第2話「ある日常の風景」
皮肉屋の呪術&幻術&魔法使いの陽河悠夜と、子供っぽい、時間魔法使いの陽河光喜、この2人の冒険は始まりそうで、特に始まっていなかった。
昔の偉い人はよく言ったものだ、「触らぬ神に祟りなし」と、俺はようやく気がついた、いや、はじめから気が
付いていたのだが、実行に至るまでに到達していなかったのだ、ダンジョンへ行くたびに光喜のドタバタに
つき合わされるくらいならば、何処にもいかなければいい、冒険なんてしなくったって、コンビニかどっかで
バイトをすれば生活は困らんし、レベルアップにあたふたする時代はとうの昔に終わったのだ。
「と、いうわけで行かん」
「え〜、いこ〜よ〜」
俺はベタベタとくっついてくる光喜を無視してテレビのリモコンをいじりながら、白髪のジジイが政治うんぬんを
語っていたニュースから、新人美人リポーターが初々しく中継をしているニュースに変える。
「今度のダンジョンには、装飾品の青い貝殻があるんだよ♪」
光喜は語尾をルンルン気分にして言う、んなもん海岸にいって探して来い、ダンジョンに行かなくてもありそうな
ものだろうが。
「それを装備しているだけで、運が5もアップするんだよ」
光喜が目を丸くして、右手の指を目一杯に広げて5という数字を主張する、ちなみに俺のステータスを見ると
全ての値が軽く1000を越している、5アップしたところで俺には何の関係もないね。
それに、運がアップするアイテムなんているか、そんなに欲しいならどっかのわけのわからない宗教に入れ、
青いだけの貝殻より、いかがわしい幸運のツボの方がまだ信用性があるね。
俺が肩を揺さぶる光喜を無視して、ニュース番組から料理番組に変える、今晩の晩飯の参考に出来ればいい
と思ったからだ。
ここまで話を進めておいて、いまさらだが、ここで俺の家族構成について話しておこう、母親は小さな頃に他界、
父親は仕事狂でめったに家に帰ってこない、そして、双子の弟の光喜、以上が俺の家族だ。
なので、家事全般が出来ない光喜は戦力にならないので、家事は俺がしている、不良少年が家ではせっせと
メシの仕度をしているわけだ、いい笑いもんだぜ。
そんなこんなしているうちに、家に備え付けてあるインターホンがなった、それと同時に光喜がパタパタと玄関に
駆け出していく、俺がテレビに集中していると、またパタパタ光喜が帰ってくる気配が背後からする、いや、
それ以外の気配もするが、無視でもいいだろう。
「新聞なら断れ、誰一人として読まん」
「そう、今なら地獄への片道切符がついてくるんだけど」
光喜、男らしさにかける奴だと思っていたが、声まで女になってるぞ。
「料理番組なんて見なくてもいいわよ、今晩は私が人肉ハンバーグでも作ってあげるわよ」
「シャリーナ落ち着いて・・・」
さっきまでの声とは別に、もう一人、控えめの女の声が聞こえてきた
「うっさいわよ、私はいつだって冷静よ!!」
「ひひゃいひひゃい、ほへんははぃ」(痛い痛い、ごめんなさい)
俺はテーブルにおいてあったコップに酒をついで後ろを振り返る、すると、そこには女にしては背が高く、長い金髪
をツインテールにし、エメラルドグリーンのキレイな瞳をしているが、目つきが悪い女がいた、まぁ、目つきの悪さなら
俺のほうが上なのだろうがな。
その女の両手は、もう一人の小さな女の子の両頬を引っ張っている、その女の子は魔法使いですと言いたげな
黒い三角帽子をかぶっており、栗色のショートヘアーに、同色の瞳を持った光喜よりも小さな女の子だ。
「なんだ、お前らか・・・」
俺が言うと、背の高い女は手元の女の子を解放してやる、彼女はシャリーナ、本名はシャリーナ・ディスレントだな、
