第4話「魔法の試験」
寒さも一層辛くなってきた時期の他愛もない?日常の出来事。
昨今では気温もだいぶ下がってきたが、一方でカップルがイチャイチャと熱さを増してくる時期。
そう、クリスマスという名のイベントだ。そして、俺の周りでも毎年、年甲斐もなくサンタクロースを
信じはしゃぎ続ける光喜が・・・。てなことはないんだなこれが。年中無休でうるさい光喜が静か
になってくれるわけではないが、盛り上がるわけでもない、いうなれば現状維持している状態だ。
なぜこういうことになっているか、答えなんて簡単だ。クリスマスというのも元々キリストに関連
した聖なる行事だ、だが、この世界にはキリスト教はないし、キリストも歴史上存在しない。そりゃ
そうだよな、俺たちから見たらキリストは異世界人なんだからよ。
そう毎年、この時期は何事もないかのように過ぎていった。俺は今年も年末は家でゆっくりとで
きると思っていたのだが・・・安寧というものは簡単に音を立てて崩壊するものらしいな。
「い・・・いくよ」
光喜が汗を流しながら真剣な顔をしている。俺はリビングのソファーに座りながらその様子を見
ているのだが、俺と光喜との間には念のために防御用の結界が張ってある。少し離れた場所で
は、エルルとシャリーナが見学している。
「聖なる炎よ我は望む、今こそ文明への灯火へとなれ!!」
光喜が足元においてある紙に書かれた文字を読んでいく。すると、光喜が両手を前にかざすと
プスッという小さな音を立てて両手から煙が出て来た。
「ふぇ〜、なんで〜」
光喜が紙を恨めしそうに見ながら言う。紙は悪くないぞ。コイツが唱えていたのは炎属性の魔法
の中でもかなり低等な奴だ、魔力の素質さえ合えば幼稚園児でも打てるかもしれないな。まぁ、光
喜に炎の素質があるとは思っていなかったが、なぜ煙だけ出るんだ? 普通は何もでないか、炎
が出るかの二択なんだぞ。
「ある意味才能かもね」
「シャリーナ、そんな言い方しなくても・・・」
シャリーナの言葉を咎めたエルルは、シャリーナの両手によって柔らかそうな頬を左右に引き伸
ばされる。俺はそっちの方を無視して光喜のほうを向いた。
「別にいいじゃねぇか、お前には炎の素質がないだけなんだからよ」
「よくないよー!! 次の試験で1つでも多くの素質を見せておきたいんだもん!!」
コイツが言っているのは学校の試験のことだ、まぁいわゆる魔法学校というやつだな。ここでよう
やくでたのでお前ら学生だったのかよと思いの方もいるだろう、そうだな、まずは魔法学校の制度
を教えておかないといけないか・・・。
そもそも魔法とは素質がないとどうしようもない。俺は闇の素質はかなりあるが逆に光の素質は
皆無に近い、なので、闇の魔法は練習しなくてもドンドン使えるようになるのだが、光の魔法はどん
なに練習したって無駄といっていいほど伸びない。そんなかんじなので万人に共通の魔法の授業
というものを受けさせることなど不可能なのだ。
だからこそ、魔法学校というものは塾や習い事のように任意で受けるものであって決して義務で
はないのだ。
俺は基本的な魔力の使い方だけ習うと後は飛び級を繰り返し、9年の課程を3年ほどで終了させ
今はもう卒業した。光喜は7年目だが、この7年間の授業は全て基礎魔法と光属性の授業のみ。
他の授業は素質がないために受けることが出来なかったのだ。
「絶対来学期からは授業増やすんだから・・・」
光喜はそういいながら新しい炎の呪文を探し出す。光喜が言うようにもうすぐ期末テストがある。
魔法学校の期末テストでは基礎学力・魔法学・薬剤調合の他に実技試験があり、この実技試験
の結果により次の学期からとれる授業の種類と数が変化してくるのだ。
「―――いでよ炎の精よ!!」
光喜がそういったとき、手の平からは真っ黒なすすが噴出しただけだった。
「炎の素質がないんだから仕方ないって・・・」
俺が言うと光喜がぷくっと頬を膨らませる。
「おかしいよ〜、悠夜には炎の素質もあるのになんで双子の俺にはないの〜!!」
知るか。俺にはお前が持っている光属性がないように、双子だからって素質が同じとは限らない
