Act1-5
どうも、遅くなった七時雨です。
いやぁ、ね。時間が……無い!(泣)
受験生だから思ったように書けない!だから今回は中途半端になってしまった!
と、いうわけで、始まります。
Act1-5「自警団の街」
揺れていた。ゆりかごほど穏やかではないが、一定の周期で揺れていた。
アクミは目を覚ました。
「あ! 起きた?」
視界にアカリの顔が飛びこんで来た。
「うわっ!」
アクミは驚いて跳ね起きる。
木材の車内、〈アルゴー丸〉の車内だ。眠っている間に次の目的地に向かって出発してしまったらしい。
「びっくりした……」アクミは思わず胸をなでおろす。
「アハハ、ごめんね。驚かすつもりはなかったんだけど……」
アカリは少し俯く。
「いやいや! そんなことないよ! ホラ、俺すっきり起きられたし!」
必死に顔の前で手を振る。正直なところ凄く眠い。
「そう! じゃあ良かったぁ!」
アカリは満面の笑みで笑った。
それを見た一同は……癒されるわぁ……と和んでいた。
朝早くはないというのに白月を抱えたシロは大きな欠伸をした。
今日のアカリは、護士のところどころに青いラインがある白い鎧だった。その隣には盾と剣がセットで置かれていた。
朝ごはん兼昼ごはんのパンをたいらげたアクミはアカリに訊ねる。
「そういえば、今何処に向かってるの?」
「えーっと……」
アカリは人差し指を顎に当てて考えるようなそぶりをした後、答えた。
「〈ビレッジ・トミオカ〉だよ」
「あぁ~」と頷くも、どういうところか知らないし、分からない。現実世界では製糸場があるところだとは知っているが。
『NEW・WORLD』は地球規模の広さである為、全ての場所を回るのはほぼ不可能で、主要都市以外あまり知られていない場所の方が多い。いつまでたっても目的地に到着しないのは、地面が舗装されていないのと、かなり入り組んだ地形になっているからである。
「もうすぐ到着だ」、と運転席からガレオンの声が聞こえた。それを聞いた一行は各々の準備を始めた。
アクミは鎧を装着し、9mm拳銃に弾が装填されているのを確認して左腿のホルスターに嵌めた。
窓から顔を出してみると、奥に石レンガ造りの建物が見えた。〈ビレッジ・トミオカ〉だ。
中には停められないということなので、門のすぐ近くに停める事にした。しっかり中に忘れ物が無い事を確認して一行は外に出た。
すると、一人の女性がこちらに向かって走って来た。
「お~い! あんたら、この街に留まるんか~い!」
「はい、そのつもりですが。何か?」
ガレオンが答えた。女性は息を切らしながらガレオンの前でぜぇぜぇと肩で呼吸した。
小柄な女性と並んで立つと、ガレオンの大きさが際立つ。
「えっと……アタシはこの街の自警団系ギルドのギルドマスター、ナツキと申します」
ナツキはガレオンに少々気圧されながらも自己紹介した。
「私はギルド、〈アカシック・キーズ〉のギルドマスター、ガレオンと申します――自警団系と言いますと……PKKの方でしょうか?」
PKK――プレイヤー・キラー・キラーとは、PK行為に対して、武力による解消を目的にする人の事を指す。『LINK・NEW・WORLD』では基本的にPK行為が認められているので、初心者はすぐにやられてしまう。それを見かねた運営側がPKKによる自警団行為を始めたのがきっかけで、今では『NEW・WORLD』中に広がっている。
ナツキはやれやれと首を横に振る。
「そう。ここはな、〈シナノ・ポリス〉と、〈エド・ポリス〉の中継点でしょ? それで沢山の人が来るワケ。で、人も物資も集まるこの街ではPK行為が横行してる。あんたらも気を付けなよ」
「分かりました。ご忠告、感謝します」ガレオンは小さく礼をする。
「ほな、アタシは集会場に戻らないと。ゆっくりしていってね~」
そしてナツキは手を振りながら街に戻って行った。
「では、我々も街に向かうか」
