3.chapter
「だからここを現代語に直すと……月華院?」
「えっ。あ、はい!」
「……大丈夫か? まぁその……憂鬱なのは分かるが」
国語の教師が、気遣わしげに私を見てきた。
「………イベントは昼休みか? 一時間目を休んだところで何もバグは起こらないだろうから、保健室に行ってきてもいいぞ?」
「そうします………」
この世界で、役を持たない人――いわゆるモブキャラたちだ――は、とことん私に甘い。幸せ者だねって言われそうですが、それを跳ね返して余りあるほどの不幸な運命が襲ってくるので何とも言えません。わーい。
「大事になー」
「昼休みまで寝てたら? イベントまでは何しててもいいんだしさ」
「顔色悪いぞー。ちゃんと寝ろよー?」
「泉ちゃんっ、保健室でいい子で寝てたら、あたしが襲いに行ってあげるから☆」
「それはご勘弁」
最後の私の言葉を抜いて、他は全員役なしのクラスメイトたちの言葉である。
一つ問題発言があった気がするが、とにかく好意は嬉しい。ありがたく受け取り、私は教室を後にした。
とそこで気付く。
敵は保健室にあり!!
「そうだ……保健師も攻略キャラクターじゃない」
(そーだよ。それにも気付けないとか、君もクラスメイトたちも、その頭の中身には何が詰まってるわけ?)
「!」
聞き覚えのある声が耳朶を打ったかと思うと、ふわりと目の前に少年が現れた。手にはちゃんとペロペロキャンディを持っている。やや姿が透けているが、間違いなく彼だ。
(変に接触して勝手に好感度上げたりしないでよね。バグが起きたらどうするの。この世界が壊されるじゃない)
「えー、すみません……」
(わかったら人気のない場所に行きなよ。万一攻略キャラクターに見つかったらほんとにどうしてくれるのさ)
「はーい……」
途中で気付いたんだし、そんなに言わなくとも……とは口に出さない。
とりあえず……さて、どこに行こうか……