60.chapter ◆
「……」
……え。何で黙るんですか。
おかしなこと言いました? 私。
こう、乙女ゲームのヒロインらしく説教してみたつもりなんですけど……やっぱり私には荷が重いですかね。
「どう、して?」
まさかの質問。ここは、「そっか、そうだよね有り難う」で済むものではないのですか。
しかも何とも答え難い質問を寄越されました。誰か助けてください。
「どうしてって、じゃあ逆に聞きますけど、先生は誰かに自分の在り方を決められるのが普通だと思われるんですか?」
「わから、ない」
わからないなら質問しないで! 私も全然わかってないから! 口が適当なこと言ってるだけだから突っ込まれたら死んじゃう。
「でも、ずっとそうして、生きてきた」
「……」
――ああ。
不覚にも同情してしまう。
だってこれでは――まるで私と同じ。
右を向けと言うプログラムの指令に従って右を向いて、左を向けと言うプログラムの指令に従って左を向く。
言葉も行動も容姿も名前さえもプログラムの上。決められた舞台で踊る姿はまるで操り人形。
勿論、彼はこの世界が乙女ゲームだなんて知らない。彼が言っているのは、多分家柄などの拘束のこと。この学園にいるという時点で彼がある程度大きな家にいることはわかるが、恐らく彼の家は縛りの強い家だったのだろう。
形こそ違えど拘束されているという意味では私達は同じだ。




