97.chapter
「大丈夫か? 泉」
「え? ああうん、全然平気」
「お前運動神経低いからな……」
「低いのではなく、切れているんです」
「まじかよ……」
玲は軽く笑った。
こんな時間がずっと続けばいいのに。あと何十時間かすればまた地獄の時間がやってくるのかと思うと気が重くなる。
「……学校、辛いのか」
玲が唐突に暗い面持ちでそんなことを聞いてきた。
……まぁ、辛くないといえば当然嘘になるのだけれど。でも、彼らに泣きついたって何にもならないのはよくわかっている。
「……ま、いつも通りだからね」
「バグも立て続けに起こってるんだろ」
「うん、まぁね」
思い当たる節のないバグの原因。原因が判らないのなら、当然止める術もない。
「本当に辛いならさ、我慢しなくていいからな。例えばお前が疲れて役割を捨ててしまったって、誰もそれを責められる奴はいないよ」
「うん」
「お前は、いざという時は、お前の思う通りに動いて良いんだからな」
「うん、……うん」
諦めかけているのに。そんなことできるはずがないと、諦めかけているのに。
そんなことを言われたら、泣きたくなる。
「ごめん……ちょっとトイレ行ってくる」
「おう。刻もそろそろ戻って来るだろうから早めになー」
手を振ってくる玲に小さく私も手を振り返し、足早にトイレへと向かった。




