観光地?
陽河家の集まりに行くのがイヤで悠夜は使い魔を作ろうとする。だが、光喜のせいで失敗し変わりに何もかもが不明な少女が完成。
少女にミヤという名をつけて、とりあえずは家に置くことになったが、翌朝になり、エルルとシャリーナが来ると、主にミヤとシャリーナの女の戦いが始められた。
イチ、サン、マル、マル時。要するに午後1時。誰が言ったのかはよく分からんが、恒例
のダンジョン探索に出かけることになってしまっていた。俺としては徹夜明けなので惰眠
でも貪りたい気分だったのだが、俺の意見はことごとく全て却下された。
まぁいいさ、どうせいつものことだ・・・。
「それで、今日はどこにいくんだ?」
桃源郷か? 竜宮城か? それとも、鬼ヶ島まで鬼退治に行くのか?
「メアちゃんに教えてもらったダンジョンだよ」
エルルが爆弾発言を言ってくれる。えっと、メアが情報源なんだな・・・。お前たちはそれ
でいいのか?
「ふぇ? なんで?」
光喜は素で俺に疑問を返してくる。あのメアだぞ、とんでもないボケボケ空間に連れ込まれるか、
モンスターが360゜囲んでいるような場所という可能性が非常に高いということに何故
気付かないのだ。
「ナスはなるよ!!」
シャリーナがぐっと親指を立てて言う。
「はぁ?」
ナスって、茄子か? 茄子畑なんていきたくねぇぞ。
「シャリーナ・・・成せばなるじゃないかな?」
エルルが控えめに言うと、「別にいいのよ」とかいいながら、シャリーナはエルルの両頬
をつねっている。さすがエルル、シャリーナの通訳に関しては神の域に到達しているようだ。
2人のやり取りを見ていると、ミヤが寄ってきて壁にかけていたコートを差し出してくる。
「ではマスター、行きましょうか」
ため息をつきながらコートを受け取ると、のんびりと羽織ることにする。使い魔に仕切られ
るなんて、俺も堕ちたな。
ふと、シャリーナの目線が俺に向けられているのに気が付く。いや、正確には俺の傍にい
るミヤにだな。
「新人は荷物もちって決まってんだからね、とっとと働きなさいよ!!」
荷物なんてあったのか、そして、誰がそんな決まりを決めた。人差し指をピンと立てていう
シャリーナのことを、ミヤは鼻で笑ってさらに俺に近づく。
「私はマスター以外につくすつもりはありませんから」
堂々宣言しながらシャリーナを睨むミヤ、そして、睨み返すシャリーナ。
「・・・・ダンジョンに行くんじゃないのか」
俺の傍で視線をバチバチと火花が散るほどにぶつけ合うのはやめてくれ、ハッキリ言って
いや、控えめに言っても迷惑だ。
「ハイ、マスター♪」
「あ、あんたに言われなくてもそのつもりよ!!」
2者ともそれぞれ違う反応を返してくれる。このパーティーが果てしなく不安だ・・・。
その後、メアに紹介されたダンジョンに向かう道ではシャリーナとミヤの喧嘩が耐えなかった。
時々、エルルが仲裁しようとしていたがあえなく失敗。失敗したエルルが俺の隣に並ぶと、
ほぼ100%ミヤが突っ込んできて喧騒が俺にまで来る・・・。
ともかく、ミヤは俺の隣から離れるつもりはないらしい。
そして、たどり着いたダンジョン。
「普通だ・・・」
「普通だね〜」
「普通ね・・・」
「普通ですね」
ちなみに、誰のセリフかいまいちわからんので解説すると。上から俺、光喜、シャリーナ、
ミヤだ。まぁ、そんなことはどうでもいいとして・・・。
「み、みんなメアちゃんを信用してあげようよ・・・」
エルルが苦笑いしながら言う。いや、これは驚くだろ・・・。そのダンジョンは地下へと繋
がる古い遺跡のようだ。ちなみにダンジョン名は、『堕落の宮殿』。旅行誌にも載っている
有名なダンジョンだ。まぁ、そんな有名なダンジョンだと宝箱が空の場合が多いんだけど
な。今日はあるかな・・・。
なぜか分からんが、ダンジョンでは定期的に宝箱の中身が補充されている。
誰がなんのために補充しているのかは知らんがありがたいことだ。
一行がダンジョンに一足踏み入れたとき、なんとなく妙な気配を感じた。周囲を見渡して
みる。俺の目が捉えられる範囲内には誰もいない。
「どうかした?」
光喜が立ち止まった俺に尋ねる。ミヤは「大丈夫ですか〜」とかいいながら、くっついてく
る。邪魔だ、集中できんだろ!!
