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    暴走?

 日も完全に暮れたが、エルルとシャリーナはまだ俺の家でくつろいでいた。俺は会話の頃合いを見計らって

立ち上がると、出かけことを告げる。壁にかかったコートを手に取ると、キッチンにいき内ポケットに

酒の小瓶を3つほど忍ばせておく。煙草の数も減っていたが、煙草を吸う暇があるかどうか分からんし、

別に新品を持っていく必要もないだろう。

 その後、一度自分の部屋に戻り、小さな紙の束を取る。そこにはさまざまな魔方陣が書かれており、簡易式の

呪術の儀式に使うためのものだ。


「じゃあ、少し行ってくる」


 俺はそういうと外へと出た、コートのポケットをあさってバイクの鍵を取り出すと鍵穴に差し込む。

昨日とは違い空にはまばらに雲があり、大きな満月が現れたり隠れたりしている。ふと、バイクから

今までになかった微弱な魔力を感じる。

 その魔力をたどると、バイクのマフラーの裏に発信機のようなものを発見する。


「タケシの能力だな・・・。光喜が頼んだのか」


 俺は呪術用の魔方陣が書かれていた紙の束から1つ取る。それを地面に落とすと、土が盛り上がり、

紙の周りを覆っていくとやがて小さな狼のような形になっていく。

 その使い魔に発信機をつけると、俺が行く方向とは反対の方向に走らせた。

 兄を見くびるなよ、この程度の追跡なら一瞬でまいてやるさ。

 俺はバイクにまたがると、エンジンをかけてメアの地図に書かれた場所へと向かった。


 その場所は町外れの廃工場でも、市街地に立つヤクザ組みの建物のようなものでもなかった。


「おいおい、こんな学校に手がかりがあるのか?」


 そう、そこは普通の学校だった。魔法学校とは別の知識だけを教えてくれる学校だ。周囲には家屋が

立ち並び、校舎には明かり1つついていない。半信半疑ながらもバイクを押しながら校門をくぐった。

 その瞬間、空気が変わった。背筋に悪寒が走り、気圧が変わったかのように鼓膜が圧迫され、息苦しささえ

感じるほどだ。

 外からは分からなかったが、中に入ってようやく分かった。この学校はドーム状の結界の中にある。

結界の効果は魔力探知を防ぐものと、中の出来事を外から観測できなくするものだろう。俺はゆっくりと校門に

戻って手をかざしてみる。すると、まるでガラスがそこに張られているかのように一定の場所から出られなかった。


「侵入者を逃がさないというわけか」


 結界の強さはトリプルAってところだ、解除できないこともないが、時間がかかりすぎる。そんなことさせてくれそうにも

なさそうだ。

 俺が後ろを振り返ると、様々な服装をした連中がぞろぞろと集まってきた。町ですれ違っても、一般人として

受理してしまいそうな容姿なのだが、思い思いに持っている武器はまがまがしい。

 真っ赤な血のような赤色をした大鎌や、銃身が1メートルほどありそうなマシンガン、大きく反り返った剣、どれもこれも

嫌な感じの魔力を漂わせている。

 メアにはあんなこと言っちまったが、俺は命がけで戦わないと帰れそうにないな。50・・・いや、それ以上の人数が

ぞろぞろと出てくる。『魔女狩り』という組織を舐めすぎていた、優秀な魔法使いが2・3人ぐらいと、10数名のメンバーだと

思っていたが、これほど多いとは。


「殺すなよ・・・」


 一人がそういうと、割と俺に近かった数名が刃を振りかざして襲い掛かってきた。俺はコートの中から酒の瓶を取り出し

瓶の口を割ると酒を宙にばら撒き、ライターで火をつける。すると、炎が上がり自然と目線はその炎へといく。

 そこで、俺は幻術をかける。とりあえず、こう広い場所だと狙われたい放題だからな、校舎の中に逃げ込もう。

そう思って、校舎の方にダッシュしたとき、後方でみていた敵の何人かが魔力を放出する。すると、全ての敵にかけていた

幻術が一瞬で解けてしまった。

 コイツら強いな・・・。


「うぉおおおおおお!!」


 近くにいた大男が鎖に棘付きの鉄球が付いたものを振り回す。その鉄球が俺の真横に迫ってきた。棘の付いていない

部分を狙って飛び上がりながら蹴り落とす。鉄球は地面沈み、男の動きが止まったときに、アゴ下にきつい蹴りを一撃入れる。

 一人は完全に倒したと思った瞬間、左右から弾丸や矢が惜しげもなく飛んでくる。俺は精神を集中し、何もない虚空を見つける。


