自信あり?
俺+巻き添えを食らった光喜は、メアの持っていた蘇生アイテムによって復活した。
どんな死に方をしたかというと・・・いや、止めておこう・・・思い出したくもない。
かなりグロテスクな肉塊に変貌したとだけ言っておこう。
「・・・・・・ぅ〜」
メアが小さく唸りながら、しゅんと肩を落とす。一応、自分が悪いことをしたのだと理解はしているようだな・・・。
「たく・・・なんでまた、あんな状態異常なんかにかかったんだよ」
初心者レベルならよくある話だが、メアや光喜のレベルになると滅多に魅了や混乱なんて
かかることはないはずだろうが。
「それがね、すっごくかわいいカーバンクルが居たの!!」
光喜が腕をパタパタを振りながら言う。カーバンクルとは、ネコぐらいの大きさの毛がふさふさしたモンスターの
ことで、見た目もネコに近い、額にキレイな宝石のような石が埋まっているのが特徴だな、一部の愛好家には
愛玩動物として飼われている。
お前、さっき愛のために俺に死ねとかいわなかったか? 俺たち兄弟の友情とは、そこまで儚いものだとは
思ってもいなかったよ。
「メアは?」
俺がメアに尋ねると、何か石版のような物を取り出した。それは、壁か扉の一部のようで、表面にはびっしりと
文字が書かれている。これは、古代文字のようだな、魔法学校に通っていた頃に習った奴だ・・・。
しばらく、これが何を指しているのか分からずにじっと見ていると、メアが頭をクラクラさせだした。
「うぐ・・・・」
俺はとっさに石版を奪い取る。まさかとは思うが、この古代文字が難しすぎて、頭が混乱したとか言うんじゃねぇだろうな。
メアは何も言わずに、何度もコクコクと頷く。お前の混乱は、自滅が原因かよ・・・。
俺はさっと石版に目を通す、すると、一部の文字列に違和感を覚える。
「なるほど・・・メアの原因はコレか・・・」
「・・・・?」
石版の一部の文字列が、相手の判断能力を著しく削る呪いの詠唱文になっている。古代文字がしっかりと読める
レベルの高い冒険者のみをピンポイントに狙った呪いだな、俺が呪術に耐性のない人間だったら、この場で暴れ回っていた
かもしれない。
俺が石版に気を取られていると、メアが光喜に近づく。何の前触れもなく、犬のように光喜に鼻を近づけて匂いをかいでいる。
何してるんだ? 俺にハッキリわかるように600字程度にまとめて説明してくれるか?
「・・・・甘い匂い」
4文字で終了した説明に首を傾げつつ、光喜に近づいてみる。確かに、かすかに甘い匂いがするな・・・。
「・・・・・・・リリス・ポーション」
メアが呟くようにそう言った。リリス・ポーション・・・確かそんな香水があったな・・・アレってなんなんだ?
「・・・・・かわいい瓶」
瓶の形など俺が気にしているとでも思っているのか? 家に飾る花瓶は間に合ってるし、そんな乙女チックなものを
コレクションする趣味は、あいにくだか持ち合わせてはいない。俺はなぜ光喜にその香水がついていて、
その香水がどういった意味合いを持っているのかが知りたいのだよ。
「・・・・・もてる」
そりゃ、いい匂いのする女の子は男に好かれるだろうね・・・。
俺は短絡的にそう考えた後、光喜のさっきまでの状況を思い出す。もしかして、光喜が魅了を受けていたのって
そういうことなのか、いやいや、魅了を受ける香水なんて存在するのか? 存在していいのか? リリスっていうことは、
女悪魔にちなんだ名前なのだろうが・・・。
「そういえば、そんなレアマジックアイテムがあるって、シャリーナが言ってたかも」
光喜が思い出すように言う。ということは、そのカーバンクルに、リリス・ポーションがかけられてたわけだ・・・。
ダンジョン入り口で暴れていた大男といい、ただのダンジョンとは思っていなかったが、まさかココまでややこしい場所だとは
思ってもいなかったぜ。
「悠夜、治療アイテム幾つ持ってる?」
光喜に言われて、自分の○次元ポケット級のポケットを見る。万能薬が4つ、毒消しの薬草が2つ、痺れとりの薬草が1つ、
蘇生の聖水が1つ、HP回復用のポーションは30本あるから心配ない。
コートのポケットにそんなに入るはずがない? ファンタジーなんてそんなものさ・・・。光喜がやってたゲームなんか、自転車に
釣竿3本、薬が500個近く、そのほかにもいろいろなアイテムをリュック1つに入れてたな。
「光喜は?」
光喜は自分のポケットをあさる。そして、出て来たアイテムは・・・。キャンディー4つ、飲みかけのジュース1つ、携帯ゲーム1つ、
トランプ、フリスビー、ビー玉・・・・って、遊ぶものばかりじゃねぇか!! というか、いい若者がビー玉をポケットに携帯しているのか!?
