55.chapter ◆
「え……」
「怪我、した?」
ちなみにここは正門前。こう、ドジっ娘なのでころんじゃった☆みたいな展開な訳ですが。
個人的にはね。
とても嫌な予感が、するわけですよ。
考えてもみてください。っていうか思い出してみてください。
昨日、アイドル――えーと唯蝶と会いましたよね。その時に、もう物凄い勢いでバグったの、皆さんも記憶に新しいですよね? え、覚えてない? 全力で思い出してください。
つまるところ何が言いたいかというと。
昨日会ってるし、バグが起きるんじゃ?っていうことです。
唯蝶の時ほどおかしな言動はしていないし、大丈夫じゃないかとは思うんですが。
とはいえ悪戯に時間を費やしても何にもなりません。仕方ない、イベントを進めよう。
「あ、ありがとうございます……怪我はしてないです」
「………膝」
「え?」
こんなに膝が痛むのに怪我してない訳がないのだけれども。でもここはいい女の子っぽく「してないわ♡」とアピールする、と。あざといヒロインだ、ほんとに。しかも膝とか、ものっそい目につくところだし、保健師が気付かない訳がない、とね。計算され尽くした言動だ。私でも感嘆する。単純に拍手を送りたい。
これが自分の行動じゃなければな!
「………膝、怪我してる」
「あ、これくらいは大丈夫ですよ。水で洗います」
保健師の手を取って立ち、私は微笑む。それから、ありがとうございました、と頭を下げて手を放そうとした途端、きゅっとさらに強く手を握られた。
「待って。ちゃんと消毒、しないと、菌が入る、よ?」