「転送用魔方陣展開!!」


 俺の足元に緑色に光る魔方陣が出現すると、俺はほんの数メートル先に宙ワープする。弾丸や矢は互いに相殺したり、お互いの

仲間に当たったりしている。

 宙で身動きのとれない俺に、槍をもった女が襲い掛かってきた。俺は女とは別の方向にいる敵に狙いをつけ、魔力の弾丸を放つ。

俺の体は反動で宙を平行移動し、弾丸は命中、敵の攻撃は回避に成功した。その後、腹部に回し蹴りを入れて女を払いのける。

今度は後ろから3人、左右からも2人ずつ、前からは4人。


「この数はどうにもならんか・・・」


 コートから一切れの紙を出し、地面に叩きつける。その紙に書かれていた魔方陣が光りだすと、俺の周囲は白いモヤに包まれる。

俺の周囲にいた敵がそのモヤに触れた瞬間、この世のものとは思えない断末魔を上げて倒れだす。

 腕は腐り落ち、皮膚は溶け、頬肉が溶けて口内に続く穴が開き、見るも無惨なほどにドロドロになっていく。

ひどい匂いが周囲に立ち込め、周りの敵は俺を恐れるかのように一歩後退した。


「ぐっ!!・・・・どうした、かかって来いよ!!」


 強がって見せるが、背中から腕、足にかけて焼けるような熱さが駆け抜ける。呪印が少しずつ俺の体を侵食している。

周囲に立ち込めていたモヤもすでに消えていて、連発していると俺の理性が崩壊する。崩壊したあとは具体的にどうなるかは

分からないが、悲惨な結果だけは目に見えている。理性がない生物なんて、暴れまわる猛獣よりもたちが悪いからな。

 すると、今度は銃弾などではなく魔力の弾丸や炎の塊のようなものが次々と飛んでくる。

転送用魔方陣は魔力の消費が高いため連発するのは危険だ、ここは自分の足で逃げたほうがいいだろう。

 飛んでくる攻撃を左右にかわしながら進むが、急に足が動かなくなる。足に目をやると、地面から伸びている手が俺の足首を

掴んでいた。数メートル先には地面に腕を突き刺した男がニヤニヤと笑っている。


「くそ!! ダークエクスプロージョン!!」


 俺は腕に大量の魔力を集中させると、それを向かってくる攻撃に放つ。すると、それは宙で黒い巨大な球体となり、

すべての攻撃を中に吸収して闇はドンドンと大きくなっていく。その後、それは攻撃を放った連中のもとへ飛んでいき

大爆発を起こした。

 その後、小さめの魔力の弾丸を俺の足を掴んでいる男の頭にぶつけてやる。男の頭は吹き飛び、体だけが力なく地面に倒れる。


「悪いが、なりふり構ってられないんでな」


 ダークエクスプロージョンを使った反動で呪印が体を焼き尽くすような痛みを発し、俺の体を侵食しているのに耐えながら、

コートのポケットからもう一枚紙を取り出し地面に叩きつける。

 それは、黒い光の球体となり空へと上っていく。すると、先ほどのドロドロになった死体や、ダークエクスプロージョンなどで殺した

奴らの死体から白い霊魂が立ち上る。霊魂は頭が割れそうになるほどの悲鳴を上げながら黒い球体へと吸い込まれていく。

 普段あんなものは使いたくもないが、こいつらはこうでもしないと対処できないからな。アレは、悪魔に生贄を捧げるときに使う呪術だ。

アレに吸い込まれると、魂は輪廻の輪からはずされ完全に消滅する。そして、魂を捧げれば捧げるほど俺の力は上がっていく。


「ぐぁあああ!!」


 呪印が侵食する痛みが今までにない勢いで襲い掛かる。コートの袖をめくってみるともう肘を過ぎたところまで呪印が侵食していた。

まずいな、少し飛ばしすぎたか・・・。

 少しはセーブして戦おうとした瞬間に、5人ほどが一気に襲い掛かってくる。体中の体毛が針のように逆立った男や、

電流を纏った男、他にも禍々しい腕の男など、ただの魔法使いではない能力者が一気にだ。


「消えうせろ!!」


 ダークバスターを二つ同時に放つ、呪印の侵食を抑えるために威力はセーブしている。二人は跳ね除けたが、

それでも3人が襲い掛かる。1人の攻撃を回避、すかさず次の攻撃も回避、3人目は体中に電流を纏った男で、

物理攻撃が不可能と判断してダークで吹き飛ばす。

ちまちま攻防をしていると、体の自由が利かなくなってくる。よく見ると、3人の呪術師に囲まれており、足元には魔方陣が浮かび上がっていた。


「3人がかりで、金縛りか・・・・」


 1人なら簡単にあしらうことができるが、3人となると正直キツイ。俺が手こずっている間に敵は次々と襲い掛かってくる。

くそっ!! セーブなんてできやしねぇじゃねぇか!!


