Act1-4
今回は少しホッとするお話。プラス、戦闘。
Act1-4「アライアンス・ファイア」
血のついた刃。
真っ赤な少女。
ぐしょぐしょに濡れた俺。
下腹部から暖かい感覚が伝わって来る。
これが、『恐怖』。
これが、『死』。
イヤダ、シニタクナイ。
デモナンデ? ナゼ、シニタクナイ?
ワカラナイ。オレニハ、ワカラナイ…………
◇◆◇◇◆◇
アクミは目を開けた。ソファーで眠ったせいか、体中が痛い。毛布をどけて立ち上がる。まだみんな寝ている。カルマのいびきがうるさく響いている。アクミは寝ている人たちをまたいで外に出た。
外はまだ日が昇り始めたばかりらしく、青とピンクのグラデーションが空を彩っていた。朝の冷たい空気が頬を冷やす。腕を伸ばすとポキポキと音が鳴った。その時、香ばしい匂いが鼻腔を刺激した。匂いの元を辿ると昨夜と同じピンクのエプロンを着たガレオンがコンロで魚を焼いていた。
「お、起きたか。アクミ」
「おはようございます」
「眠れなかったのか?」
二人は〈アルゴー丸〉に寄りかかりながら話していた。二人の間には昨日のへこんだ痕がある。
「まぁ、なんだか嫌な夢見ちゃって」
そう言って頭を掻いた。
「そうか……私も同じだ」
「え?」
アクミは首を上げてガレオンを見た。ガレオンは目を――おおよそ人間のものとは思えない目を――細めて遠くを見ていた。朝日が昇ろうとしている。
「家族がいるんだ。意外だろう?」アクミを見つめる。
「そうですね。意外でした」
そしてしばしの沈黙。風が吹き抜ける。草がこすれ合う音が聞こえる。自然の息吹だった。
「娘はまだ三歳で、よく夜泣きするんだ。そのせいか、いつも寝不足さ。写真があるんだが、見てみるか?」
MFUを操作してギャラリーを開く。その中にある一枚を画面いっぱいに表示させてアクミに手渡した。
そこには我が子を抱いて笑う女性と、まだ幼い命が写っていた。幸せの瞬間だ。
「かわいいですね。いつか会ってみたいです」
「会えるさ」
「?」
ガレオンがこちらを見て笑った。口は動かないが、目が笑っていた。
「ここから抜け出して、娘と妻を思いっきり抱き締めるんだ」
「じゃあ、なんで俺の話に賛同してくれたんですか?」
「それは、君と同じで、困っている人を助けずにはいられなかったからさ」
ガレオンは笑いかけるとコンロの方へ歩いて行った。しかし、ふと立ち止まってこちらに向く。
「いや、きっと動かずにはいられなかったのかもな」
そして再びコンロで魚を焼き始めた。
「ガレオンさん……」
アクミの目に映ったのは機人族の護士ではなく、一人の、家族を護る父親の姿だった。
「おはよ。アクミ」
「ああ、おはよう」
〈アルゴー丸〉から白いオーバーコートを着たアカリが出て来た。恐らく銃器使いの防具だと思うのだが、白い防具はなさそうに思った。そもそも黒い銃器と白いコートではミスマッチだと思えるのだ。
「今日もいい天気だね」
アカリは朝日の方向を見た。風が彼女の長い黒髪をなびかせる。青とピンクのグラデーションの空を背景に、
髪を右手で押さえている彼女は幻想的に見えた。
「? どうしたの?」
アカリがこちらを見た事によってアクミは現実世界に引き戻された。いや、ここは現実なのだろうか。
それに、見惚れてました、なんて素直に言えないしな……
「あ、ああ、そうだね」照れ隠しするように頬を掻いた。
素直じゃない。
分かってる。
「おーい」とガレオンの声。
「そこのお二人さん。朝食ができたから、みんなを起こしてくれ」
『はーい』
アクミとアカリが再び〈アルゴー丸〉に戻った。
「さて、どう起こそうか」
熟睡している三人を前に、アクミは手を腰に当てた。
未だ寝ぼけ眼のシロは草原にあぐらをかいて座り、苦しそうにもがく白月を抱きながら大きな欠伸をした。
