第X話「総集編?」
この話は、後の展開に関係ないので飛ばしても大丈夫です。
人間、たまには1人になりたいことあるし、感慨にふけたくなることだって
山ほどあるだろう。特に俺のような周囲のトラブルにストレスを感じている奴は
なおさらのことだろう。
というわけで、1人でバイクを飛ばして誰にも邪魔されないところまで来ている
というわけだ。
夜中の高速道路を飛ばしてかなり遠いところまで来たな。サービスエリアで休息
してもいいのだが、リフレッシュするには人の多いところはゴメンだ。
今は高速を出て、宙にひかれた高速を支える柱にもたれかかっている。頭上を
見上げると星空の変わりに、高速道路の裏側であるコンクリートの天井が広がって
いる。
その高速を支える柱にはペンキで落書きだらけ、周囲にフェンスがあるが風化して
破れた箇所が多すぎるため機能を果たしていない。
無論、こんなところに街灯などあるわけがなく、煙草に火をつけるライターの火が
唯一の光源となっている。
ポケットから電源を切っていた携帯を取り出す。パワーボタンをしばらく押すと、
バイブの振動とともに液晶がわずかな光を放ちだす。着信が1件あるな。
発信相手は光喜のようだ、あいつが風呂に入ってる間に出てきたからな・・・。
ミヤにもなにも言わずに出てきたから心配したんだろう、だが、一度の電話で
諦めるのが光喜らしい。一応アイツなりに俺に気を使ったのだろう。
電話をかけなおさずに時計だけを見る。
「・・・今から帰っても、着くのは朝か」
ならば、急いで帰るのも今さらというものだ。もう少し排気ガス臭いこの街で、
煙草の煙に体を蝕ませてみるのもいいだろう。
丁度静かなところでいろいろ整理したいと思っていたところだしな。
「それにしても、独りになるのも久しぶりだな」
昔の俺だと考えられないことだ。あの日から、しばらくは光喜以外と話しさえ
しようとしなかったからな。
俺の一番古い記憶、十年前のあの日、俺の母親は何者かに殺された。
だが、その記憶さえもその男の忘却術によって曖昧だ。親父が母親の写真を
処分したせいで、母親の顔さえも覚えていない。覚えているのはズタズタに
なり誰か判別するもできなくなった母親の死体と、俺と同じ黒い長髪に、背中に
植物のツタのような呪印があった男の姿。見方によっては鎖や楔の形が連なって
いるようにも見える。奴はそれと同じものを俺の背中に施して去っていった。
あの日から俺の目的は奴を殺すことだけになったんだよな。
母親を失ってからは、仕事狂で単身赴任や海外出勤などを繰り返す父親を除いた、
光喜との二人暮しが始まった。5歳の時からいきなり二人暮しだ、ベビーシッターが
居た時期もあったが、俺が追い出した。それでも、親戚のおばさんとかがしょっちゅう
顔を出してくれてた。けど俺は、それさえも鬱陶しいと思ってたんだよな。
光喜がいればそれで十分だと思ってたからな・・・。
「いつも、俺の邪魔ばかりしてたがな・・・」
当時は俺と身長はさほど差はなかった。そりゃそうだよな、俺たちは双子の兄弟
なんだから。だが数年のうちに成長速度に変化が現れた。これは光喜の時間を操作
する能力に関係しているのだが、難しい理屈は置いておこう。
今では双子にして俺より30cmも背が低く、その身長を象徴するかのように精神年齢
も低い。魔法の才能も俺に比べると格段に低い。
人が使える魔法というのは才能で決まり、才能がない分野の魔法を極めることは
できない。さわり程度に使うことならできるかもしれないが・・・。俺の魔法の素質が
闇・呪・幻をはじめとして10以上あるのに対し、光喜は時と光だけ。時間操作という
珍しい能力を持ってはいるが、その他の魔法はからっきしダメだな。
一緒に暮らしていたのは光喜だけだが、他にも仲間は一応いた。あいつらが
いなかったら、俺はきっと復讐のためだけの殺人鬼みたいになってただろうな・・・。
一番付き合いが長いのは、隣の家に住んでいるエルルとシャリーナだな。
2人とも俺の母親と同じ日に両親を亡くしている。原因は爆破テロ、それに
巻き込まれたエルルの話だと、黒い長髪で銀の十字架のネックレスをした男に
助けられたらしい・・・。多分、俺が追っている男とみて間違いないだろうな。
「加えて、エルルの初恋の人でもあると・・・」
だから、俺はエルルにそいつのことは一切話していない。これからも話す
つもりもない。
あのエルルの初恋か・・・。マジメで頭もいいのだか、内気でシャリーナによく
いじめられている。いじめられているといっても、2人とも親友だし同居してる
くらいだから、からかわれているというほうが正しいかもな。
成績優秀で、樹・炎・水をはじめとする6つの素質を持ってる、エリートって奴だな。
能力は変身能力、特に珍しいというわけではないが、いろんな状況に柔軟に
対処できるエルルらしい能力だ。
「シャリーナもエルルぐらい優秀ならいいんだが」
シャリーナはエルルと正反対な性格だ、大雑把で、大胆で、自己中心的な奴だ。
成績もエルルと逆で、地・雷・炎の3つしか素質がない光喜とともに追試仲間だ。
