5.chapter
「俺はねー、この学校出身のー……」
「聞いてないです」
私は後ろを振り返らずに答える。
後ろを振り返れば恐らく、女子ならほぼみんなが憧れそうな王子顔の青年がいるはず。そして私はソイツ――攻略キャラクターに、顔を覚えられるわけにはいかないのです。
何故って、ここでフラグが立ってしまったりしては困るからですよ。
こいつのイベントは随分後に起こる予定。なのに今ここで下手に接触して顔を覚えられると、どうなるでしょう?
まぁつまり、予定通りにイベントが運ばず、バグが起きる可能性がある、ということですよ。簡潔にいうのなら。
さて、ではどうやってこの状況を切り抜けるべきか。
作戦その一! ひたすらに逃げる。挙動不審でも構わずにとにかく逃げる。全力疾走。
………これは、不可能か。私は致命的に足が遅いし、追っかけられたら終わりだ。追いつかれれば、逆に印象付けてしまうかもしれない。
作戦その二! 言い訳しつつ確実に逃げる。
いや。これしかないよね。選択肢を出した意味がないな。
しかたない。色々言い訳して誤魔化して逃げよう。
「うん照れなくても良いよ? 俺の名前はねー」
「そういえば用事を思い出しました。今すぐ行かなきゃ殺されてしまいます。ではさようなら」
「うん、流石にその言い訳はアレじゃない? っていうかちょっと待ってよ」
「待てないです殺されてしまいますきゃー死んじゃう」
「すごい棒読みだ。うん、個人的には誰に何でどのように殺されるのか凄く興味があるけど、とりあえず落ち着こうか」
あなたが消えてくだされば落ち着けますよー。
とかね!! 言いたくても言えないしね!!
好感度は上げても下げてもダメ。なかなかハードルが高いな……
そんなことをつらつらと考えていると、背後から彼が正面に回ってきました。
……えっ。顔見られたらどうするのっ。ど、どど、どうしよ!?
そこで私は、不審に思われるのを覚悟してその行動に出た。