3.chapter
「もしもし」
「お嬢様!」
お決まりの呼びかけをした途端、切羽詰まったような声が耳に飛び込んできた。
「刻? 珍しいよね、刻が電話くれるなんて」
「いてもたってもいられず――仕事を何とか済ませてから掛けさせて頂きました。お嬢様、ご無事ですか!? どこも怪我など、」
何か随分と焦ってるな。
「何でそんなに焦ってるの、刻。大丈夫だよ? 前のルートの怪我がまだ残ってるわけないじゃない」
私が笑ってみせると、刻は深い安堵の吐息をついた。え、そんなに焦ってたの? 何で?
「……良かった……」
どうしたんだろ。何か様子がおかしい。
「刻? 何かあった?」
「何かあった、などと。あったのはお嬢様の方でしょう。あの様に……惨いことを」
……ああ、なるほど。
前のルートでの私の死体を、見てしまったのか。
刻はゲームに登場するキャラではない。必然的に、学園外に出ない私との接触の機会は乏しくなる。つまり、彼は今までに私の死体を見たことがなかったのだろう。だから目の当たりにして酷いショックを受けてしまったのか。特に今回のは刺殺だしね。見てて胸の悪くなるような死体であったのは間違いないだろう。
「大丈夫だよ。慣れてるし。死ぬのは確かに嫌だけどさ……もう何回も殺されてるから、別に今更思うこととかないしね」
「何度も? なんて惨い……」
刻の声が僅かに震えている。そんなに声を震わせるほどのことじゃないのに。
刻は優しすぎるんだろうな。
「とにかく、私は無事だから。安心して?」
出来るだけ穏やかに話しかけると、僅かな沈黙の後に、
「……はい。出過ぎた真似をして、お嬢様にご迷惑をお掛けしてしまい、本当に申し訳ございません」
「全然! 心配してもらえるのは嬉しいよ。でも私は大丈夫。ね? だから刻は刻で仕事頑張ってね」
「はい。お嬢様こそ、どうか……どうか、ご無事で」
大袈裟だなぁ。でもまぁやっぱり心配してもらえるのは嬉しい。
私は刻の言葉に素直に「ありがとう」と返して、電話を切った。