んだよ。
「でも悠夜は10個以上素質があって、俺は2個なんてズルイよ〜」
光喜がバタバタと手を動かしながら言う。再度言う知るか。
まぁ俺には、闇・呪・幻・氷・雷・炎・水・空・風・地・癒・樹の12の素質がある。ちなみにだが普通自分
の素質を言うときは得意なものから順番に言うものだ。
それに対して光喜の素質は、時・光の2つだけだ。しかも時の素質は非常に珍しいため授業が存
在していないので独学で学ぶしかないのだ。
「こ・・・光喜君はきっと他の素質があるんだよ、別のも練習してみたら?」
エルルが光喜にフォローを入れる。確かエルルは樹・炎・水・風・地・癒の6つある。まぁ俺の数を紹
介したあとだからピンとこないかもしれないが、7つというのは超エリートだ。ただ、使える魔法が多くても
魔力の少なさがたたってかいまいち役にたったことはないがな。
ついでだから、シャリーナは地・雷・炎の3つ。この場にいないタケシにいたっては鋼だけである、しかも、
タケシの鋼は鋼属性の中でも特殊なものらしく授業がない・・・。なのであいつは魔法学校には基礎学だけ
学びに行っている。
「ふぇ〜! でも、やっぱ炎ってかっこいいじゃん♪」
光喜がのんきに言う。お前はマジメにやるきがあるのか・・・。
「仕方ないわね・・・私が直々に地属性の魔法を教えてあげるわよ!!」
シャリーナが胸を張って言う。お前はいつから人を教えるほど成績が優秀になったのかね? 確か使える
魔法の種類は光喜と大差なかったと思うぞ。
「というわけで、エルルは悠夜から氷か雷を習いなさい!!」
シャリーナが命令口調でエルルに言う。エルルはビックリしたように肩を吊り上げてあたふたとしている。
「え・・あ・・で、でも、私には素質がないし・・・今ある素質を伸ばすほうが・・・」
「じゃあ伸ばしてもらいなさい」
じゃあってなんだじゃあって。エルルはしどろもどろしながら俺とシャリーナを交互に見る。光喜は「地属性
って地味っぽいからやだ〜」とかいいながら絨毯の上でゴロゴロと駄々っ子のようにのた打ち回っている。
「お前な・・・俺らで教えあうより、俺らがお前らをそれぞれ教えるほうが効率がいいだろうが」
俺が言うとシャリーナは不機嫌そうに俺を睨む。何が納得いかないんだよ。シャリーナはその後エルルの
方を見る。
「あ・・・私は・・・その、悠夜お兄ちゃんの言うとおりだと思う・・・けど」
エルルがもじもじしながら言うと、シャリーナの不機嫌度はMAXに達したことが顔を見て分かる。その後、
一瞬ハッと何か気付いた表情をしたあと、にまぁとした笑みを浮かべた。何を考えたコイツは。
「じゃあね、今の現状を打破するべく、コーチのトレードを提案するわ!!」
シャリーナがニコニコ顔で俺に向かって言う。コーチのトレードということは俺がシャリーナを教えて、エル
ルが光喜を教えるということだな。
「なんでわざわざ―――」
「私は呪術の類が使いたいようになりたいのよ!!」
俺の意見などかき消すようにシャリーナが言う。なんだかお前に呪術を教えたくないのだがな。やたらめ
ったら人の記憶を消したり、人の心を操作して奴隷にしたり、妬ましい奴をカエルに変えたりしそうだからな。
「じゃあ決定ねダンジョンに行くわよ!!」
じゃあの意味が分からん、誰も賛成していないぞ。それになぜ場所を変える必要があるのだ。
「こんな狭いところでやったら危険だわ、私だったら5分で悪魔召喚まで到達しかねないからね」
えらく自信満々だな・・・だがな、悪魔召喚には呪術の素質以外にも闇属性と膨大な魔力が必要なんだぞ、
お前じゃ50年かかっても無理だ。
「それじゃレッツ・ゴー!!」
そして俺たちは流れに流されてダンジョンへと旅立った。なんでなんだろうな・・・。
なんか魔法についての云々がかなり出てきたが、特に覚えなくても支障はないと思います。
関係する出来事がある場合、可能な限りは簡単な説明を入れていきたいと思ってますし。
今回はエルルの影で薄くなってしまっていたシャリーナをメインにしたかっただけの話です。