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第10話「捕らわれたエルル」

 それから全員がまともに動けるようになるまで、半日かかった。夜も明けて、

空が明るくなってきている。

 俺、エルル、シャリーナ、タケシ、光喜の順番で完全回復する。やはり、光喜が一番

消耗していたようだ、最後の最後まで気を失ったままだったからな。

 幸いだったことは、その間にリョウの刺客がまったくなかったことだな。

まったく、奴がいったい何を考えているのか検討もつかん。狙いが俺と光喜なら、

光喜だけ生かせておけば、それで餌は十分なはずなのに、エルルとタケシを生かした。

それに、さっきの銀色の獅子もそうだ、使い魔1匹だけをよこさずに、もう1人ぐらい

よこしておけば、俺は呪印を開放せざるを得なかっただろうに。

 まぁ、相手の思惑がどうであれ、全員が無事だったことに感謝するべきか・・・。


「お前らに説明しないといけないことがあるな・・・」


 俺は輪になって座っているメンバーの顔を見る。全員が俺の次の言葉を待つように、

俺の視線を注いでいる。さてと、どこから説明しようかな・・・。


「まず、ここは俺たちの元いた世界ではない」


 そう、ここはおそらく陽河ひかわ りょうが生まれた世界だろう。

見た目にそれほど差がなくて助かったよ・・・。この世界は、いわば普通の世界という奴だ。


「陽河 リョウって・・・、お兄ちゃんの親戚の人?」


 事情がまったくつかめていないエルルが質問する。その意見には、光喜が首を振って否定した。

リョウの話は後にしよう、まず、この世界での一番の注意点を説明しよう。


「いいか・・・この世界と前の世界では、輪廻の仕組みに大きな違いがある。他にも、物理法則や

宗教、食物、文化・・・しまいめには生物の進化の過程にすら違いがあり――」


 俺はいいかけて、ここでやめた。しっかりと状況をつかめているのが、エルルだけのようだ。

残りメンバーは、漠然と話を聞いて具体的な想像が出来ていない。もう少し、噛み砕いて

説明してやる必要がありそうだな。

 俺は今度は、重要で具体的な違いだけを説明してやることにした。

 この世界には、魔法というものは一般には知られていない。科学と物理法則だけで成り立っている。

つまり、多くの人間は魔法を知らず、信じてもいないということだな。


「は? 何それ? 魔法がなくてどうやってモンスターたちと戦うのよ!?」


 そこも大きな違いだな、この世界ではモンスターというのは架空の存在であり、動物はごく一般的な

猫や犬などの簡単な進化しか行われていない。したがって、町に行っても亜人なんてものひといない。


「タケシ・・・コレ飲んでみろ」


 俺はポーションをタケシに渡す。持ってるならなんでさっさと使えばよかったのに、というシャリーナの声には

耳を傾けず、タケシに早く飲むように進める。

 タケシは首をかしげながらも、一気飲みする。だが、タケシの体力はまったく回復しない。


「ポーションなどの回復アイテムに入っている成分は、この世界の理にのっとるならば、

ただの栄養素にしかならない」


 つまり、いまタケシが飲んだのは、向こうの世界では傷を治す回復アイテムだが、この世界では

栄養ドリンクぐらいの効果しかもたらさない。


「じゃあ、蘇生アイテムとかもダメなの?」


 光喜は俺が一番危惧していたことに関する質問をした。そう、この世界で一番大事なのはここなんだ・・・。


「最初に言ったろ、輪廻の仕組みが違うんだ・・・魂は肉体に戻らない・・・」


 向こうの世界の常識を身につけている人間には理解しにくいことだろう、この意味を理解したのは

エルルだけのようだ。エルルは顔をこわばらせて、息を呑んで俺に尋ねた。


「それって、一度死んだら・・・」

「あぁ、蘇生なんてものは、この世界にはない」


 その言葉に全員が現在の状況を理解したようだ。


「ちょっと待ちなさいよ、そんな馬鹿げたことあるわけじゃない!?」


 シャリーナは思わず立ち上がりながら、叫ぶようにしていった。

 馬鹿げてるか? 俺から見れば、俺たちが元々いた世界が狂ってたんだよ。この世界は、魔法というものが

影でくすぶっているものの、かなり正常な形を保った世界だぞ。

 俺の説明にまだ信じられないという顔をしているメンバーだが、世界の違いについて伝えなくていけないのは

これぐらいだろう。天体の構造だとか、時空転送論の有無とか、クリスマスなどの宗教的行事とかは、

もうどうだっていいだろう。

 他に、もう1つ大事なことがあるからな。


「アイツのことね・・・いったいどういうことなの、アンタ、光喜を狙っているのは自分だって言ってたわよね?」


 シャリーナが俺に尋ねる。あぁ、確かそんな話をマラソンの途中でしてたな。


「パラレルワールドって奴だよ、もしも、あのときこうなっていれば・・・そういう無限の可能性と同じだけ、