「薬とか持って来てないのか!?」
「だって、俺が持ってなくても悠夜が持ってるし♪」
そうか、そうだな、普段からお前、アイテム使わずに戦うもんな・・・。
そして、その全てのしわ寄せが俺に来るんだ。
「メアは?」
俺に話を振られたメアは、剣の鞘と一緒に腰についていたポシェットを取り出す。不死鳥の羽【ピンクの絆創膏】が6つも出てくる、
なるほど、自分が周りの人間にどれだけ迷惑を及ぼすか自分でも自覚しているらしいな・・・。他のアイテムはと・・・
ポシェットを逆さにするが、袋詰めされたバームクーヘンの山と、その他のお菓子が出てくる程度だった。
最後には、小さなストラップがジャラジャラと出てくるだけ・・・。
「状態異常を直すアイテムはもって来てないのか?」
「・・・・・なくした」
口をつぐみ、しょんぼりと下を向きながら言う。なるほど、混乱を受けているうちにどこかへやったと・・・。
メアは山積みにされたバームクーヘンを1つ手に取る。
「・・・・1つ足りない」
はいはい・・・。1つくらいどうってことないだろ・・・、そのバームクーヘンの山は、俺が食すバームクーヘンの3年分に相当するぞ。
しばらく、しょげていたが小腹がすいたのか何食わぬ顔で包装紙を破り、満面の笑みでバームクーヘンにかぶりついた。
一応回復してるんだろうな・・・。メアは無傷だったが・・・。
「回復魔法は、専門じゃないからな・・・・エルルがいれば楽だったんだが・・・・」
毒2回に、麻痺1回、全ての状態異常を4回、計6回の治療しかない。俺の回復魔法だと、完全治療は
できない場合が多いし、失敗する確立も高い・・・闇の魔力を持ってると、相対属性である光の魔法、つまり回復魔法は苦手に
なるんだよな・・・。
「ここは、一度戻ってエルルを連れてきたほうがいいかもな・・・」
回復魔法で他に頼りになる奴はいない、タケシは自分の能力以上のことはできないし、シャリーナは攻撃専門、ミヤを召喚しても
魔法さえ使えない・・・。とことん攻撃的な奴が多いメンバーだよな。
俺が一度帰ろうとしたとき、メアが俺の袖を引っ張る。
「・・・・・行く」
いつになく、むきになった顔でそう言う。このメンバーだけで、いけると思ってるのか?
俺の質問に、コクリと頷く。その自信の根源がどこからくるのか知りたい・・・。
「まぁ、逃げるのもシャクだし、俺はいいんだけどな・・・・」
というか、俺は呪術や幻術を使ってて、大抵の状態以上には耐性があるからな。俺が気をつけないといけないのは、
毒と麻痺、後は凍結ぐらいだろう・・・。
「きっとなんとかなるって♪」
何の耐性もない光喜がニコニコ笑顔でそういう。お前の自信の根源も俺は知りたい・・・。