悪の組織?
シャリーナと魔法の修行していた悠夜たちを襲ってきた犯人を追いかけていくと、廃工場にたどり着いた。
そこには、数人の犯人グループがいたが、悠夜はすぐに片付けてしまう。
だが、新たに現れた大男は悠夜を殴り飛ばし、幻術も防ぎ少々の苦戦を強いられていた。
コンクリート作りのはずだった床からは分厚い岩の壁が現れ、俺の攻撃を簡単に防いでしま
った防ぐ。普通の岩の壁なら貫くことも出来るだろうが、岩の純粋な強度に魔力による強化が
加わり、鉄壁の防御というか、岩壁の防御を誇っているというわけだ。
「こうなりゃ、数で勝負だ!!」
俺は岩壁のサイドに回りこむと黒い魔力の球体を小さめに作る。でかく作るよりスピードが速
くなる気がする・・・。まぁ、そういうことで一発目を放つと、すぐに別の角度からもう一発、さらに
もう一発といろんな角度から撃ってみる。結果はというと、敵を囲むように次々と現れた岩の壁
に防がれてしまった。
「・・・・・・」
無言のまま立ち尽くす大男。無言は通り過ぎると嫌味になるということが今日分かったよ。も
うすぐ怒りがMAXになりそうだよ。
そんな状態だというのに、男は岩壁の一端を掴み取ると投げてくる。メジャーリーガーもビック
リなスピードと球威で石つぶては迫ってきた。なんとか回避すると、俺を通り過ぎた石つぶては
廃工場のただでさえ隙間風の多そうな壁に巨大な風穴があいた。
というか、さっきの銃弾よりも速い剛速球って何んだよ!? 人間の腕力の限界を知っているのか!?
ちなみにこの世界はそんなものはないがな。
「って、なに!?」
後ろの壁に気を引かれていた隙に、目前というところまで石つぶてが無数に迫っていた。距離
的に防御用の魔方陣は間に合わないし・・・。ガード・・・。回避・・・。いや、どれも無理だ!?
左肩、右脇腹、左目上、右ひざ、最後に鳩尾に鈍くも引き裂かれそうになる衝撃が走る。骨が
軋む音とあまりの威力で石つぶてが砕ける音が聞こえると同時に俺は吹き飛ばされた。
壁にあいた風穴から俺は外へと飛ばされ、地面をゴロゴロと転がっていく。木の幹が自分の腰
の少し上に衝突した勢いでようやく俺は制止する。体がまるでシャチホコのような曲がり方をした。
普通死んだな。もしくは、背骨が砕けて動けないだろう・・・。ファンタジーの世界でよかった〜魔
力で身体強化ができるおかげで死は間逃れたよ。
「ぐっ・・・・・」
だからって痛くないわけねぇだろうが、カッコ怒マーク、みたいな状態だよこら!! アイツぜってぇぶ
っ殺す、お子様には見られないような残虐ファイトでもしてやろうか。
「アンタ大丈夫!?」
激痛にうなっていた俺の頭上から、しばらくぶりに聞いた声が聞こえる。一瞬、もうお迎えが来ち
まったのかと思ったぜ。そこにはシャリーナが俺を見下ろすように立っていた。
「俺を見下すんじゃねえ・・・」
「見下してないわよ、いいから状況説明しなさい!!」
シャリーナが命令口調で言う。俺は悲鳴を上げる体にムチを打ちながらも立ち上がった。さてと・・・
奴を倒すためには・・・。
「よし、行くか・・・」
俺はシャリーナに指で顔を近づけろと合図する。不思議そうな顔で近づいてくるシャリーナに耳打
ちした後、俺が飛ばされてきた穴からまた廃工場の中に入っていった。
さてと奴はいったいどこへ・・・。
「・・・・・」
居たよ。最初の定位置から1歩も動いちゃいねぇし。
「舐めやがって・・・行くぜシャリーナ!!」
俺はそういうと小さな黒い球体を幾つも作り無作為に放つ。まぁ予想の範囲内の出来事だが全て
の攻撃は防がれる。奴の周りを岩の壁が取り囲む。人間は日々成長していくもんだぜ、バカの1つ
覚えみたいなガードしやがって。
俺は斜め上に手をかざすと、岩壁に当たるか当たらないかのすれすれの高さに巨大な魔力の球
体を放つ。シャリーナはそれを合図にして俺に近寄り、俺の腕を掴んだ。
