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LINK・NEW・WORLD~BERESHITH~  作者: 七時雨虹蜺
7/9

Act1-7

Act1‐1に文を大幅に追加したので、見てない方はまずそちらを!

※10/18現在

Act1-7「現実という檻の中で」


ピリリリリリ! ピリリリリリ! ガタンッ!

 電子音をうるさく撒き散らす目ざましに怒りの鉄拳……もとい手を振り下ろして止める。

 山吹優衣は大きな欠伸と伸びをして起きた。

 目ざまし時計の日付には『2056/07/15』と表示されている。

 ぼさぼさの髪を掻きむしりながら優衣はカーテンを開ける。暗い部屋に暖かな日差しが差し込んだ。

 最近出番の少ない勉強机の上に置いてあるスマートフォンを手に取り、電源を入れる。

「今日のニュースは、と……」

 アプリボタンをタップして電子新聞を起動させる。そこには、『謎の意識不明患者、謎の脳死』と大きく見出しが出ていた。

「………」

 優衣は何も言わずに読み始めた。


 兄貴が意識不明になってから三日。世間は集団意識不明現象を『ゲーム病』とか、『異変』とかと呼んでいた。

 もちろん原因は不明だ。

 ネットの暇な皆さんもこぞって正直どーでもいい自論を書き込んでは、議論する。陰謀とか、テロとか、世界の終わりだとか……全く無駄。これを見てるとむしろ「あ~、暇な奴って結構いるもんだな」って思う。

 私は書かない。読むけど、何も干渉しない。だって、とやかく言った所で何も変わらないでしょ?


 ……まぁ、そのせいで「空気さん」っつーヘンなあだ名が付けられたけど。



◇◆◇◇◆◇


 私が教室に入ると、人は半分くらいいなかった。『異変』以降、二日だけ休みになってからの登校日だがここまで人が少ないとは、意外だった。

 殆ど男子だけかな、と思ったけどそうでもないらしい。姿が見えない女子もチラホラといる。しかも、他人との付き合いがうまくいってない人や、いじめられているらしい女子のみだけだが。

 学校は大体こんなもんで、見えない所でいじめは起きる。一度だけいじめにあっている女子を見かけたことがあるが、特に何も思わなかった。ただ、吐き気がするような現場だった、それだけしか覚えていない。誰がやっているのか、誰がやられているのかなんて、もう忘れた。

 本を読んでいると、男子の喋り声が耳に入って来た。

「……なぁ、あんたの所の兄ちゃんもやられたんだろ?」

「ああ、ほんっとバカだよな。ゲームばっかやってるからだよ」

「そういえば、噂で聞いたんだけどさ。意識不明の奴は全員『ヘッドギア』を使ってプレイしてたらしいぜ」

「確かに、兄貴も使ってたな」

 噂、噂、噂、噂。世界中に溢れてる情報源の一つ。噂? だから何? と思わず聞きいてやりたいところだが、私は干渉するのは嫌いだからな。何もしない。

「いろんな国のお偉いさんも意識不明とか」

「うわっ、やべーじゃん。このまま世界が滅んじゃったりして」

 バカか。こんな事で世界が滅びるならとっくに消滅してる。

「そりゃねーだろ」

「それもそか」

「そーいや、リニラジも終わっちまったな」

「しゃーねーよ。リニワ永久凍結だし」

「なんか他に面白いゲームない?」

「さぁな……」

 そんな話をしながら男子二人組は廊下に出て行った。

 確かブログを除いてた時、

【悲報】リニワ永久凍結決定!(泣)

 とか見かけたような気がする。

 ヘッドギアか……あいつに頼んで調べてもらおっかな……

 本を読みながらそう考えていると担任の教師が入って来て朝の会が始まった。


 そして授業が終わり、帰りの会が終わった。同時に教室が騒がしくなる。部活に行く者、帰宅する者など様々だが、優衣はスマートフォンを取り出し、連絡先からメールを送る相手を選択した。選択した名前は、『モジャ天』。

 タッチパネルを使って文字を打ち込む。

『差出人:山吹優衣

件名:無し

本文:頼みたい事がある。五時ちょうどに駅前の時計塔に来い。来なかったら帰るからな。ぴったりだぞ。必ず来い』

 送信ボタンを押した。

 送っちゃったな~、という後悔の念が拭いきれない。

 『モジャ天』こと田中秀一は、高校生にして天才ハッカーであり、引きこもり。その腕はかなりの物でFIBくらいなら平気で覗けるくらい。まぁ、ぶっちゃけかなりヤバいことに手を染めているが、母親はただのゲームだと思っているらしい。ちなみに、『モジャ天』の由来は、髪の毛がもじゃもじゃで、天然パーマだからである。

