掴んだ尻尾?
どんなおとぼけな物を出すのかと思っていたが、メアは意外と普通なもの
を取り出した。それは、小さなカードで、最初学生証明書かと思ったが・・・。
「・・・・・特殊教員免許?」
突拍子もないものを出してきやがった、特集教員免許っていうのは、
この世界に普通にあるものじゃない。まぁ、普通じゃないから特殊なんだろうが。
まぁ、その免許証にはメアではない誰かナイスガイな野郎が映ってる。
こいつはいったい何がしたいんだ・・・。
「・・・・・自警団」
メアは一言そういうと免許書を直す。そういえば、魔法学校が運営している
ギルドの1つに自警団なんてものがあったな・・・。
「つまり、なんだ。お前の身内の誰かが――」
「お父さん」
俺の言葉を待たずにメアが言う。あんなふけたお兄さんはないとは思ったが
あのゴリラ男はお前の親父さんなのか・・・。はじめて見たが、あんな男とどんな
絶世の美女を足し合わせたら、こんなかわいい娘が生まれてくるんだろうね。
「お前の親父さんが自警団のメンバーで、『魔女狩り』についても自警団を通して
知っていると受け取っていいわけだな」
メアはコクコクと何度も頷く動作を繰り返す。初耳だぞそんなこと。というか、
光喜・シャリーナに匹敵・・・いや、下手したら2人を上回るトラブルメーカーの
お前の身内が民衆の安全を守っているとでも言うのか?
「・・・・・いい子?」
ハイハイ、いい子いい子。別にお前が偉いわけじゃないけど・・・。
はぁ、なんだか眩暈がしてきたよ・・・。
「じゃあ、この地図の場所には自警団が調べに入っているって事か?」
俺の質問に、今度は首を振って否定する動作で答える。そりゃまたなんで?
自警団としては、部外者である俺に情報を漏らすなんて調べつくしたから
じゃないのか?
「・・・・・手を引く」
なるほど、自警団には手におえなくなったので見て見ぬふりをはじめたと・・・。
それで、自警団があてにならなくなったので、メアの独断で俺に地図を渡すことに
したというわけだな。
メアはコクリと一度だけ首を縦に振る。1単語しか発声しないメアと、ここまで意思
疎通できる自分が怖いぜ。
「それで・・・明日調べに行くが、お前は付いてくるのか?」
俺としては誰も巻き込みたくはないんだが、地図を持ってきた本人に聞かないのも
変な話だからな・・・。
メアは少しうつむいて残念そうに首を振った。
「・・・・・用事」
そうか、人を危険地帯に追いやるっていうのに、それさえ無視しなくてはいけない
用事か・・・。どんな用事か気になったが、追求した結果、付いてくるといわれても
困る。できるだけ、この件に関しては俺一人で解決したいからな。
「まぁ、ありがたく地図はもらったくよ」
そういって、メアに背中を向けてその場を後にしようとしたとき、後ろからメアが
俺の袖をギュッと引っ張ってくる。その瞳は不安げに揺れていて、何か言いたそうに
口をもごもごさせていた。
やがて決心したように、深呼吸をすると。
「死なないで」
その濡れた瞳は俺をじっと捕らえていた。月明かりに照らされた彼女は、素直に
キレイだと思った。
いや、かわいいし、キレイなんだが・・・コイツ、俺が死ぬ気でいるとでも思って
いるのか? 言っておくが、俺の目標は呪印の男への復讐であって『魔女狩り』討伐
ではない。そんな刺し違えてまで倒そうなんておもってないよ・・・。
そんな俺の思いとは別に、真剣で泣き出しそうなメアを見ていると、自然と笑みが
浮かんできた。
「安心しろ、女の子を待たしたまま死ぬほど野暮じゃねぇよ」
そういいながら頭をなでてやると、メアは納得したのかしてないのか分からない
様子で俺の袖を解放した。
「・・・待ってる」
「あぁ、この地図のお礼もそのときでいいな」
俺がそういうと、メアは不安げな表情のままで首をかしげた。そして、3秒ほど時間を置き。
「・・・バームクーヘン」
と、一言だけ呟いた。コイツは本当に人のことを心配しているのかという発言だが、そんなこと、
この目を見ていると言い出せなかった。
「了解・・・」
俺はメアの頭を撫でてから、バイクを止めてあるところまでとぼとぼと歩いていった。
空に少しだけかけた月が昇っていて、その色は鮮やかな赤だった。鮮血の赤い月、特に深い
意味はないただ、そんな言葉が頭の中に浮かんできた。
明日は多分、満月だろうな・・・。
そして、翌日の夕方。
俺は早めに夕飯を済ませて、キッチンで食後の後片付けをしていた。隣には、いつものごとく
エルルが手伝ってくれている。ここんとこ、毎日のようにエルルとシャリーナが俺の家に来ている。
ついでに言うと、シャリーナは光喜とテレビを見ながら爆笑中。メアはテーブルを拭いているところだ。
「あ、あのね、今晩なんだけど・・・・」
エルルが洗い終わった皿を拭きながら話しかけてくる。どこか、もじもじとしていいにくそうな感じだ。
「悪いな、今晩は出かけなきゃいけねぇんだ」
用件も聞かずに、俺はキッパリと断った。別に今日じゃないといけない理由なんて存在しないのだが、
向こうが俺だけじゃなく、コイツや光喜たちを狙っているならさっさと片付けたほうが利口だろう。
「どこに行くの?」
残念そうという雰囲気ではなく、興味本位といった感じで俺の事を見てくる。多分たいした用件じゃ
なかったんだろうな。
「ちょっとな・・・」
俺はその場を軽く流して洗い物に専念する。少々、周りの空気が重くなった気もするがそんなことは
無視だ。奴らは、何故か知らんが俺の事を生け捕りにしようとした。ならば、俺は最低でも殺される心配は
ない、だが、こいつらは違う・・・。
この世界の人間は、ファンタジー的な頭してやがるから、死=最期の時という概念が全くない。死んでも
ファンタジー的、もしくは、神秘的な力で復活できる。そんな奴が、本当の魂の死と直面する戦いがまともに
できるとは思わない。
そう、俺はコイツらを連れて行くわけには行かないんだ・・・。