カツミとカルマはどちらが大きい方の魚を食べるかで揉めていた。ガレオンはそれを仲裁せず、当然といった顔で魚を焼き続けている。
「でもまさか起こすのに手榴弾を使うなんて……考えてなかったかな」
「ハハ、でも、俺の目ざまし時計はいつもあんな音を出すんだ」
「へぇ……」
そう話すアカリとアクミの目の前には一つの爆発痕が残っていた。
「さて、朝食を食べ終えた所で、これからの予定を話そう」
朝食の魚を食べ終えた全員は草原に円を描くように座っている。
「まず目的地は〈ポリス・オウサカ〉だが、その前に〈ポリス・シナノ〉を通過して、〈ヴィレッジ・ヒダ〉に向かう」
「行くのはいいけど、何をしに?」カルマが尋ねる。
「ああ、実は、あの〈アルゴー丸〉は魔力石を動力源にしているのだが、充分な準備期間がなくてな、目的地につくまでに足りる量確保できなかったのだ」
「だからか!」カツミは合点がいったように手を打つ。
「〈ビレッジ・ヒダ〉は魔力石が採れる!」
「そうだ。でも、その前にやるべき事がある」
ガレオンはアクミとシロを交互に見た。
「お前たちのレベルアップだ」
『あ』
二人はお互いを見た。
◇◆◇◇◆◇
エリアナンバー・12〈エリア・コダマ〉
ジャングルのような森の中でアクミとシロ、白月は巨大なツキノワグマのような姿の〈ムーン・ベアー〉Lv.20に追われていた。
「ど、どうします? シロさん」
「し、し、知る訳ないだろ」
『………』
二人は沈黙した。
「……分かった! 私が囮になるから、お前はあいつの頭を狙え!」
「了解!」
アクミは首肯すると、近くの草むらに跳び込んだ。
「よし、よし……行くぞ!」
シロは腰から指揮剣の〈最初の指揮剣改〉を引き抜き、上に掲げ、前に突き出す。
「白月! 変形!」
そう文言を放つと、白月が跳び上がり、指揮剣に纏わりつくように変形し、一本の白い両刃の剣になった。
そして木を駆けのぼり、体を捻りながらパルクール的に木を蹴って宙返りする。
「うおぉぉぉぉ!」
着地と同時に〈ムーン・ベアー〉の背中を斬り付ける。渾身の一撃は〈ムーン・ベアー〉を倒れさせた。
「や、やった……」
しかしよろこんだのもつかの間、〈ムーン・ベアー〉は大きく唸り、裏拳でシロを吹き飛ばした。
「ぐふぁっ……」
木に衝突し、崩れ落ちる。今の一撃でHPの三分の二は削り取られた。次、この一撃をくらえば確実に死ぬ。
怒り狂う〈ムーン・ベアー〉はゆらゆらと、シロに迫る。
シロは歯軋りする。
何をやってるんだあいつは……
シロは〈ムーン・ベアー〉を睨む。
―――グワァァァォォォ!
〈ムーン・ベアー〉が吼え、両腕を上げる。
その時乾いた銃声と共に何かが〈ムーン・ベアー〉の頭部を貫いた。そしてアイテムに還元された。それと同時に何か温かいものが体中に流れ込み、満ちていく感覚。MFUを見るとレベルが一上がっていた。
「大丈夫ですかー?」
すると茂みの中からスナイパーライフル、〈ロングバレット〉を持ったアクミが出て来た。アクミはシロを見るとすぐさま〈ロングバレット〉を折りたたんで右ももに付けながら駆け寄る。
ホッとするのと同時に何か別の感情が込み上げてきた。頬が熱いのはきっと温度が高いだけなのだろう。
「ああ! すいません! なかなか頭部に狙いをつけるのが難しくて……」
シロはそっけなく振る舞うようにポーチから回復薬の入った瓶を取り出し、それを飲み干した。
「いや、いいよ。でも、次はお前が囮だ」
「あ、はい……」
アクミは少し顔をひきつらせた。
それから〈ムーン・ベアー〉を狩り続けること数日。二人のレベルは30に達していた。日が落ちかけて薄暗くなった森は不気味な雰囲気を醸し出していた。
「さぁ、次の獲物はどいつかなー?」
アクミがぐるぐるとまわりを見渡していると、後ろに何か大きな物が落ちて来たような衝撃。同時に鳥が森から一斉に飛び立った。
――――キシャァァァァァ!