ガレオンは大きめのボストンバッグを掛け直しながら言った。
「え~、もう少し安くならない?」
「いやぁ……ちょっと……」
街の市場で雑貨店の店主相手に値切りしていた。市場はそれなりに賑わっており、PK行為に手を染める輩が狙ってくるのも頷ける。一行は市場で各々必要な物を買ったりしていた。アクミは銃弾や、爆発物の補充をするために、たんまり溜まった〈ムーン・ベアー〉の素材を売り払っていた。
「ホラ、だって在庫余ってんじゃん。ね? ここをどうにか!」カツミは手刀を切る。
「……じゃあいいでしょう。二割引きしますよ。特別ですからね」
店主が呆れたように肩をすくめた。カツミは跳びあがって喜ぶ。
「やったぁ!」
そんな姿のカツミを見て売り終えたアクミが訊ねる。
「そんなに喜んで、何を買ったんですか?」
「野菜よ、野菜。だって、ガレオンさんの食事、脂っこいんだもん」カツミは武具屋でなにやら武器職人と相談しているガレオンを見る。
その後、「まぁ、男らしいっちゃ男らしいんだけどね……」と小さく呟いた。
「おい、お客さん。もうそろそろ帰った方がいいぞ。店も閉めるしな」
雑貨屋の店主が店を閉めながら言った。店を閉めるにはまだ早すぎる時間だ。
「? どうしたんですか?」カツミは野菜の入った紙袋を抱えながら口を開く。
「……この辺りのこの時間はな、ならず者の集団がこの街に来るんだよ。あんたらは悪そうに見えないが、私はあまり冒険者は好きにはなれんね」そう言って屋根を畳んだ。
カツミは頭を掻く。
「じゃあ、しょうがないな……一度ガレオンさんが取ってくれた宿に帰るか」
◇◆◇◇◆◇
アカリとシロは両腕に紙袋を抱いたまま市場からの帰路についていた。空は急に現れた雲によって灰色になっていた。
「いや~、沢山買っちゃったね。シロちゃん」
「『ちゃん』付け止めてもらえます? 気持ち悪いんで」
アカリはシロに笑いかけるも、逆にシロに睨み返されてしまった。
「そういえばシロちゃんはこういうふうに買物した事ってないんだっけ?」
「また『ちゃん』って……ま、まぁ、そうですけど」
気に食わない様子でシロが答えた。
「もしかしてシロちゃんって結構お嬢様だったりする?」
「え……お嬢様ではないと思いますけど、お金はあったと思います。多分」
「へぇ~、いいな~。ね、シロちゃ……ん?」
横に向くと、そこには紙袋が落ちていた。
「え?」
◇◆◇◇◆◇
部屋に入るとガレオン、カルマが部屋の中にいた。部屋は旅館のように和風になっていて、壁は木材、床は畳だった。
「ん、帰ったか」
腕を抱え、胡坐のガレオンは上を向いた。
「ああ、アクミも一緒だ」
結局弾薬は買えなかったな……と、少しがっかりしながらアクミは畳に座った。立ちっぱなしだったので結構疲れた。
アクミはふぅ~、と溜息をついた。
「そういえば、何だか雲行きがあやしくなってきましたね」アクミは呟く。
「そうだな……明日は雨か?」
ガレオンは窓の外を見た。曇天だった。
「ま、大丈夫でしょ。ってか、こんな本格的な冒険したの、『空白の七日間』以来だな」
カルマは砥石で自分の短剣――〈ジーファ〉を買ったばかりの砥石で研ぐ。
「……そうだな」
ガレオンは遠くを見つめながら言った。
『………』
疲れたのか、無言の時間が続く。
~十分後~
「んー、遅い。遅すぎる」カツミは壁に腕を組んで寄りかかりながら言った。人差し指で自分の腕を叩いている。
「何をそんなにイライラしてるんですか?」アクミは訊ねる。
「だって! あの二人が帰って来ないとお風呂に行けないじゃない!」カツミは声を荒げて答える。
「お風呂ぐらい一人でいいじゃないですか……」
アクミは呆れるように肩をすくめてみせる。
「……確かに、あの二人は一体どこにいるんだ……?」
ガレオンは真剣な声で言った。部屋に重い空気が流れる。
その時、部屋の戸が思いっきり開かれた。
「ガレオンさん! 大変です!」