 更に彼は、私に好意を抱いている、ようだ。そう考えると寒気が背筋をぞくりと震わせる。

 スマートフォンをバッグにしまうと、優衣は家に向かって駆け出した。


◇◆◇◇◆◇


「ただいま!」

「おかえり~」

 家に帰ると、母の(ゆづる)の気の抜けた声が聞こえた。優衣はそのまま二階へと上がる。

 ドガッ、バキッと上から音が聞こえる。

「あの子、何やってるのかしら」 

 弦は首を傾げる。

 そして二階から降りてきた優衣が慌ただしく降りて来る。

「行ってきます!」

「七時には戻って来るのよ~!」

 声が届いたのか、ん~! という音と共に乱暴にドアが閉められた。

「全く、忙しいわね」

 弦はお茶を一口飲んだ。


◇◆◇◇◆◇


  家からヘッドギアを持って来た優衣は駅前の時計塔の前についた。走って来たせいで息が切れ切れだ。運動が苦手なくせに無茶するからだ。

 時計塔の前には天然パーマのもじゃもじゃ頭。秀一だ。

 

 五時を知らせる鐘が鳴る。カラスが飛びたった。何となく、嫌な予感が頭をよぎった。


◇◆◇◇◆◇


「いやぁ~、まさか君から僕に連絡くれるなんて思いもしなかったよ」

 「お邪魔しま~す」と秀一の母に軽く会釈しながら家に入り、階段を上る。バッグの中にはゴツゴツしたヘッドギアがかなりの面積を占めている。正直、かなり重い。

「まぁね。気になることがあるし」

「そうか。じゃ、ようこそ。俺の城へ」

 その部屋は薄暗く、中には数台のモニターのみが光を放っていた。窓にはカーテンの代わりにブルーシートが覆っていて、青い光を部屋に投げかけている。

 兄貴の部屋もいつかこんなんになるのか……と思いつつ部屋に入る。

「んで? 調べて欲しい物って?」

 ああ、とバッグからヘッドギアを取り出す。

「これの接続履歴を調べて欲しいんだ」

「それぐらいなら警察もやってるだろう」

「でも、この目で見たいんだ。やっぱり」

 ヘッドギアを撫でる。冷たい感触が手を伝わる。

「ふ~ん。兄思いなんだ」

 優衣はむっ、と顔をしかめる。

「そんなんじゃないし。てか、やってもらえないなら帰って警察に通報するから」

「ああ! それだけはやめて!」

 秀一はそう叫ぶとヘッドギアをひったくって、とっとと解析を始めた。

 そういえば、どうしてこんな奴と会ったんだっけ。

 優衣の意識は三年前に飛んでいた。


 木の葉舞う中学二年生の秋。今までずっと欠席してた生徒が突然登校してきた。その男こそ、秀一である。もじゃもじゃ天パ頭を揺らしながら彼は私に訊ねた。

「君、コンピューターとか好き?」

「ん? 何で?」

「いや、なんとなくさ」

「てか、アンタなんで今になって来たのさ。ただの引きこもりだろ」

「え、そんな正直に聞いちゃうの?」

 心なしか彼は何となく悲しそうだった。

「ダメか」

「いやダメでしょ普通」

 これが私と彼の最初の出会いだった。正直、私は好きにはなれなかった。引きこもりな所とか、もじゃもじゃ天パとか、とにかく話しててイライラする奴だった。まぁ、彼なりにメッセージを伝えようとしてくれてたようだけど、奥手過ぎて伝わってないのが残念な部分だ。

