩進む。

「さぁ、かかってこい」

 それと同時に再び銃声、ガレオンは横に回転してそれを避け、体に捻りを加えて跳び上がる。

 〈シャークファミリー〉の二人は機敏に動き、跳び上がったガレオンを銃口が捉えた。

 なるほど、いい動きだ、とガレオンは思った。立て続けに放たれた三発ずつの弾丸が回転するガレオンのすぐ横を通り抜ける。

「だが!」

 着地と同時に一人を斬り付け、銃床で殴ろうとするとするもう一人を盾で弾き、剣の柄で後頭部を思いっきり殴った。殴られた男は沈黙した。

 斬られた男からに紅い池が広がる。それはガレオンの足まで広がり、金属を朱に染めた。

 ガレオンは動かなくなった死体を見た。それと同時に死体は光の粉と成り、空気に溶けて消えていってしまった。

 しかし、そのせいで気づかなかったのだ。後ろから刀を振り上げようとするもう一人の男に。

「――!」

 気づくのが遅かった。

 

 ザクリ


 と刃物が肉に刺さる音。

「あ、がッ……」

 ガレオンに襲いかかって来た男の左胸には銀色のクナイのような刃物が突き刺さっていた。男はニ、三歩後ろによろめいたと思うと、吐血して地面に倒れた。

「何かあると思えば……危なかったな。ギルマス」

 今まで姿を隠していたカルマが路地の真ん中に立っていた。

「カルマ……つけて来たのか」

 「まぁね」と、ガレオンの横を通り過ぎ、死体の胸に刺さった刃物を引き抜いた。銀色の刀身に紅いぬらぬらした液体がべっとりとついている。

「でも、危なかったでしょ?」

「そうだな。今回は救われた」盾と剣を後ろに収めた。

「ゲームの世界とは言え、急所を狙えば一発で確実に絶命させられる。現実と変わらないな」

「人を殺したのに、随分と冷静だな」

「慣れてる、ってワケじゃないけど、初めてじゃない。感情を制御する術を持ってるのさ」

 ハンカチで刀身を拭き、右肩のケースに収めた。そして自嘲気味に笑った。

「犯罪歴があるのさ。なのにこうやってゲームに興じてる。おかしな話だと思わないか?」

「確かに、不思議ではあるな」

「ま、その話はまた今度――ってワケにもいかなそうだな」

「出来れば、話してもらいたい。個人的にも気になる」

「そうですね……とりあえず、場所を変えましょうか。ここはどうも生臭い」


 人がいない廃墟の中で、二人は座った。床や天井はところどころ朽ちていて、今にも抜け落ちそうだ。暖炉も、真っ黒く煤けている。

 カルマの顔に影が差すのと同時に話し始めた。

「俺が人を殺めてしまったのは三年前にまで遡ります」

 手を組んでガレオンの目をしっかりと見据えた。


 俺はあの時、普通に街中を歩いていた……


 黒いジャケットの男は雨降る住宅街を紺彩の傘をさしながら歩いていた。大粒の雨が傘を打つ。目に入る全ての物が灰彩に見えた。住宅、道路、空、自分……。

 その時、目に鮮烈な赤が飛びこんで来た。それは赤い傘だった。隣に並んで歩く青年と話している少女が持っている傘だった。灰色の世界に咲く赤い花。男の目線は一気にその傘に釘づけになった。惚れた、と言われればそうなるかもしれない。だが、その時の男は何も考える事が出来なかった。

 そして二人組が男のすぐそばを通り過ぎた。

 その時だ。異変が始まったのは。

 男の頭の中に『何か』が入ってくる感覚。

 必死に閉めだそうともがく。

 が、『何か』の力は想像以上に強かった。

 一瞬で自分の全てを掌握されてしまった。


 気づいた時には、目の前に倒れ込む少女に大きな赤い花が咲いていた。自分には、その赤い花から放出された液体のような赤い花粉がべっとりと付着していた。右手には、鈍く光る護身用のナイフが握られていた。

