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94.chapter
「これ似合うんじゃない?」
「ああ、大変お似合いになるでしょう。お嬢様、こちらへ」
刻は玲の持ってきた服――桜色のワンピースで、シフォン袖が可愛い服だ――を受け取り、私を鏡の前へと手招きした。言われるまま歩み寄れば、「失礼します」と背後から玲が私の前にワンピースを当てる。
「お、可愛いんじゃない?」
「そうですね。大変お可愛らしいかと」
「そう?」
イマイチ似合っているかどうかよくわからないが、彼らがそう言うのなら似合っているのかもしれない。ちら、と値札を見てみるとそこまで高値でもない。これならさして負担にもならないだろう。
「じゃあこれで」
「後は下だな」
「…………へっ?」
え、まさか一着だけじゃないの?
「どういうのが似合うだろ?」
「そうですね……デニムパンツなどはいかがでしょう? 七分丈くらいなら春らしいかもしれません」
本人をおいて、話は軽快に進んで行く。