 二年生が終わると同時に、彼は姿を見せなくなった。それから時折彼から連絡が来るようになっていた。


「ん~、これは流石に厳しいな」

 その声を聞いて優衣の意識は現在に引き戻された。

「んあ、出来るか?」

 ヘンな声が出てしまった。

「大丈夫さ。俺の魔法で!」そう言うと同時に物凄いスピードでキーボードを叩き始める。

 すると画面には優衣には到底理解できそうもないオブジェクトの羅列が広がっている。

「ん、こりゃあ、なんかのルーターの役割をしてるらしいな」

「ルーター?」

「そうだな……データフローが分かれてる……片方は、LNWのサーバーと……膨大な情報……インプラントチップだな。今、位置情報を表示させよう」

 すると画面が半分に分割され、右側にマップが表示される。そこは先日行った大型病院だった。

「兄貴だ……」

 秀一は腕を組む。

「やっぱりそうか……ん、待てよ? じゃあもしかして君の兄さんの意識は、LNWに飛んでるんじゃないの?」

「まさか! ラノベじゃあるまいし」

「まぁ、そうなんだけどさ。常に接続されてるのっておかしくないか?」

「……確かに」

 ヘッドギアがひとりでに起動して人間の意識を繋げてるっていうのもおかしな話だ。

「何かの誤差動?」

「んじゃあ、何で警察はそれを発表しようとしない……まさか、情報が操作されて!?」

 その時、部屋のドアがガチャリと音を立てて開いた。

 二人は息を呑んだ。


◇◆◇◇◆◇


 コーヒーカップを持っていた男はとある部屋の中心に座っていた。

 すると唐突にスポットライトが輝き、20台のブラウン管のテレビが照らされた。テレビは男を囲うようにして配置されている。

 ツォォンとブラウン管テレビが点く。しかし、そこに映し出されているのはモノクロの砂嵐だった。

『これより、第1189回目の会議を始める』

 テレビから初老の男性の声が響く。

『では、メインプログラマー黒乃。報告せよ』

 男は頷く。

「まず、『鍵』は世界に入りました。後は、鍵穴に差し込まれるのを待つだけです」

『GIfTシステムは?』

「ええ、もう完成し、組み込みました。これでNPC、MOB、プレイヤーを問わず有性生殖が可能となりましたので、直に多様性が展開されるでしょう」

『最後に、君に頼まれていた【肥料】の準備が終了したことを告げる』

「そうですか。ありがとうございます。今週中には、全ての作業が完了することかと」

『了解した。では、今回はこれで1189回目の会議を終了する。全ては、人類の為に』

『人類の為に』

「人類の為に」

 黒乃と、ブラウン管テレビの掛け声で会議は終了した。


◇◆◇◇◆◇


 ドアが開き、入って来たのは、公安の特殊部隊ではなく、二本のジュースを持った秀一の母だった。

「あら、けっこう可愛いじゃない」

「ちょ、母さん!」

 秀一は秀一母に駆け寄る。

「別にそんなここで言う事じゃないだろ」

「いいじゃないの」

「よくないでしょぉ」

「あの~、全部丸聞こえです」

 二人はこちらを向く。

『あ゛』


 なんとかして秀一母を押し戻した秀一はジュースを飲んでいた。優衣もジュースに手を伸ばす。

「止めておいた方がいいよ。媚薬入ってるから」

「え! 何で!?」

「いや、最近母さん薬剤調合にハマってるから」

 子供が子供なら、親も親だな。

「てか、それにも入ってんじゃないの?」

 秀一はブーッ! とジュースを噴き出す。思いっきり機械類にかかってしまっているが大丈夫なのだろうか。

「気づくべきだった……」

 秀一は口元を拭う。

「大丈夫、だよな……」

 優衣は後ずさりする。

「あ、ああ。大丈夫だ。俺は理性で動く男だからな」

「そ、そう。ならいいよ。じゃあ、私、帰るから」

 立ち上がってヘッドギアをバッグに詰める。

「あ、ちょっと待て。髪、切った?」

「へ? なんでさ」

「いや……なんか変わったなと思って」

「いや別に何も無いし。じゃ、さよなら」

 踵を返すと足に何かがしがみつく。

「いや! 待ってくれ!」

 秀一だった。

「バカ効きじゃねぇかこの変態!」

 秀一を蹴り飛ばし、部屋を出て思いっきりドアを閉めた。ミシミシと音を立てて壁にひびが入ったが、優衣は気にしないことにした。


◇◆◇◇◆◇


「ただいま~」

家に帰ってリビングに入ると、母と、茶色いコートを羽織ったいかにも刑事らしい男がいた。

「あ、君が、優衣ちゃん。だね?」

 男が話しかけてきた。

「あ、はい」

 冷や汗がダラダラと流れる。なんだか嫌な予感がする。

「私は、捜査一課の『秋元』と申します」

 警察手帳には秋元の顔写真と『秋元 健一』と書かれていた。

「優衣。秋元さんはね、親戚のおじさんを探してるらしいのよ。何か覚えてない?」

「おじさん? そんなんいたっけ?」

「ほら、名前忘れちゃったけど――」

「――風井伸介です」

 秋元が補足する。

「そうそれ」

 優衣は顎に手を当てて考えてみる。

「あ! あの顔面が絶望的な!」

「何か、覚えてるのかい?」

「あ、確かLNWのプログラム書いてるって……一体何が?」

 すると、秋元は神妙な面持ちになった。

「実は、先ほど彼の遺体が発見されたんだ」


◇◆◇◇◆◇


 黒乃は一人でクククと笑う。目の前にはプールに浸かる『ミライ』。

「やっと『本体』が死んでくれた。これで私はこの世界にいないことになった」

 うれしいような、さびしいような。

(マスター)に警告。何者かによって『記憶の杜(メモリー・フォレスト)』に攻撃を受けています』

 無機的な声が部屋に反響する。

「弾き返せ」

『了解……排除完了』

「攻撃元は?」

『ロシア、中国、アフガニスタン等のサーバを経由しているので追跡できませんでした』

「そうか」

 黒乃は手すりに寄りかかって『ミライ』を見た。

「もうすぐだ。もうすぐ……」

 その目には悲しさが宿っていた。

◇◆◇To be continued……◇◆◇





◇◆◇Word Explnation◇◆◇


LNW(リニワ) 『LINK・NEW・WORLD』の略語。『LINK・NEW・WORLD』を示す時、大抵この言葉が使われる。


・リニラジ LNWの情報を配信しているインターネットラジオで、日本語のみで放送されている。

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