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83.chapter
「お帰りなさいませ、お嬢様、風見ヶ原様」
玄関に着いた途端、艶やかな美声が耳朶を打った。
その声の主である、眉目秀麗な中性的美貌を持つ男性を認め、私は自然と顔をほころばせた。
私の専属の執事、華盾 刻である。
「刻」
「さぞお疲れでしょう。湯を沸かしました」
「ありがと。それから、ただいま」
はい、お嬢様。
刻はにこやかにそう返し、私に手を差し出した。
靴を脱ぎ、私はその手を取る。
「何かさー。俺が言うのもなんだけど、お前らの方が恋人っぽくねー?」
「恋人だなどと、おこがましい。私はお嬢様の執事です」
「うん知ってるー」
玲が靴を脱いで家に上がると、刻は「しかし」と続ける。
「風見ヶ原様もお嬢様のお相手ではないのでしょう?」
「うん、形ばっかの婚約者ー。フラれる側って辛いよねー」
玲はぽりぽりと頭を掻いた。