「うぉおおおおおおおお!!」


 俺は雄たけびと共に全身の魔力を全解放する。ここまで魔力を使うのは何年ぶりだろうか。俺にかけられていた金縛りはとけ、

身体能力も上昇していく。俺は近くにいた敵に蹴りをいれる。骨がミシミシときしみ、口からは大量の血反吐を流しながら数メートル吹き飛んでいく。

2人、3人と次々に体術であしらっていった。

 敵の包囲網の一点を突き破ると、校舎の中へと入っていく。相手が大人数な以上、入り組んだ場所で戦ったほうが有利だからな。

入り口にすぐさま防御用魔方陣で結界を張り、どこか身を潜める場所を探す。適当な教室に入ると、紙を一枚とりだし魔力を注ぐ。

俺は学校に張られている結界の内側にもう一枚の結界を張った。これで逃げられないのは向こうも同じ、敵を分散させて相手を少しずつ

始末していけばいい。

 俺が移動しようとしたとき、教室の窓の外にタカの頭にライオンの体とツバサを持ったモンスターが現れる。


「グリフォンか!?」


 俺は窓ガラスを割って入ってきたグリフォンをダークバスターで排除する。だが、間髪をいれずに飛行魔術を使って飛んでいた

魔法使い数人がマシンガンを乱発してくる。俺は教室から逃げ出し、また新たに隠れる場所を探すために走っていく。

 どうやら、入り口に張っていた結界も解かれて敵がなだれ込んできたようだな。俺は理科室のような場所に逃げ込み、

壁にもたれながら呼吸を整えていた。すると、ふと壁越しの背後から気配がする。壁から転げまわるように離れたとき、

壁を大剣が引き裂いた。


「見つかったのか!?」


 見つかるのがどう考えても早すぎる。どうやら向こうには、相手の位置を正確に把握できる能力者がいるらしい。

ドアが爆破され、敵が流れ込んできたとき。床に配置されていた紙が光りだす。光は赤い魔方陣となり、そこからは

どす黒い腕がいくつも伸びてきて、その鋭い爪で魔方陣の中に立ったものを切り刻んでいく。


「トラップ用魔方陣展開ってな!!」


 魔方陣にびびって進行が止まった瞬間、群れの中に赤い鉱石を投げつける。この鉱石は『バーニングストーン』と呼ばれる

攻撃用のアイテムだ。それは爆発し、真っ赤な炎は相手を焼き尽くしていった。

 その間にも、廊下側の窓を破ってその場から逃げる。後ろから追っ手が来ないか見ながら走っていく。どうやら、炎の壁が

邪魔をしてなかなか追ってこれないようだな。

 俺が安心して前方に視線を戻したその瞬間、腹部で爆弾が爆発したような衝撃を受けた。目の前にはジェイソンの仮面をつけ、

灰色の薄汚いフード付きのマントを着たあの大男がいた。そいつの腕は俺の腹に沈んでいた。

 血反吐を吐きながらコンクリートの地面に容赦なしに叩きつけられる。奴は追い討ちをかける様子もなく、突っ立っている。

俺が腹部を押さえながら立ち上がろうとしたとき、ゆっくりと俺に近づいてきた。


「この野郎!!」


 俺はダークバスターを放つが、突如出現した岩の壁に防御される。だが、その技はこの前見たんだよ!!