俺とシャリーナは魔力をシンクロさせていく。すると、俺の放った黒い魔力の球体が少しずつ赤み
を帯びていく。
「「死にさらせぇー!!」」
俺とシャリーナがそう言った瞬間、俺の魔力の球体に重量というものが生まれる。そして、岩壁に
逃げ道を奪われたその男の頭上にそいつは落ちた。爆音と爆風が吹き荒れ、積み上げられた廃材
たちは吹き飛び壁や天井を崩していく。壁を失った工場の砂埃はすぐに晴れる。
シャリーナは2・3歩前に出ると奴のいたところを覗き込む。
「ま・・・まぁ、私がいたんだからこんなもんよね〜」
声が震えてるぞ。想像以上の破壊力になったようだな。俺はいつの間にやらなくなっていた煙草
に気付き、新しい煙草を出して口にくわえる。まさか、これほどの強さになるとはな・・・。
俺たちの目の前にはクレーターが出来ていた。巨大なクレーターとなった元工場の床を見る。そ
こには岩や瓦礫などはあるものの人影は見えなかった。いや、砕けたジェイソンの仮面や奴の服な
ら残っているな・・・。
「あの一瞬で逃げたのか・・・」
俺はそう呟くと、残りのザコたちの行方を捜した。
右見て・・・左見て・・・もう一度右見て・・・敵影なし。まったく、どうなってやがんだよ・・・。
俺は深いため息を突きながら煙草を落とし、踏みにじって火を消した。
「私のおかげなんだから感謝しなさいよね」
俺の心境など無視してシャリーナが誇らしげに言う。まったく、光喜並みにお気楽な奴だぜ。
「ありがとよ・・・」
「えっ・・・・?」
シャリーナがハトが豆鉄砲を食らったような顔で俺を見ている。
「ありがとうって言ったんだよ」
俺は自然な笑みでハトさんに言ってやる。明らかな動揺を見せた後、顔を赤らめて俺に背を向け
た。恥ずかしいなら威張るなよ。
「あ・・・あたりまえじゃない、これから何かおごってもらうんだから・・・そうね、草団子でいいわよ」
俺を見たり目線を逸らしたりを繰り返しながらそういうシャリーナは珍しくもかわいく見えた。
「地味だな・・・・」
「地味って言うなー!!」
ちなみに、事後報告をするとだな・・・。シャリーナは何の修行もしちゃいないし、エルルは光喜のわが
ままな気まぐれに振り回され、修行にならなかったようだ。
結論。エルル以外は期末試験の結果は最悪となった。結局は骨折り損っていう奴だ。さらに追伸を加
えるとしたら俺のあばらは2本ほど折れていて、文字通りの骨折り損となったのだ・・・。さらに追伸の追
伸を付け加えさせてもらうなら、ファンタジーの世界なのでその傷は2日後には完治した。
って、こんな事後報告は実はどうでもいいことなんだな、一番重要なのは光喜たちの期末試験につい
ていったときの話だ。
「それで、その大男の特徴とは?」
薄暗い教室にいる鏡志がそういった。俺はあのメッセージが込められた魔石を鏡志に見せたあと、あ
の戦いの話をした、生理的にこいつは嫌いだが魔法使いの裏事情や行政について一番詳しいのはこ
いつだろうからな。
「分からん、マントや仮面で自分のことを徹底的に隠していたからな・・・」
俺がそういうと、鏡志は少し考え込んだ。
「最近、魔法使いが失踪したり、謎の死を遂げる事件がいくつかあるようです・・・」
やっぱりか・・・。魔女狩りという組織は存在すると考えて間違いないだろう・・・。俺はそれだけ聞くと
魔石を持って歩き出す。
「もう遅いですし気をつけてください」
冬ということもあり、まだ早い時間だが十分に外は暗かった。
「大丈夫さ・・・今夜は聖夜だ、こんな日には襲ってこないだろう」
「フフッ、そうでしたね、今日はイブですか」
鏡志が薄気味悪い笑い方をしながら俺を見送った。鏡志の最後の言葉を思い出しつつ、雪の降り始めた空
を見上げた。
今日はイブか・・・。
正月になっちゃいましたね〜。クリスマスの時期の話だったのに。
次はお正月の時期の話なんですが、その話が完結する頃にはまた正月が終わって新学期なんでしょうね〜。人間、計画性が大事なんですね・・・。