二人は後ろをぎこちない動きで見る。そこには全長三メートルはありそうな緑と極彩色の巨大なカマキリ、このエリアのエリアボス〈フォレスト・マンティス〉Lv.30が巨大な鎌を掲げていた。
そして目の前に鎌が振り下ろされ、地面に突き刺さる。
「や……やっべー」
冷や汗がダラダラと流れる。アクミは後ろに後ずさる。
「ど、どうします? 逃げます?」汗びっしょりの顔でシロに訊ねる。
二人とも傷だらけであまり戦えるような状態ではない。やるなら短期決戦となるだろう。
「いや、私は逃げない」
シロは腰の指揮剣を引き抜く。
「……それじゃ、やるしかありませんね」
背中にマウントされている〈ノーマルバレット改〉を取り出し、銃身を跳ね上げて構える。
「怖いなら、帰ってもいいんだぞ」
シロはちらりとこちらを見て言った。
「いや、帰りませんよ。帰るのは、コイツを倒した後です」
「そうか」
シロは小さく笑った。
「始めてみました。シロさんの笑うところ」
それを聞いたシロは赤くなって頬を少し膨らませる。
「う、うるさいッ! 早く倒すぞ」
「分かりました。では、俺が先攻します。隙を見て攻撃して下さい」
「分かった」
息を合わせるように二人は同時に頷いた。
そしてアクミは構えながら走って、〈フォレスト・マンティス〉の後ろ側に回って銃を連射する。
「おい! こっち来いよモンスター!」
〈フォレスト・マンティス〉は咆哮を上げて鎌を振り下ろす。それを横に回転しながら回避するも、距離が足りず鎌に当って飛ばされる。
「ぐっ……」右腕を庇いながら立ち上がる。
アクミに向かって鎌を再び掲げたその時、〈フォレスト・マンティス〉が後ろから衝撃を加えられたことによって前につんのめる。〈フォレスト・マンティス〉が後ろを向くと、そこには変形させた白月を構えるシロの姿があった。
「シロさん! しばらく時間を稼いで下さい!」
アクミはポーチからこまごまとした部品を取り出し、それを組み立て始めた。
「任せろ!」
シロは白月を大きく振って斬り付ける。〈フォレスト・マンティス〉が再びつんのめり、後ろを向いて両腕の鎌を振り下ろす。シロはそれを白月で防ぐ。火花が散り、地面に蜘蛛の巣状にひびが広がっていく。
このままでは……
頬に汗が垂れる。
「アクミィィィ!」シロは叫ぶ。
その時、アクミは組み立てていた物を完成させた。
「よし、君に決めた!」
そのセリフと共に完成させた黒い長方形の物体を投げつけた。それは〈フォレスト・マンティス〉の背中にくっついてチカチカと赤い光を点滅させ始めた。
「シロさん!」
シロは鎌をいなしながら横に回転した。鎌が地面に突き刺さる。それと同時にシロは跳び上がる。
そして黒い長方形――時限爆弾が爆発した。
――――キシャアァアァァァア!
〈フォレスト・マンティス〉が苦しそうな呻き声ともとれる鳴き声を発した。頭上には剣を下向きに構えるシロの姿。
「必殺! 月光突き!」
満月をバックに技の名前を叫んだ。
「うおぉぉぉぉ!」
そのまま降下し、〈フォレスト・マンティス〉の脳天に白月を突き刺す。刃はそのまま〈フォレスト・マンティス〉を貫いて地面に突き刺さった。
◇◆◇◇◆◇
「大丈夫でしょうか……あの二人」
〈アルゴー丸〉をエリアの入り口付近に停めて一行は二人の帰りを待っていた。
アカリは心配そうにガレオン見上げる。
「まぁ、あの二人は大丈夫だろう」ガレオンは腕を組んだまま答える。
その時、茂みがガサガサと震えたと思うと、お互いを庇うように肩を組んで歩くアクミとシロが出て来た。二人とも傷だらけだ。
「二人とも! 大丈夫!?」
アカリがすぐさま駆け寄る。
「あ、ああ、なんとか……」
「も、もうダメ……」
「あっ!」
二人はその場に崩れ落ちた。どうやら、かなり苦戦していたようだ。二人は安心して眠ってしまったのだろう。寝息が聞こえる。
「頑張ったのだな……では、私が運ぼう。アカリ達は夕飯を食べていてくれ。明日の朝早くに出発するぞ」
ガレオンは二人を脇に抱え込むようにして持ち上げ、〈アルゴー丸〉の中に運んでいった。
正直こんな運び方でいいのかと、アカリは苦笑いした。
「夜ごはん、食べちゃお」
アカリは立ち上がった。
◇◆◇To be continued……◇◆◇
◇◆◇Word Explnation◇◆◇
・〈アルゴー丸〉 ガレオンが〈ポリス・エド〉の親友に頼んで手配してもらった白と黄色の装甲キャンピングカー。ガラスは防弾、タイヤはパンクレス、車体はモンスターの攻撃を受けても壊れない特殊合金製。中は比較的快適でクーラー完備。動力は魔力石の魔力で動く。本来ゲームではこんな乗り物は存在しないので、どうやって手に入れたのかは謎。ところどころに落書きがあったりする。
・〈フォレスト・マンティス〉 〈エリア・コダマ〉のエリアボス。名前のごとくカマキリのような容姿をした緑と極彩色のモンスター。レベルは30。倒すと〈マンティス〉シリーズの防具が作れる素材を残す。両腕の鎌が特徴でこれで攻撃する。力は強大だが、知能は高くない。だから簡単に罠に引っかかってしまうので初心者に最適。
・指揮剣 式神使いのみが使える固有武器。式神に命令を与えるのに使う。他にも武器としても使用可能。この剣を一定のパターンで振ることで式神に命令を与える事ができる。
暗そうなキャラが急に必死に怒ったりすると何だか嬉しくなりますよね。
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