異世界っていうものは存在してるんだ」


 少々漠然な話をしすぎたか、これにはエルルも首を傾げる。それでも、考える仕草をするだけエルルはマシか・・・

他の連中は論外だ。エルルはしばらく考えた後、口を開いた。


「それって、もしかしたら、私が男の子に生まれている世界とか、この中の全員がどこかの国の王様とかになってる

世界があるってこと?」


 まぁ、極端な話をしてしまえばそういうことだろうな。無論、俺が無限に存在する異世界をすべて知っているわけでは

ないので、有るとも言い切れないし、無いともいいきれない。人類が宇宙にある全ての星を把握できていないのと、

同じレベルの話なのだ。


「その中の世界には、俺と光喜・・・。俺たちは一卵性の双子だが、これが1人として生まれた世界もある」


 この言葉は、全員が理解したようだ。そう、つまり、それが陽河ひかわ リョウという、俺であり俺ではない、

光喜であり光喜ではない存在だ。


「だからか・・・」


 光喜は少しうつむいて考える仕草をしながらそう言った。おそらく、リョウと戦ったときの事を思い出したんだろう。

俺はリョウがどのような戦いをしたか尋ねる。


「武器は小さな果物ナイフだった・・・。でも、俺の時間操作がまったく歯が立たなくて・・・」


 だろうな、予想通りだ。おそらく奴も時間操作の能力を有している。俺はエルルに視線を移す、俺の推測が

正しければ奴の能力はそれだけではないはずだ。


「私は、リョウって人の目を見た途端、すごいレベルの幻術をかけられて・・・幻術って分かってるのに、

自分じゃ解除できなかった・・・」


 やはりな・・・。俺と光喜が1人として生まれた存在、ならば、俺と光喜の両方の能力が使えたって、

なんら不思議なことは無い。

 俺が考えていた最悪の状況だろうな・・・。同じ存在であっても、世界が違えば能力が違うことだってある、

それならば、まだ望みがあったかもしれないが、今回は絶望的と言ってしまってもいいだろう。


「俺と光喜が束になっても、リョウには勝てないだろうな・・・」


 悔しいが、呪印があるぶん俺は完全に不利。呪印がなくても、実力は奴のほうが上だろう。

残る希望はエルルやシャリーナ、タケシだが・・・今確認しているだけで、向こうは2人の能力者がいる。

桜の花びらを使う幻術使いと、音を消す呪術使い、それに、水晶で作った使い魔だっている。

 総力戦になったとき、明らかにあちら側に分がある。

 話しているうちに、自然とエルルと目が合った。


「じゃあ、相手を分断させて1人ずつ倒していくってことだよね」

「あぁ、エルルは物分りが良くて助かるよ」


 そう、総力戦で勝てないなら、敵の位置を出来るだけ早く把握し、敵戦力を分断、その後総力で叩く。

まぁ、簡潔に言うならば袋叩き作戦だ。


「なんか、汚いわよね・・・」


 シャリーナが俺のパーフェクトと言えないまでも、妥当な選択のプランにいちゃもんをつける。


「これが、ポーン1本も失わないための俺の作戦だ・・・文句あるか?」


 俺がそういうと、シャリーナも納得する。まぁ、元からこの中に捨て駒がいるとは思っていないがな。

スピードと援護の光喜、遠・中距離のタケシ、近距離アタッカーのシャリーナ、洞察力と汎用性のエルル、

プラス万能型の俺。コレだけの人数とメンツならば、相手がリョウでも1人ならば倒せるだろう。


「でも、どうやってリョウを見つけるんすか?」


 タケシが一番重要な点をズバリと聞いてくる。人海戦術には人数が足りず、その上、バラバラで動くのは

かなり危険だ。なので、俺たちはできるだけ一箇所に集まっておく必要がある。


「じゃあ・・・どうするんすか?」


 お前はもしかしてわざと聞いているのか? 人数などを含めた全ての条件をこなせる奴がいるだろう・・・


「アニキ、そんなことまで出来るたんですか!?」

「お前がやるだ!!」


 俺の能力で使い魔を作ってもいいが、俺から離れすぎると情報伝達はできないし、魔力負荷も大きく

非常に効率が悪い。だが、お前の能力で偵察用の機械を具現化して、映像データとして俺たちのもとに

送らせるだよ。わかったか、わかったらYES、分からなければ今すぐ分かれ!!


「でも、俺の能力じゃ、熱や音は探知できても魔力は探知できませんよ」


 タケシの質問に俺はポケットから1つの物を取り出す。それは、先ほど戦った銀色の獅子を構成していた

水晶の破片だった。この水晶には魔力が微妙にだがまだ残っている。かなり、心もとない魔力量だが、

これでなんとかリョウに呪術をかける。


「音を消す能力者にかけたアレ?」


 シャリーナの質問に無言で頷く。相手の魔力を閉じ込めたものを使って、その魔力の持ち主を追跡を続ける

呪術のことだ。あまりの広範囲になると不可能になるが、タケシの能力と組合せばなんとかなるだろう。

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