 その岩壁に飛び乗ると、そこから大男にダークエクスプロージョンをぶつけてやる。爆発による煙が一帯を覆い、

確実にしとめたと思った。その瞬間、煙の中から太い腕がグイッと伸びてきて俺の胸倉を掴む。そのまま引っ張られると、

ひび割れたジェイソンの仮面が眼前まで迫る。


「お前、人間か!?」


 俺の言葉に何の反応も示さないまま、俺は壁に叩きつけられる。瞬間に全身を魔力で覆い防御をする。壁はぶち破られ

何かの実習室のような場所に投げ込まれる。防御しなけりゃ、もう指一本動かせなかった、いや、下手すりゃ死んでただろう。

 男は俺が通った穴をゆっくりとくぐってくる。その後ろからは、別の足音がいくつも聞こえてきた。


「やばい、意識がドンドン薄れてく・・・・」


 俺は自分の手首まで伸びて来ていた呪印を見た。まさか、負けるなんて思ってもみなかったな。

このまま、俺はどうなるのかな? 生け捕りってことは、なんかの生贄にでもしたいのだろうか・・・。それとも、

呪術の知識が欲しいとか? いや、そんなのはどうだっていい。奴らの思い通りになるぐらいなら、その前に

自殺だろうが何だろうがしてやれば言いだけだ。

 光喜は、エルルは、シャリーナは、タケシは、メアはどうなる!? ここで俺が負けたら、俺を待ってる奴を失うんだ。


「・・・・フッ、メアとの約束は無理かな?」


 逃げ出せないなら戦うしかない、負けることが許されないなら勝つしかない。たとえ、全てを失ってでも。


「ぐぉおおおおお!!」


 倒れたまま雄たけびを上げると、魔力を高めていく。手の平の血管が浮きあがり、体中が熱い。呪印の侵食に伴う

痛みが右頬や、足首にまで走る。どうやら、ほぼ完全に呪印が体に回ってきたようだ。

 俺を取り押さえようとしてきた1人の頭をわしづかみにする。破壊衝動に任せるまま、壁にたたきつけると、

グシャという嫌な音と手の平に残るヌメリとした感触、壁を見ると頭が完全につぶれた死体がもたれかかっている。

 こんな姿、あいつらには見せられないな。


「来いよ、全員殺してやるよ!!」


 鏡が合ったわけではない、ただ今の自分がどんな目をしているのか分かっていた。蛇とも獣とも言いつかない、殺戮を望む目。

頬に付いた返り血さえぬぐわずに目に付く奴らの四肢を引きちぎっていく。俺を恐れて何人かが俺に銃を乱射する。

 全てがスローモーションに見える。銃弾の雨をかいくぐり、引き金を握っていた腕を銃ごと握りつぶす。耳を劈くようなうるさい声が

聞こえる。うるさい、黙れよ。

 本能のまま喉元に掴みかかると、そのまま握りつぶす。頭は地面に転げ落ち、体は血を噴出しながら倒れていく。

 だんだん、自分が何をしているのかも分からなくなってきた。目の前に移る人間が次々と肉塊に変わっていく。最後に残ったのは

あのジェイソンの仮面をつけた大男だけ。


「・・・・殺してやる!!」

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