デート?
悠夜と光喜の家に尋ねてきた、強気で男勝りな正確なシャリーナと、シャリーナと対照的でおどおどしている年下のエルル。
なぜかシャリーナは光喜を連れて、ダンジョンに行くと言い出し、部屋から出て行ってしまった、残された悠夜とエルルは冒険するわけでもなく、ただ、普通の買い物に出かけた。
「じゃあ、商店街の方に行こうか」
「え・・・あ、うん」
俺が言うとエルルは顔を隠すように帽子を深くかぶりなおして囁くように言った、人通りの多い道を2人で
歩き出す、そして、数秒としないうちに俺は小さなため息を漏らした。
なんなんだあいつらは?
「・・・うまくやりなさいよエルル」
「ねぇ〜、ダンジョンは〜?」
「後でね」
背後から妙に聞きなれた声が聞こえるのは俺だけだろうか、ふと、隣を歩くエルルに視線をおろして見るが
どうもそわそわと上の空で心ここにあらず、といった感じだ、どうやら追跡者に気が付いているのは、俺と
俺の後ろでザワザワとしている雑踏の中にいる人々だけだろう。
そんなことを考えていると、エルルが急に立ち止まりポケットをごそごそとあさりだし、間もなくエルルは
緑色の光をチカチカと放つ携帯電話を開いた。
内容はどうやらメールのようで、一通り読んだ後、俺に視線をやると、俺の視線が自分に注がれていることに
気が付いたようで、顔を赤らめて視線を逸らした、その後、エルルの視線は俺たちの背後に向けられた。
「待っててやるよ、何か用ができたんだろ?」
「え・・・あ、うん、ありがとう、ちょっと待ってて」
エルルは急いで俺たちが来た方向に少し走ると、すぐ近くのビルとビルの隙間に入っていった、俺は気長に待つこと
にして、煙草を一本取り出して火をつける。
「えーーー!!無理だよそんなこと!!」
「静かにしないさい!!いい、やらないとあんたに明日はないと思いなさい!!」
火をつけ終わると同時に、ビルの隙間からは叫び声が聞こえてくる、前者はエルル、後者は・・・まぁ、本人は隠れている
つもりらしいし、分からないということにしといてやろう、俺は心が広いんだ。
そう考えていたとき、背後から誰かがぶつかる感触がして、目つきの悪さをMAXにして振り返る、するとそこには
俺の身長の2倍はあるだろう、巨大な狼の亜人が鎧と大斧を装備して立っていた。
「なんだその目は」
俺の目つきの悪さがカンにさわったのか、その亜人もご立派な犬歯を見せながら睨み返してきた、いい度胸だなこら、
言っておくが、俺のコートに少しでも汚れをつけるような野郎は、万死に値するぜ。
そして、1・2分後。
「ごめんね、お兄ちゃん」
エルルがそういいながらひょこっとビルの間から出て来た、その顔は少し緊張しているようだったが、一瞬にしてその顔は
驚愕の表情へと変わった。
「ず・・・ずみ゛まぜん」
「よう、遅かったな」
俺は首根っこをつかまれ、口や鼻から血を流して懺悔する亜人を投げ捨てて、エルルへと歩き出す。
「ど・・・どうしたの?」
エルルの顔が引きつっている。
「なに、少しおいたの過ぎるワンちゃんに躾をしていただけさ」
俺がエルルに向き合った状態でいると、背後で金属が擦れるような音がする、どうやら背後でワンちゃんが斧を振りかざして
いるようだな、漂ってくる殺気から、周りがいまいち見えていないらしい。
「ぐぉおおおおおお!!」
振りかざされた斧を俺は軽々と止めた、少し手に魔力を込めて斧を握ると、斧はせんべいみたいにバリバリと砕けていく。
「てめぇ、エルルごと斬ろうとしただろ」
俺が睨むと亜人はあからさまにびびっている、俺は亜人の腹部へボディーブローを入れる、すると鎧は砕け亜人の巨体は
数メートル後ろに吹っ飛んだ、おとなしくしていれば良かったのに、心の広い俺ならあのまま見過ごしてやってたんだぜ。
「俺に連れに手を上げんじゃねぇよ」
俺は中指を突きたてながら、完全に意識がぶっ飛んで聴いているはずもない亜人にそういった、そして、エルルの方に振り
返る、唖然、その一言がぴったりな顔をしている、口を半開きにして目線は空をとらえている。
「大丈夫か、エルル?」
「へ・・・あ、うん、大丈夫だよ」
エルルは我に返って俺と視線を合わした、だが、すぐに顔を逸らして、気まずそうに上目遣いでこっちを見たり、視線を逸らしたり
を繰り返している、いつもこんな感じだな、嫌われているわけではないのだが、どうも、俺が苦手らしい。
「さぁ、行こうぜ」
俺はそういうと、煙草の煙を深呼吸ついでに噴出してきびすを返して歩き出した、すると、俺の袖がクイッと引っ張られた、
振り返るとエルルが俺の袖を掴んでいる。
「どうかしたか?」
「えっと・・・・その・・・」
エルルは何か言いたそうにしていたが、言葉を飲み込んで手を離した
「なんでもない」
少し不思議に思ったが、まぁ、エルルが言うんだから追求することもないだろう。
「あ゛〜、それじゃダメじゃない!!」
背後から何か声が聞こえた気もするが、そっちもそっちで無視していよう、というかこの追跡者Aはエルルに何をさせたいんだ?
「ねぇ〜、やっぱりいきなりは無理だと思うよ〜」
追跡者Bがそういっている、こいつも声が大きいんだよ、追跡する気があるのか?いや、少なくともBには無いだろうな。
「あの亜人さえいなければ・・・」
「そんなもんかな〜」
俺はなんかやるせなさを感じたが、とりあえずオール無視で歩き出した。
今回はエルルと悠夜がメインで、後ろの追跡者A・Bはオマケです。