75.chapter
ふら、と外に出る。しとしとと雨の降る景色を眺め、私は傘を差した。そしてそのまま寮を出る。
明日は、土曜日。クリスと適当にデートっぽいことをした後、私は少々用事がある。
実家に、日曜日と祝日である月曜日だけ戻るのだ。そして月曜日の夜に寮へ帰ってくる。
本音を言えば、私は一生実家にいたい。攻略対象と顔を合わさずにすむ生活がしてみたい。まぁ無理だろうけど。だからとりあえず、明日からの里帰り――実は別に実家がそこまで遠いわけではないーーだけでも楽しもうと思っているわけだが。
「玲もまた随分と律儀だよねぇ……」
先ほど、携帯にメールが一件届いた。内容は酷く簡潔。「電話して大丈夫?」だけ。
差出人は、風見ヶ原 玲。そう、私の婚約者である。
私はそれにYESと返信せずに、そのまま寮の外に出た。電話するためだ。今は夜だ。寮の中で堂々と電話するわけにはいかない。
プルルルル、と無機質な機械音が夜の闇の中で響く。私は近くにあった木に背を預け、空を仰ぐ。暫くするとピッと音がした後、耳慣れた声が携帯越しに投げられた。
「おー、電話さんきゅ」
「大したことじゃないでしょ。それより……どうだった? 今回のイギリスは」
玲はイギリスに留学していた大学生、という設定だ。紹介イベントが終わる頃、いつも日本に帰ってくる。
「あんまいつもと変わらないな」
「だよね」
あはは、と笑うと玲が気遣わしげに
「お前は? イベントどうだ? また無理してるんだろ」
「全力でね。今回はバグが多すぎて……」
「ここ最近バグがよく起こってるのなー」
電話越し、彼は何事か考え込むように黙り込んだ。