入って来たのはアカリだった。
「どうした!? 一体何が……」
ガレオンは立ち上がってアカリの元に駆け寄って肩を掴む。その瞬間、アカリのグラフィックが揺らいだ。
「し、シロちゃんが、ゆ、誘拐されちゃいました!」
『ッ!』
その言葉を聞いて全員の目が見開かれた。
「ナツキさんには!?」
「は、はい! 一応言っておきましたが、他の任務に行ってて人手が足りないって……ッ!」ガレオンが掴んだ肩が泣いている。
カツミは籠手を着け、カルマはジーファを腰の鞘に収める。アクミは弾倉を嵌めてレバーを引いた。
「急いでナツミさんの所に向かうぞ」
ガレオンがそう言った時には全員が戦闘態勢をとっていた。
「あ! あんたらかの仲間だったのか!」
集会所の前には両腕をすっぽりと覆う金属の籠手――剛拳〈ストライク・デストロイヤー〉を装着したナツキが立っていた。
日はすっかり暮れて、空は紫色に染まっていた。
「ええ、相手の場所は分かりますか?」
「ああ、大体の目星はついてる。悪いが、人手が足りないんだ。あんたらも手伝ってくれるか」
ガレオンは首肯する。
「もちろんです。仲間を助けるのは仲間の義務ですから」
全員が覚悟を決めるように頷いた。もちろんアクミとアカリも例外ではない。
「よし、分かった。ついて来てくれ」
ナツキは外に繋がる門に向かって走り始めた。それに続いて走る。
人影の無い街を武具を纏った戦士たちが走る音が響いた。
◇◆◇◇◆◇
「あ~あ、みんな必死だねぇ」
セカイが建物の屋上からシロを助ける為に森の中に入って行くナツミ達を見ていた。右手にはりんごが一つ。それを一口かじった。
「『仲間』の命がかかってるんだ。当然だろう」
パスートが興味なさそうに呟いた。
「『仲間』、か……どうせ上辺だけの関係じゃん? 彼らにとってさ」
「無知であるが故に、他人を信じようとする愚かな生物。それが人間だ」
「確かに。そうかもね」とセカイはリンゴをかじる。
「一口食べる?」
「いや、遠慮しておく」
◇◆◇◇◆◇
エリアナンバー・24 〈始まりの塔〉
ナツキ達一同は薄暗い森の中に足を踏み入れた。周りには石レンガでできた建物の残骸が散乱している。
「多分君たちの仲間を誘拐したのは〈シャーク・ファミリー〉だ。奴らは人を誘拐して都市で金と交換する」
「人身売買!」
カツミが言うと、そうだ、とナツキは頷いた。
「ゲームの時は金を稼がせる為に強制的に労働させてたみたいだけど、今は現実とそう変わらない世界だ。誘拐したのは恐らく、強制労働させるっていうワケじゃなさそうだな」
まさか……という疑念が頭をよぎる。
「急がないと……」
アクミは歩を速める。しかし、ガレオンに手で制される。
「ッ!」
「焦る気持ちは、分かる。だが、無茶は禁物だ。時に仲間を危険にさらす」
アクミは俯く。
「……すいません」
ナツキが立ち止まった。それに合わせて全員の足が止まる。
「着いた。ここが、〈シャーク・ファミリー〉の本拠地だ」
そこは古びた廃倉庫だった。トタンの壁は錆び、窓ガラスには穴が空いている。いかにも裏組織が取引に使いそうな場所だ。
「で、どうするんだ?」
ガレオンはナツキを見た。
「決まってる。正面突破だ」〈ストライク・デストロイヤー〉を起動させる。拳の穴から火が噴いた。
「おぅ、なかなかやるじゃん?」
カルマがひゅう、と口笛を吹く。それと同時に腰から〈ジーファ〉を引き抜く。
「やっぱこうでなくっちゃね。本気で行くよ!」
カツミは両腰に提げた鞘から秘剣正宗〈双龍〉を引き抜いた。
「わ、私だって!」
アカリは背中から盾と剣を取り出す。
「俺も!」
アクミは背中にマウントした〈ノーマルバレット改〉を取り出して銃身を跳ね上げる。
「奴らに我らの怒りを思い知らせてやる」
ガレオンは背中の〈フォートレス・シールド〉と〈フォートレス・ソード〉を引き抜く。盾と剣はそれぞれ展開し、一回りほど大きくなる。
