悠夜は軟弱?
ダンジョンの中で知り合いのメアにあった陽河兄弟。
一緒にダンジョンを攻略しようとするが、すぐに迷子になる光喜、地図を見ることを放棄するメア、そして、いまいちやる気のない悠夜・・・果たしてこの3人はダンジョンの最下層へと行くことができるのか?
「さて・・・この階の地図はないな」
俺はそういうと、手に持っていた地図をしまい周囲を見渡してみる、さっきの階と大差ない風景が俺の
やる気をドッと削いでいった。
「はぁ・・・とりあえず、しらみつぶしに歩くか」
そういいながら俺は後ろを振り返った、さっきから静かになっていたので光喜もメアもだいぶ疲れが出て
いるだろう。
「・・・・・」
「おいしいね〜♪」
前言撤回、光喜はニコニコとした満面の笑みで、メアは黙りこくったままモギュモギュとまるでリスのように
両手で、でかいバームクーヘンを持ち食べている、静かだと思ったら、てめぇら緊張感というものがないのか。
俺が呆れてみていると、メアが俺の視線に気付いたのか食べるのを中断して俺を見つめる、そして、自分
が持っていたバームクーヘンをちぎって俺の方に差し出した。
「別にいらね―――」
俺が言いかけたとき、メアの手がグイッと伸びてきて、俺の頬にバームクーヘンが押し当てられる。
「だから、いらな―――」
俺がメアに視線をやると、メアの視線がまっすぐに向けられている、俺がバームクーヘンを頬に押し当てら
れた状態で固まっていると、その目はだんだんと潤んできて、口をへの字に曲げだし、ほっといたら泣くんじゃ
ないかと思う。
「わかったよ・・・食えばいいんだろ」
俺がそういってバームクーヘンの破片を受け取ると、ニパッとした笑みを浮かべて目をキラキラさせて俺を
見る、俺は仕方なくメアによる監視のもとで別に食いたくもない砂糖の塊のようなブツを口に入れた。
「・・・・・・」
メアはそのまま視線をそらそうとはしなかった、仕方がないので俺が一言「おいしい」といってやるとまるで
子供のような笑みを浮かべて、自分のバームクーヘンをまたちぎって俺に手渡した。
「はぁ・・・とにかく行くぞ」
そういうと、俺はまたカルガモの親のような気分で先頭を歩き出す
「これおいしいよね、どっかで買ったやつ?」
光喜がメアに尋ねると、メアはフルフルと首を振った、もしかして、自分で作ったのだろうか?
そう考えるとあれだけ俺に食うことを勧めたことが説明できる、せっかく作ったのだから誰かにウマイと言って
欲しいと思うのは当然の理だ、そう考えながらも俺はもう一口バームクーヘンを頬張った。
「・・・・屍の草原で拾った」
「ぶはぁ!!」
俺は思わず口のものを噴出してしまった
「悠夜、きたな〜い」
光喜が笑いながら俺を茶化す、メアは不思議そうな目線を俺に送ってくる。
ちなみだが、屍の草原とは、ゾンビやゴーストとかうねうねした触手のようなモンスターがわんさかいるような
ステージの名前だ。
「そんなもの人に勧めるな!!」
俺はどなるようにしてメアにいうが、メアはバームクーヘンにかぶりついたまま首を傾げるだけだった。
そんなメアに脱力感を覚えながら一歩前に踏み出した、その時、俺は反射的に後ろに飛んだ。
俺の頭があった場所には鈍い銀色の閃光が走り、それが大きな鎌だと解ったのはそれが壁に斬撃の跡を
残したあとだった。
「・・・・・・・」
言っておくがこの三点リーダの連続はメアのものではない、無論メアは黙ったままだが俺の目の前には
メアと同じぐらい寡黙そうな奴がいた、いや、表情に変化があるだけメアのほうがまだ可愛げがあるな。
そいつは黒いマントに身を包んだ骸骨で、目・鼻・口の穴からは薄気味の悪い紫色の光が漏れている、
これがなんなのか、教わらなくても分かる、死神だ。
「へぇ、少しは手ごたえのありそうな奴いるじゃねぇか・・・」
普通、こんなレベルの低いダンジョンに死神はいないのだが、そんなことどうでもいい、雑魚ばっかしで
イライラしていたところだ、ちょうどいい腕ならしだ。
「行くぜ!!」
俺はそういいながら、手をかざし巨大な黒い魔力の球体を放った、その後素早く前方へ飛び上がった、
死神が鎌で魔力の球体をかき消したのを死神の頭上で確認する、死神は魔力の球体が邪魔したおかげで
俺が飛び上がったのを見ていない。
俺が奴の頭上で魔力を溜めていると、死神は自分の前方に鎌を振り回す、鎌は何もない空を切り死神は
あっけに取られている、どうやら魔力を放つ前にかけた幻術がうまくかかったようだ、先ほど死神は自分に
向かってくる俺の幻術を切ったのだ。
「終りだ!!」
意外とあっけなかったな・・・そう思ったとき、俺は急激な眩暈を覚えて空中で体制を崩しその場に倒れた
「くそ・・・何か呪術をかけられてた―――」
俺はすぐに訪れた体の変化によって壁際まで走った、胃の中からすっぱ苦いものがこみ上げてきて
俺はその場で嘔吐した、そして確信を持った、これは死神の力ではなく、あのバームクーヘンのせいだ
多分、いま俺のステータスには異常効果として毒が追加されていることだろうね。
「悠夜危ない!!」
光喜が叫びながら俺に走り寄ってくる、俺の背後では死神が鎌を振りかざしていた、とりあえず鎌を回避し
死神から距離をとり死神の頭上に向かって魔力の弾丸を放つ。
「光喜、やれ!!」
俺が言うと光喜は魔力を高めていく、すると死神の頭上の瓦礫は空中で静止した、これが光喜の力で
周囲の時間をとめることが出来る、魔力を持たない、または光喜に比べると無いに等しい生き物なら一緒に
とめることも出来るが、今の光喜なら死神の時間を止めることはできないだろう。
「はぁあああああ!!」
光喜は声を上げながら死神に切りかかった、連続で3回ほど切りつけると死神は鎌を振り上げた
その瞬間、空中で静止していた瓦礫が再び落下運動を始め死神に降り注いだ。
「倒したみたいだね」
光喜は瓦礫の山を見ながらそう呟いた、俺はその場ヨロヨロとしゃがみこんだ
「悠夜、だいじょ〜ぶ〜?」
光喜が間の抜けた声で言ってくる、俺は光喜とメアを見た、俺は医者ではないが2人が健康体なのが見て
分かる、俺は俺以外の人間の胃袋がどういった構造で出来ているのか知りたいものだね、お前らは平気なわけ?
とりあえず俺は治療魔法で異常効果を取り除き、鋼鉄の胃袋を持つであろう2人を連れて歩き出した。
マジメな戦闘が少し入りましたが、やっぱりその他の割合の方が多いですね、もっと敵らしい敵が出てきたら戦闘シーンの割合も増えるでしょうが、序盤は戦闘があってもこの程度だと思ってください。