2.chapter
私は月華院 泉☆
高校二年生の女の子よ☆
「とかいう茶番を延々としてたわけです」
「朝から? ほんと、ヒロインは大変だねぇ」
友人の侑香が哀れむような視線を向けてきた。……哀れみって意外と心に突き刺さるね。初めて知ったわ。
「まぁでも乙女ゲームだしね。名前がある限りは自己紹介は必要だし。プレイヤーは把握済みだと思うけど」
「何でこんなに酷い世界なんだっ」
「私に言われてもなぁ。ってか顔色悪いけど大丈夫? 前回もバッドエンドだったの?」
「ご明察。監禁されて終わりました」
「……………愛されてるねー」
「こんな愛され方は嫌です!!」
心の底からそう叫ぶと、侑香は苦笑いを見せた。
ここは乙女ゲームの世界です。
そして私はヒロインです。
さて問題。ヒロインは何をしなければいけないでしょうか?
うんまぁわかるよね。つまるところ攻略キャラクターたちに猛アタックせねばならぬわけです。はっはっは。
…………嫌過ぎる!!
だって前回の終わり方見てわかるように、ヤンデレとかいるんだよ? リアルに監禁とかできちゃう人が存在するんですよ? 攻略したくない!!
「まぁいいじゃん。イケメンなんでしょ?」
「そういう問題じゃないと私は思うなぁ!!」
私がそういうと、侑香は悪びれずに笑って
「まぁまぁ。で、次の茶番はいつ?」
「昼休みだったと思う」
「あぁ、そうだったね。今回は誰になるのかねぇ」
「私はノーマルエンドを激しく攻略したいです」
「うん無理だね」
侑香はばっさり切り捨てた。
さて、状況を説明しましょう。
現在はHR前です。登校してる生徒もそうでない生徒もいます、はい。
ちなみにですね。私が乙女ゲームのヒロインであることは、この学園のほぼ全員が知っています。
何故って聞かれても答えられません。強いて言うのなら仕様でございます。
私が乙女ゲームのヒロインであることを知らないのは攻略キャラクター6人だけ。
従って侑香もこのゲームを知っている。私の友人設定であるのも仕様だと理解してます。
そうそう。先ほどの侑香の【次の茶番】というのは、ゲームとして起こるイベントのこと。ゲームもヒロインの1日全部を見るわけじゃないでしょう? そのイベントに含まれない時間が例えば今だったりするわけです。この時間だけは無礼講。なに話しててもOK。だからこのゲームについての話や文句なんかも言える、と。
「攻略対象6人とか、多くない?」
「そうでもないよ。泉は攻略させられるから辟易してるだけでしょう。誰だっけ? えーと………幼馴染の先輩、生徒会監査及び文芸部の部長、後輩の一年及び生徒会書記、保健室の先生、実兄、アイドル、だったよね」
「いつも思うけど、最後の二つ明らかにおかしいよね?」
「そういう仕様だと思いなさい。乙女ゲームは常識はずれが常識よ」
「辛いです……」
まぁその6人以外にも隠しキャラなんてものが存在するらしいけど、とりあえず今は無視!!
「でもさぁ、実際のところ、」
「鐘が鳴ったぞ!! 席につけ!!」
教師の声が響くと、侑香は舌打ちをした。それから渋々といった体で席に戻って行く。
はぁ。本格的にゲームの幕開けか。
今回は誰を攻略するんだろう。
私は暗い心持ちでHRに臨んだ。