「いや・・・なんでもない」
俺は適当にその場を流すとスタスタと歩いていく。気のせいかもしれんが、警戒しておい
て損はないだろうな・・・。
しばらく歩き、特におもしろいイベントもなく進んでいく。途中モンスターが数匹出て来た
気もするが、弱い、ダサい、つまらないの三拍子そろったような奴だ。
「きゃっ!! 光喜君が落とし穴に」
エルルの声がダンジョンの中に響く、そんな警戒心ゼロの奴ほっとけ、いつか自分で
上ってくる。とか考えながらも、本気で見捨てていくわけには行かないのでその場で
止まっていると、前方の暗がりから何かが蠢くのが聞こえてきた。
その唸り声は鼓膜をジンジンと刺激するほどに大きく、大気が揺れるのを肌で感じる
ことができるほどだった。
「おいおい・・・まさかと思うが・・・」
そいつは四足歩行で歩いてくる。ノシノシやパカパカというファンシーな足音ではない、
ガシャガシャという金属音をたてながらこちらに近づいてくる。
そいつが接近してきて奴の姿がハッキリ見えたとき、唖然とした。メアがなんでここを
人に勧めたがるのか分かる気がする。
馬のような下半身と人間の上半身、身長は俺の3倍ぐらい。そして、馬の下半身にある
はずの毛並みが見えないほどに体中に覆われた黒い鎧。兜の中から覗く赤い眼はギラギ
ラとした光を放ち、右手には3メートルはあると思われる青龍刀のような剣。
「ケンタウロスか?」
思わず疑問が口から出る。俺の知っているケンタウロスはもう少し小さいし、鎧なんて着
てないし、武器は弓で光属性の神獣のはずだ。こいつはどう見ても、黒騎士といったほうが
近いだろう。こんな悪魔がいるっていう話は聞いたことがあるが、魔力の感じから見て悪魔
ではないようだ。
まずいな、この狭い通路だと奴の攻撃をかわすのが困難になる。
「お前ら、走―――」
俺がいいかけたとき、床にあいた穴が目に入る。そうだった、あのバカがまだ穴の中だっ
た!! 仕方ない、足止めするしかねぇか・・・。俺が敵に向き合うと、敵は馬鹿でかい剣を振り
かざそうとしていた。させるかよ!! 俺は奴の目を見て幻術をかけようとする、だが、その一瞬
で敵は自分の腕で目を隠した。
「な・・・バカな!!」
幻術は失敗し、剣はそのまま振り下ろされた。だが、俺のすぐ後ろにいたシャリーナが前
方にでると奴の巨大な剣を受け止める。普通の人間なら潰されているだろうが、シャリーナ
には重量を操る能力がある、剣の重さを軽くすれば・・・。
そう安心した瞬間だった。
えっ!?・・・シャリーナはその場に膝を折り、今にも潰されそうになっている。俺は神経を
研ぎ澄まし魔力の流れを探ると、剣にかけられた魔法が吸収されているようだった。
「ちくしょう、魔力吸収系の能力か!!」
俺がもう一度幻術をかけようとすると、またアイツは目を隠した。俺は目を隠している腕に
殴りかかったが、その腕力に振り払われてしまう。床に激突する刹那に体勢を立て直し、敵
の様子を見る、よし・・・アレに気付いていない。
「ぐぉおおおおおおおお!!」
ケンタウロスはシャリーナを押していた剣で空を切り始めた。幻術にうまくかかってくれたようだ。
その間にもエルルはミヤが光喜を引き上げていた。よし、このまま一気に・・・。
そう思ったとき、ケンタウロスの剣が黒い光を放ち幻術を解いた・・・いや、幻術に使われていた
魔力を吸収したといったほうが正しいだろう。
そして奴は、こちらに向き直る。そして、また、剣を振り上げたときに魔力の弾丸のような
ものがケンタウロスを襲う。ダメージはほぼゼロ、だが、奴の動きは驚くほど鈍くなっている。
「さぁ、今のうちに!!」
魔力の弾丸を放った本人である光喜が、一番に奴の足元を走り去る。光喜の時間操作の
魔力を固めた物を奴にぶつけてスピードを落としたようだ。
全員が奴の背後に回りこんだとき、奴のスピードが通常のものに戻った。
また、あの剣か・・・。
俺たちは、奴から距離が十分とれる広い場所を探して走り出した。
「お兄ちゃん、さっきどうやって幻術かけたの?」
エルルが走りながら俺に尋ねる、光喜の時間操作は16秒、シャリーナの重量変化はほぼ
0秒それに比べて、俺の幻術は40秒は効果を持った。今一番有効だったのは俺の幻術だろ
う。エルルもそれを理解して尋ねているようだった。
「いつもは目を合わせて、視覚を通して幻術をかける。だが、さっきのは持っていた煙草に火
をつけて投げつけ、煙の匂いで嗅覚を通して幻術をかけたんだ。」
普段は使わない奥の手って奴だな。無論、他にもあるが自分の技をペラペラと喋るほど、
俺は口の軽い男ではない。
俺が淡々と説明していると、エルルは何か考え込んでいる様子だ。数秒後に、エルルの
顔が上がりどうやら俺と同じ結論にいたったようだ。アイツは、なぜか俺のもしくは俺たち
全員の能力を知っている可能性がある。
目を合わせて幻術をかけようとしたとき、それを事前に知っていたように目を伏せたのが
それを物語っている。。
だとしたら、ただの魔力の弾丸のダーク、魔力を直線に放出するダークバスターも
読まれている可能性がある。まぁ、読まれていなくてもあの剣に有効とは思わんがな。
そんなことを考えていると、丁度よさそうな場所に出る。サッカーでも十分にできそう
な広さの部屋だ、ところどころ壁だったと思われる瓦礫があるため、2〜3つの部屋
だったが壁が壊されて1つの部屋になっているのだろう。
「それじゃあ、どうするの?」
エルルが迫ってくる敵を見ながら言う。まったく、あのモンスターに入れ知恵した奴が誰かは
知らないが俺を誰だと思ってるんだ、その程度の対策じゃこのパーティーは誰一人止められない
ってこと教えてやるぜ。
なんとなく敵を出したかったんです。ファンタジーだし、ファンタジーらしいことしたいなぁ〜みたいな。
そろそろ、物語のおさらいを入れないといけないかな〜みたいなことを考えつつ、1番の悩みは、このあとがきに書くことが全然ないという現状でした。