どうも、あいつの考えていることは分からん。しょっちゅう、俺とエルルだけを置いて
どこかへ行ってしまう。光喜を連れてどこに行っているのかはいまいち不明、聞く気も
ないし、知りたくもない。
能力は重量の操作、物を軽くしたり重くしたりすることだ。その能力を生かした
文字通りの重い一撃は強力な必殺技になる。
「あいつらとも長い付き合いになるな」
それから数年たって、タケシの奴が仲間に加わったんだな。俺をアニキと慕う
無駄なハイテンションな奴だ。人にまとわりつかれるのが嫌いだからな、蹴ったり
殴ったりしてるが、音を上げることがない結構タフな奴だ。年は俺や光喜より1つ下
なのだが、光喜とは気が合うようだ。一方的に光喜のおもちゃにされてる気もするがな。
そして、素質は鋼1つという光喜の追試仲間の一人だ。能力は魔力で機械を
作り出すというレアな能力なんだが、成績には繋がってないようだな。
「このバイクも、あいつに作らせたものだから悪くはいえないがな」
俺は自分の乗っていたバイクを見ながら、自然と顔がにやけた。
それからさらに数年たって、ごく最近仲間になったのはメアだな。あいつの
成績っていうのは謎なんだよな。そもそも学校に行ってるのか? 家庭の事情も、
詳しいことは何も知らんし・・・。あいつは、致命的なまでに無口だからな何も
語ろうとしない。ただ、表情だけは豊かで、泣きそうになったり無邪気に
笑ったりとせわしい奴だ。
顔や仕草がかわいいもんだからナンパなどによくあうが、少しでも変なことを
しようとしたら終りだ。あいつが悲鳴を上げた瞬間、周囲は惨劇の舞台へとかす。
能力は声や音を刃に変えること、音が聞こえた瞬間には既に刃が届いていると
いうことだ。回避不可能、音なので防御も不可能、敵味方の判別なし、末恐ろし
い能力だ。
ベタベタと平気でくっついてくるし、バームクーヘンが好物で、スタイルはかなり
いいんだが、精神年齢は光喜と大差ないのかもしれない。
「よくよく考えると、あいつのこと何も知らないんだよな」
だが、それ以上に分からないのが最後の一人だ。夜に魅入られた者という意味
で名づけた魅夜だ。使い魔召喚の儀式に失敗して出て来た泥人形に魂を
込めた俺の使い魔だ。元は幽霊だったかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
自分の名前も分からなかったぐらいだから、過去の経歴なんて何も分からない。
ただ、最近分かったのはあいつは男を手玉にとって楽しむタイプということだ、腹黒
なんじゃないかなと思うときもある。
シャリーナとは仲が悪く、土でできているので水をかけられるとドロドロに溶け出す。
ミヤの過去を調べるときに、悪魔召喚とそれの犠牲者、そして、一人の行方不明者
の記事を見つけたが関連性は不明のままだ。
今ミヤについて分かっているのはこれぐらいだろう・・・。
「こうして考えると、個性が強い奴しかいねぇな」
といっても、俺も十分個性が強いと思うがな。未成年で酒と煙草はあたりまえ。
無免許運転に、チンピラとの喧嘩は絶えない。一部では最強の魔術師と呼ばれ、
呪いと幻術を得意とする。
絶対に勇者にはなれないタイプの人間だ。
なぜかトラブルや謎が尽きなくて困っている。
「そういえば、今日の朝もあの夢を見たな・・・」
尽きない謎の1つで、何度も同じ夢を見る。俺は真っ暗な水面の上に浮いていて、
水中には三つの大きな目を持った巨大なサメ、水面には女性が立っていて『私の
名前を呼んで・・・』といってくる、無論名前は知らない。
彼女が誰なのか、そして、なぜ何度も同じ夢を見るのか・・・。俺の深層心理に
聞いてみたいよ。
他にも謎はある。それは、エルルが拾った猫の首輪につけられたマジックストーン
のことだ。そのマジックストーンにはメッセージが込められてあり、『魔女狩り』という
組織の存在が判明した。
その幹部の名前も言っていたようだが、
『メシアの・・・と・・幹・・・の・・・ょうじ・・・ア・・・ゼパル・・・ェル・・・えん・・・めじ・・』
と、ところどころ抜けているのでさっぱりだ。
その魔女狩りは、一度俺とシャリーナに襲い掛かってきたことがあった。雑魚が
数名と体が岩みたいに硬い大男が一人、結局逃げられちまったな。
その時期だったかな、あのいけすかねぇ教師とあったのは・・・。
木戸 鏡志、俺が嫌いな奴。かなり腕のたつ魔術師らしいが、詳細は知らん。
できればもう会いたくないね・・・。
俺は煙草の煙を胸いっぱいに吸い込むと、一気に吐き出した。
「ふぅー、結局、何の整理にもならなかったな・・・」
俺の中の謎は謎のままらしい・・・。だが、このまま終わるわけには行かない・・・。
俺の復讐するべきあの男が、『魔女狩り』である可能性がある。
それに、最近戦った俺の能力を知っていたモンスター。『魔女狩り』もこちらを狙って
きているし、決着はつけなくてはいけないだろう・・・。
まぁ、とりあえず今は帰ることが先決だな・・・。
このままだと、光喜の朝飯の時間に間に合わなくなりそうだからな・・・。
自分自身のためにも、整理したほうがいいかな〜と思って書いた、総集編らしきものです。