52.chapter
「誰」
いや、誰って。私が聞きたいくらいです、あなた誰ですか。
この白い場所――バッドエンドを迎えた後に訪れるこの場所には、私以外に誰もいなかったんですが。
「――もしかして」
少年は少し戸惑ったように視線を彷徨わせてから、しかしやはりこちらへ向き直って
「もしかして、君、………月華院 泉?」
「もしかしなくとも月華院 泉ですが、あなたは一体どこの誰でしょう」
「………」
答えない? っていうか答えられない? 感じですね。
あぁもしかして記憶喪失ですか。それは御愁傷様でございます。私急いでいるのでお先に失礼しますね。
つらつらとそんなことを考えた私は何も言わぬまま少年に背を向けて[原初の扉]に手を掛けようとした。勿論、次の物語を始めるために。
と、そこで。背後から少年の声が掛かった。
「待って」
振り返ると、少年が何処か不安そうに瞳を揺らして私を見ていた。
「独りに、しないで」
そう言う少年の姿は何処か儚げで、今にも消えてしまいそうな危うさがあった。
しかし私とてこんな場所にずっといたくはない。ここは私しか存在しない場所。例え彼がずっとここにいるとしても、この何もない空間にいれば、気が狂いそうだ。
だから私はいつも、逃げるように扉へと飛び込んで行くのだ。たとえその先に死の未来しかなくとも、そこには確かに人の温もりがあるから。
この少年も、不安に感じたのだろう。無理もない。
だから私はこう言う。
「じゃあ、こちらに一緒に来ればいいのでは」
と。
「いいの?」
「あなたの行動を制限する権利は誰にもないかと思いますが?」
私が無感情にそう告げると、少年はぱぁっと顔を輝かせた。
「あ、ありがとう、ありがとう!」
そうして私たちは、共に行動するようになった。