そしてナツキが〈ストライク・デストロイヤー〉を空高く突き上げる。
「行くぞ!」
『応ッ!』
ナツキの号令と同時に全員は走りだした。
◇◆◇◇◆◇
シロが目を覚ますと、薄暗い場所にいた。埃っぽい匂いが鼻を突く。
「ここは……」
頭を振って半ば強制的に意識を覚醒させると、自分が縄で縛られていることに気づく。記憶を辿ってみるが、よく思い出せない。
確か、アカリと話していて、それで……
『何者かに誘拐された』
シロは顔を上げた。割れた窓から差し込む月光が一人の男を照らしていた。男は黒いコートを羽織っている。その周りには不気味に笑いながらこちらを見つめる男の仲間らしい人物が数名。
「やっとお気づきになられましたか」
男は言った。
「お前は誰だ? 一体何が目的だ」
おや? と男は笑う。
「それは薄々気づかれているのでは?」
「………」
確かに、何となく予測はついている。
男は大げさに手を広げた。
「フン。まぁいいでしょう。どうせ売り払えばおしまい。後は都の変態共に任せるだけです。私たちは金をもらえればいいのですから」
「……このゲス野郎」シロは吐き捨てるように言った。
その言葉が気に入らなかったのか、男は急に表情を強張らせ、シロの顔を掴んだ。
「言葉に気をつけろよ。小娘。この世界で死ねば、現実でも死ぬ事になる」
そしてゴミを捨てるようにシロを放った。
「……なん、だと……?」
よろよろとシロは起き上がる。
「知らなかったのか? 俺の仲間の推測によれば今の俺たちはNEW・WORLDというハードに入ったソフトウェア的存在であり、この姿は自分が意識を具現化したものだ。もしその意識が一度でもハードから消滅したらどうなる? 復元なんて不可能だ。だからこの世界で死ねば、自分の意識はこの世界から抹消されるんだ」
シロは息を呑んだ。
「どうだ。勉強になったろう?」
「そうだな。猿の割には、頭が良い」
男は忌々しげにこちらを一瞥すると、倉庫のドアに向き直った。
「さて、もうそろそろ業者が来るころでしょう」
倉庫のドアが開く。
しかし、そこにいたのは業者などでは無かった。
「なんですか? あなた達は」
男はドアの向こうにいる人物を睨む。その先にはぼろぼろになった業者の頭を掴むナツキがいた。
「す、すいま……」
業者が口を開いた途端、ナツキは業者を上に投げ、落ちて来た業者を〈ストライク・デストロイヤー〉で殴った。業者は物凄い速さで飛び、向こう側のトタンの壁をへこませた。男の頬に血が付着する。
「何者かって……? 分かってんだろうなァ、貴様ら――」
ナツキは怨嗟のこもった眼で舐めまわすように倉庫の中の全員を見た。
「――ゴミ野郎共を成敗しに来たんだよ!」
その後ろには四人の影が見えていた。
シロは唇をきつく噛み締めた。
◇◆◇To be continued……◇◆◇
◇◆◇Word Explnation◇◆◇
・拳闘家 剛拳を使う事が出来る唯一の職業。素早さ、攻撃力を最大限に高めた職で、ヒット&アウェイ戦法を得意とする。しかし、防御力が紙。そのため上級者用の職となっている。
・LINK・NEW・WORLD 稼働開始から絶大な人気を誇り、十年間稼働し続けているMMORPG。注目すべきポイントはまず、フィールドの広さ。これは地球とほぼ同規模である。次に、進化し続けるシステム。稼働三年目にして2038年問題を乗り越える為に全世界のOSを統一した時も、柔軟に対応し、稼働を止めることなく続け、ヘッドギアの製品化にもいち早く反応し、取り込んだ。これにより、さらなるプレイヤー層を獲得したのである。しかし、都市伝説『空白の七日間』にLINK・NEW・WORLDが関わっているとの情報があるが、真偽のほどは明らかになっていない。
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