まぁ、本名を覚える必要は無いだろう、誰一人としてディスレントの名で呼ぶ奴はいないからな。
もう一人の女の子は両頬をいたわるようにさすっている、彼女はエルル、本名はエリル・エルザート、エルルとは
彼女の本名を縮めたものだ、こっちも本名を覚える必要は無いだろう、何しろ自己紹介でエルルと名乗るほどエルルと
いう名前がしっかりと定着しているのだから。
「で、何かようなのか?」
「用がないと来ちゃだめなの」
なぜか誇らしげな雰囲気でシャリーナが言う、若い男しか住んでいない部屋に若い女が尋ねる、あまりお勧めできる
ことではないと思うね。
「悠夜お兄ちゃんにこれ返そうと思って」
そういうとエルルは装備品の魔よけのお守りを俺に手渡した、この2人とは幼馴染で、シャリーナは俺と同い年、
エルルは俺より1歳年下だ、血の繋がった弟である光喜でさえ、兄と呼んでくれないのに、俺の事をお兄ちゃんと
慕ってくれるいい子だ、シャリーナは見ての通り男勝りな奴だ、こいつとは一度、漢として雌雄を決する必要があるかもな。
「こんなもん貸してたか?」
「おととい借りたのよ、勝手にね」
無断でかよ・・・俺たちの住まいは小さい一軒家暮らしだ、それで、隣の部屋にはシャリーナとエルルが同居している
彼女たちの両親は昔の内戦で死んでしまったらしい、ファンタジーの世界でもそんな暗い過去を持つ人間はいるものだ。
「ねぇ、みんなでダンジョン行こうよ♪」
「却下だ」
光喜が話を蒸し返してきたので、瞬時になかったことにする。
「いいじゃない、あんまり家にいると引きこもりになるわよ」
シャリーナが俺に嫌味ったらしく言う、その言葉は全世界の引きこもりをバカにしているぞ、今から全員に謝礼文を書く
練習でもしたほうがいいんじゃないか。
「昔の人がよく言ったでしょ、触らぬ祟りにご利益なしって」
「シャリーナ違うよ、触らぬ神に祟りなしだよ、それに、今その言葉は適切じゃ」
「エ〜ル〜ル〜」
シャリーナの間違いを正したエルルは、シャリーナに両頬をつねられながら涙目になっている
「ほ、ほへんははぁぃ」(ご、ごめんなさい)
俺はコップの酒を飲み干すと、瓶の中が空だったことに気が付く、家の中もうるさくなってきたことだし買い物にでも行こうか。
「じゃあ、俺も行く〜♪」
光喜が飛び跳ねるように俺に飛びつこうとする、だが、その襟首はシャリーナによって捕まれ引き戻された、心なしがシャリーナ
の微笑がたくらみに満ちているのは気のせいだろうか。
「あんたは私とダンジョンに行くのよ、エルルは悠夜と待機ね、帰ってきたとき用に晩御飯を用意しておくこと」
シャリーナはそういうと、有無を言わさないまま光喜を引きずって俺より先に家から出て行ってしまった
「なんだあいつ?」
俺が半分あっけに取られていると、隣にいるエルルがおどおどしているのに気が付く、俺と光喜で身長が30cm以上
差があるので、光喜より低いエルルは俺の眼下で困っている様子だ、光喜と同じくらい子供っぽいからな、いや、体系を
見れば光喜よりかは大人かな、育つところは育ってるみたいだし。
俺はふとエルルと目が合い、レディーに失礼なことを考えるのはよすことにした、それにしても、エルルといるとなんとなく
庇護欲を煽られるのも俺だけではないだろう。
「仕方ねえな、買い物に付き合ってくれるか?」
「・・う、うん」
エルルは視線を足元にもって行きながら照れくさそうに言う、俺が歩き出すとエルルも俺の少し後ろをゆっくりとついてきた。
第2話というより、第2章といった感じもしますが、とりあえずは、メアとの冒険は終了し、新キャラのエルルとシャリーナの登場です、結構重要なキャラなんで覚えてあげてください。