 そしてその瞬間から、男はこの世界から『彩』を見いだせなくなった。


「んで、その後精神鑑定に回されて、責任能力無し、ということで今に至ります」

「そんな事が……」

「まぁ、最初はびっくりしてたけど、もう慣れた。この感覚には」

「………」

「………」

 暗い部屋に静寂が訪れた。二人の姿は、誰も見ていない。

 

 空も、


 生き物も、


 そして、


 お互いに。


◇◆◇◇◆◇


 宿に戻ったアクミ、カツミ、アカリは結局買った品物をどうやって保管しようかと悩んでいた。

「やっぱり返した方が……」

「うっさいなー。今考えてんでしょうがッ!」

 買物となったらカツミは厳しい。

「あー、はいはい」とアクミは手に持った服を箱の上に置いた。

「こんな服、いつ着るんすか? ここから先も旅ですよ?」

 それを聞いたカツミは肩を一瞬ビクッ、と震わせた。そして、「あー、やっぱ買いすぎたか……」と肩を下ろす。

「気づくの遅いですよ!」

 アクミがツッコんだ。

「誰かに預けられないんですか?」

 アカリが突然そう言った。

「おお! ナイス! アカリちゃん!」

 カツミは手に持った服を放り投げ、アカリの両肩を掴んで揺らした。

「あ、あ、あ、あ、あ、ありがとととうございまぁーす!」

 揺らされているせいでうまく発音出来ていない。

 投げ出された色とりどりの服が舞う。それらは電球の光を受けてキラキラと輝く。アクミはその光景をずっと見ていた。


◇◆◇◇◆◇


「ん? 買った服を誰かに預けられないか、と? うーむ、一応あてがある。そこに行ってみよう。ちょうど私もそこに行こうと思っていたのだ……ああ、南側の門近くだな。了解した」

 ガレオンはMFU(マルチ・ファンクション・ユニット)の電源を切って、腰のポーチに仕舞った。ガレオンは立ち上がる。腐りかけた床がギシ、と鳴った。

「どうしたんです?」

「いや、カツミが服を買いすぎたらしい。誰かに預けたいそうだ」

「ああ、納得」

「じゃ、行く途中でこの場所について話そうか」

「はいはい」カルマが立ちあがる。


 廃墟を後にしながら二人は並んで歩きながら話していた。

「元々この場所は、ゲーム時代の頃は背景だったんだ」

「背景?」

 確かに、それなら地図に載っていなかったり、技の発動も出来るのかもしれない。

「ああ、ここの近くには〈ユニポリス・ヤマト〉の軍事基地があった。それで、ヤマト最初の【紛争】イベントの第一段階、【本土決戦】が起こった。そして軍事基地が集中していたこのシナノは真っ先に標的にされた。その結果、基地ごと街は焼き払われた。――その後、ヤマト軍は形勢を逆転、戦いには勝利した。それで、復興が行われたが、一部は予算が降りず、ゲーム時代には背景になっていたというワケだ」

「へぇ……そんなことが……」

「ゲームの裏にに歴史あり、ってことさ。ほら、着くぞ」

 カルマは空を仰いだ。空は暗い紫に覆われようとしていた。はたしてここは現実なのだろうか。


 カルマにはまだ、答えは出せない。


◇◆◇To be continued……◇◆◇





◇◆◇Word Explnation◇◆◇


・【紛争】 世界の全ての事象をシュミレートするために必要不可欠な要素、『戦争』をイベントとしてする時に用いられる言葉。二段階あり、まず、第一段階は敵の本土に乗り込む。第二段階は敵の〈ガバメント〉を落とす。それで勝利となる。勝てば勝ったユニポリスは好景気になり、物価が安くなるが、負ければ物価が急上昇したり、一部の建物が使えなくなったりと、景気がガタ落ちする。その為、このイベントが発生した場合。殆どの冒険者たちが参加することになる。


・〈ガバメント〉 現実世界で言う『政府』のこと。ヤマトの〈ガバメント〉は〈エド〉に存在する。

これからしばらく改稿していくので、次話の投稿はしばらく先になります。

改稿が終われば、お知らせしますのでよろしくお願いします。

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